第七雨-①

 梅雨入り宣言がされたのはいつのことだったか。先週のことだったような気がする。連日の雨で、すっかり彼女の傘に入ることに慣れてしまった。お互いの歩調もわかってきた。今日は会話が少ない。彼女も雨音だけを聞いているようだった。それを壊してしまうのに罪悪感を感じつつ話しかける。

「今日も入れてくれてありがとう」

「私がしたくてしていることです」

「君は、」

 それが彼女を傷付けるとはわかっている。でも僕は尋ねたい。

「君は、本当に誰かを傘に入れたいの?」

 どういうことですか? そう言いたげに眉をしかめる。ちょっとした仕草でも何を言いたいかわかる関係だというのに、僕は彼女の名前を知らない。彼女も僕の名前を知らない。

「知らないおじさんでも、僕みたいなのでも?」

「先輩が自分をどんな奴だと言いたいのかわかりませんが。下心でもあるんですか?」

 そう言われてふと考え込む。ざあ、と駅へ向かうバスが僕らの横を通り過ぎた。

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