第五雨-①

 今日はまったく雨に打たれてしまった。怪しいとは思っていたが、学校からここまでの一瞬に降られてしまうとは。ハンカチを持っていてよかった。リュックや肩を拭く。

 ひたり。

 顔を上げた。

「私の傘に入りませんか」

 雨垂れのような声が静かに響く。

「……うん。傘を忘れたんだ。いいのかな」

「はい」

「ハンカチ、使う?」

「じゃあ、少し」

「ちょっと濡れてるけど」

 彼女の折り畳み傘はどう見たって一人用で、二人で入ればそれこそ肩が濡れてしまうだろう。でも彼女がこの雨の中傘をささずに歩くよりはいい。まったくの他人とはいえ、女子が雨に打たれるのを見るのはいい気分がするものではない。

「傘、僕が持とうか。身長的にも」

 僕の身長は高くはないが、小さめの彼女がさすのでは少し大変だろう。

「ありがとうございます。でも、私に持たせてください」

 どうやら強い拘りがあるらしかった。

「リュックと髪、どちらを濡らしたくないですか」

「え?」

「リュックを守るのと髪を守るのでは傘のさし方が違うんです。でも髪を守るさし方だとリュックが少し濡れてしまうので」

「君は? 君はどっちがいいの」

「私はいいので、どちらがいいですか」

「うーん、じゃあリュックかな」

 そう言うと彼女は眉を少し動かした。

「違う方がよかった?」

「あ、いえ、もう濡れてますし、帰りなので。もうどうでもいいです、髪は」

 もし次があったのなら、次は髪を守るようにしてあげようと思わせるような雰囲気だった。

「先輩はどちらまで」

催花さいか駅までだけど、君は? あの駅に行く人、この高校じゃあまりいなかったと思うけど」

「私も催花に行くのでそこまでですね」

 彼女が傘を広げて、一足先に雨の下へ出る。差し出された傘に入った。

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