第七雨-②

 いや、と笑う。考え込んでしまう地点で、もう既にそういうことなのだ。

「そうなのかもしれないね」

 そうですか、と相変わらず首筋に落ちた雨粒のように言う。あなたにこの傘は持たせませんよ、とでも言う風に傘の柄を握り直す。

「僕が言うのもなんだけど、相合傘ってかなり親密なものだ。それを誰とでもほいほいするのは危ないんじゃないかな」

「誰もいないよりはよっぽどマシです」

「本当に?」

「そうだって言ってますよね。何なんですか。今すぐ先輩を雨の中に残して行くことだってできるんですよ」

 そこでまた気付く。僕がこんなことを言いたくなったのは、彼女の傘に誰も彼もが簡単に入ってほしくないと思っているからではないか。

「僕は、それでもいいと思うよ」

 道端の家の雨樋を通ってびしゃびしゃと落ちる雨水が足にかかる。そういえば僕は、いつも歩道側を歩いていた。

「二人で雨に打たれてもいいと思ってる」

 何言ってるんですかと馬鹿にするように息で笑う。でも、気付いてほしい。向き合ってほしい。

「だって、君が傘に入れたいのは君の親友だけだ」

 君が蓋をしている、一番大切なもの。

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