第三雨

 雨が降る。

 今日は朝から雨だったため母に傘を押しつけられた。

 私の傘に入りませんか。

 そう言った彼女の声は、イヤホンをしていたにもかかわらず凛としているのがわかった。でも、それでいてどこか悲しげ。何度か高校内で彼女を見かけたが、特に変な所はない普通の女子高生に見える。周りよりはいくらか大人びているようだが、決して他の女子から遠巻きにされているとか、そんな風には見受けられなかった。

 ぴしゃん、ぴしょん、と足音が近付く。彼女は今日も傘を手にして歩いていた。僕は口をきゅ、と結ぶ。それから軽く息を吐いた。

「君」

 彼女がひたりと足を止める。

「風邪をひくよ」

「……いえ」

「でも、傘はさした方がいい」

「私はこの傘に一緒に入ってくれる人を探しているだけですので」

「じゃあ、僕が入ろうか」

「先輩はもう傘を持っています」

 紫色の唇は迷いなくそう言う。静かに礼をして、彼女はまた雨の中を歩いて行く。彼女の声は今日も凛と澄んでいて、そのくせ雨と共に融けてしまいそうに脆い。彼女はなぜ、傘の中に隣を求めるのだろう。

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