第四雨

 雨。

 お影で雨の日は彼女のことばかり考えるようになってしまった。バスを待つにはいい小ネタだ。今日もまた近付いてきた足音に、ささっとイヤホンをしまう。実を言うと今日は傘を持っていない。雨に打たれる彼女はいくらなんでも可哀想すぎる。目が合ったら、「傘を忘れてしまった」と言おう。いや、正しくは「折りたたみ傘をわざと家に置いてきた」のだが。どこかドキドキしながら、唇を湿らせた。彼女の迷いのない足が、僕の視界に踏み込む。

 え。

 僕の口から零れた声は、軒から落ちた雫か、彼女の足音か、さあさあと降る雨音か、遠くから聞こえてきたバスの音かに掻き消されてしまった。

 彼女は傘をさしていた。バス停へ走りながら一度振り向く。妙な傘のさし方をしているように見えた。身体がすっぽり入る大きさの傘を片手でさしていたが、左肩だけ雨に当たって濡れている。彼女が傘をさしているのは驚きだったが、その傘のさし方もまた独特だった。きっとあのさし方が、彼女の求めているものと関係するに違いない。バスの中から見ようとした彼女の顔は、傘に遮られて見えなかった。

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