第五雨-③
「ありがとう、お陰で濡れないで済んだよ」
「このハンカチ、洗ってお返しします」
「大丈夫、電車を降りたら少し走るから、きっとまたハンカチを使うことになる」
はは、と一人で愛相笑いをする。
「でも君は肩を拭かなくていい? 左肩びしょびしょだけど」
「いつものことです、もう慣れました。私は三番線なので、これで失礼します」
ちょうどよくアナウンスが電車の到着を知らせた。彼女はまた、迷いのない足どりで去って行こうとする。今日はありがとう、と改めて言おうとして、はっと思い出した。
「よかったらなんだけど名前は?」
振り返った彼女の黒い瞳が僕を射抜くように見る。
「おもしろくもない名前です」
そしてそのままホームへと駆けて行った。足取りも声も動作も、迷いない。でも、僕から見える彼女は真っ直ぐで、迷いだらけだ。
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