第六雨-②
と、
びしゃ。
「う、わ」
足元の水溜まりに気付かず、足を突っ込んでしまった。靴下がじんわりと気持ち悪く湿る。彼女はと言うと、水溜まりを華麗に避けていた。ついでに僕が足を突っ込んだ時の水しぶきも避けていたので全くの無傷だ。しかも僕を若干雨の中にとり残して一、二歩先でくすくす笑っている。笑っているところなど初めて見た。傘の中へ戻って言う。
「……いい性格してるね」
「よそ見をしている方が悪いんじゃないですか」
雨音の中、彼女の小さな笑い声がころころと転がる。ふうと落ち着かせて、こちらを見た。
「お詫びに、理由を教えましょうか」
彼女の声は、まだ少しだけ楽しそうだ。でも、教えてもらえるのなら願ってもないチャンスだ。頷く。彼女は今にも傘の骨の先から落ちようとする雫を見上げて語り始めた。
「私、親友がいたんです。いや、別に過去形にしなくてもいいですね。小一からの付き合いなので親友になって十年経つ頃でしょうか。高校になって初めて離ればなれになりました。クラスが同じだったのは小学校での二年間だけでしたが、中学では部活や委員会が同じでしたし、一緒に学校へ行き来していましたので、本当に離れてしまったのは初めてです」
「その子はどこの高校へ?」
「県一の進学校です」
そして僕らは、県二の高校。
「君の成績は? 偏見だけど悪そうには見えない。この高校でもいい方なんじゃないの?」
「ええいい方です。中学ではなれなかった総合三位以上にもなれました」
「中学の時も悪くなかったんだ」
「良くて四位止まりでしたけどね」
それでも十分あの高校に入れそうなものだ。雨のような会話が続く。
「でも君は選ばなかった」
「はい。入ろうと思えば入れたでしょう。でもその後も付いていけるかと問われれば? 順位が下になるなんて、私のプライドが許しませんでした。もちろんそれだけが理由ではありません。いえ、それがぱっと浮かんだ理由でしたが。この先は後から付け足した理由です。……彼女といつまでも同じ道を歩むことはできない。寄り沿ってきた二つの道は、遅かれ早かれ離れることになります。だったら、慣れておくことも必要ではないか、と」
彼女の声はもうしっとりと湿っていた。
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