【第二十四話】一歩前進! 城に向かう道中で……?!


 ジェシアの血を使い、全ての魔女の魔力消失を目論む城。

 その野望を阻止することを決意した近藤たちと、それに協力することを誓ったラッド・ネアとユージ。

 五人は各々三手に別れて作戦に取りかかった。

 なんとかジェシアを奪還したは良いものの、女王・ジュベルに阻まれ、近藤は、致命傷を負ってしまう。

 残りわずかだと思われていた近藤の命は、アピトの治癒魔法によってなんとか繋ぎ止められた。

 ジュベルを倒す鍵となるのは、“魔法を際限なく使う方法”。

 そしてついに、その原理を理解した近藤。

 魔法を際限なく使えるようにするために、近藤とアピトは城へ向かう。



 近藤とアピトは城に向かっていた。


 日はもう既に暮れ、ブローレの街は夜の装いになっている。

 二日前に城が“テロリスト”の襲撃を受け半壊したばかりだ。夜に出歩く者の姿は見えなかった。


 辺りは一種の不気味さを感じるほど静まり返っている。

 聞こえてくるのは互いの呼吸と、足音のみ。

 アピトは体力の回復していない近藤にあわせてゆっくりと歩いていた。


「なぁ」


 夜の静けさに耳が慣れてきた頃、近藤が口を開いた。

 近藤の声にアピトはわずかに反応を示した。


「アピト、蹴り付けよう」


 遮るもののない大通りでは近藤の声はよく響く。

 肯定ともとりにくい微妙な間が二人の間に流れる。

 近藤はその間を埋めるように言葉を続けた。


「お前、何にビビってんの?」


 予期していない質問だったのか、アピトは目を丸くした。


「ビビる?」


 その純粋な質問は、まるで言葉の意味を尋ねられているようにも感じられた。

 しばし考える間を開け、アピトは目を伏せて笑った。


「……さぁ。私にも分からんよ」


 その微笑みは、なにか不思議なものを含んでいた。

 諦めや悲しみなんていった言葉じゃ表しきれない、不思議なものを。


「そっか」


 近藤は曖昧な相づちしか打てなかった。

 自分から話を振った癖に、これ以上詮索する術が分からなくなってしまったのだ。


 なんて言おうとしていたのか。言語を司る脳の部位だけするりと落っこちてしまったみたいに言葉が続かない。


 辺りはまた静寂を取り戻した。

 近藤は静寂を破ることを諦め、のろのろと足を動かしながらアピトの横顔を眺めた。


 月の色にも負けないブロンドの髪が風になびく。

 小麦色の肌に、真っ黒な瞳。スラリと伸びた手足も、肉付きの良いバストも、美しいと思うには見慣れすぎてしまった。

 しかし、目を反らすことは出来ない。


「あぁ、でも」


 アピトの口がわずかに動いたのを、近藤は見逃さなかった。


「強いて言えば君かな」


「俺?」


「あぁ」


 アピトは本当に小さく頷いた。

 思わぬ返答に思考の奥へ潜ろうとしていると、彼女は嘘だよと呟いた。


「怖いものなんてないさ。私は、最強だからね」


 そう言ったアピトの笑顔は、最強と言うには弱々しいものであった。


「……関係ねぇんじゃねぇの?」


 もっと気の効いた言葉が出れば良かったが、あいにくこぼれ落ちたのはなんの変哲もない言葉だった。


「そうかな?」


「多分」


 作戦や説明なんかはさらさらと口から溢れてくるというのに、こういうときの言葉は中々出てこない。


「いや、えーと、そうじゃなくって」


 なんとか言葉を繋ぎながら、次の言葉を用意した。

 急かされてもいないのになぜか焦燥感に駆られる。

 言いたいことを半分くらいまとめたあたりで、近藤の口は動き出していた。


「あのさ、お前がいくら魔力が操れようと最強だろうと嫌なもんは嫌だろーし、怖いもんは怖いんじゃねぇの」


 アピトの真剣な視線が、じっと近藤を見つめた。

 大それた言葉なんて持ってない近藤は、気まずさから下を向いた。


「だから、なんつーのかな……ヤバい時に支えてくれる奴が必要なんじゃねぇの」


 最後の言葉は尻すぼみなっていった。

 近藤は、アピトの様子を確認する余裕もないまま、ただ返事を待った。


 アピトを支えたいなんて、口が裂けても言えなかった。


 冷たい風が目に染みる。

 少しの間、二人は黙りこくった。

 そして、近藤がもう喋らないと気付くとアピトはゆっくりと口を開いた。


「もう充分、君に救われているよ」


 アピトが吐き出したのは、どこか遮断の色を持った言葉。


 アピトにとっては慰めの言葉だったのかも知れない。

 しかし、近藤にとっては聞きたくない言葉であった。


 知らず知らずに足が止まった。数歩遅れて、アピトも止まる。


「誰を救うとか、救われるとか話してねぇんだよ」


 ゆっくりとダムが決壊した。

 こんなにも鈍い動きですら、止めることが出来ない。

 一度声に出してしまえば、その先がどうなるかなんて分かりきっているのに。


「支えようったって分かんなきゃ支えらんねぇだろうが」


 不満やら愚痴やらが沸々と沸き上がってくる。


「なにが救われてるだ? 俺はお前が考えてることなんかなんも、分かってねぇんだよ。


俺はキリスト像か何かか? 拝まれるだけでお前を救えんのかよ。んな訳ねぇだろーが。


俺は神じゃねぇんだ。分かんねぇから心配すんだよ」


 こんなことを伝えたかった訳ではない。それでも、言葉は止まらない。


「何でもかんでも一人で背負い込んで、俺と一緒に生きてぇんだろ?


それは一人が死ぬより苦しい思いしてんのを、もう一方が知らんぷりすることで成り立つ共存か?


くだらねぇ。対等にいたいって意味分かってんのか?


俺がなりたい対等は壁一枚挟んで真横に突っ立ってるだけの対等じゃねぇんだ!


隣じゃなくて良いから肩掴んでやれる対等が良いんだよ……!」


 キレてどうする。

 そう気付けるほど冷静になった時には、思っていたことの半分くらいは口に出していた。


「あー……だから……」


 相変わらずの短気に頭を抱える。

 本当はもっと、慰めるつもりでいた。

 優しくアピトの恐怖を取り除き、もう大丈夫だと。

 それも、今となれば理想論だ。どれほど無謀なものだったか。


「……何か言えよ」


 それでも、理想というのは追ってしまう。

 なんとか誤魔化そうとフォローにもならないフォローが口から出てきた。


「君がずっと喋ってたんだろう」


 アピトは久々に、あの朗らかな笑みをみせた。


「馬鹿だなぁ」


 花が咲くわけでも、特別目を引く美しさを感じるわけでもない。

 ただ、人を安心させる笑顔だった。


「知ってる」


 安堵。

 一番最初に来た感情はそれだ。しかし、次いできたのは羞恥心。

 気恥ずかしさに負けてそっぽを向いても、アピトの笑い声はまだ聞こえてくる。

 こんな真夜中に似合わない笑い声だった。


「前に……私にただ人を救ってろって言ったな?」


 アピトは散々笑うと不意にそんなことを口にした。


「……覚えてねぇ」


 なんて言ったが、頭はすぐにその日の情景を思い出す。


「嘘だな」


 アピトの声は責め立てるものではなかった。それどころか、どこか嬉しそうな声であった。

 だからこそ、忘れたふりをしたのだが。


「あれは私に、人を救えるって教えてくれたんだろ?」


 アピトは、口だけは尋ねる形をとっていたが、その様子は確信を持っていた。


「さぁな」


 近藤は雑な返事をした。

 あくまで忘れたふりをする近藤に、アピトは頑固だねと笑った。


「覚えてねぇんだから仕方ねぇだろ」


 と言うと、また子供のように無邪気に顔をほころばせた。


「本当か?」


「しつけぇな」


 顔を覗きこもうとするアピトを追い払う。

 アピトは近藤の周りをうろちょろと回りながら覚えてる癖にやら演技下手だの声をかける。

 近藤はしばらくあしらった後、無視モードに入った。


「絶対言った」


「言ってねぇ。思ってただけだ」


 そう言った後に、失敗に気付いた。

 これじゃあ忘れたふりをした意味がない。

 どうやら自分でも気付かない間に、ずいぶんと機嫌が良くなっていたみたいだ。

 アピトは鬼の首を取ったように笑うと『ほれ見たことか』と声を張った。


「あの言葉、すごく嬉しかったんだ」


 あんまり素直に言うもんだから、ちょっと拍子抜けした。

 拍子抜けしながら、あの言葉が原因だったのかとも、思ったりした。


「その力ってのは、度量の方だぜ」


 今更勘違いを解く必要もないが、気分が良いので話してやろう。

 どうせ、また忘れたふりをしてもからかわれるだけだ。


「度量……?」


「そ。人のためにどんだけ頑張れるか」


 それが人を救う力があるということだ。


「強くなくても、人は救える」


 あまり大きな声ではない。

 しかし、いつもよりもはっきりと口を動かした。

 近藤がアピトの方へ首を向ければ、二人は自然と向き合う形になる。


 それは、たまたまなんかではない。

 明確な意思をもってアピトと目を合わせる。

 真っ直ぐな視線が痛いほど絡み合った。


「それでもどうしてもお前が強くなくちゃならねぇなら、俺がお前みてぇに弱く居てやるよ」


 近藤は言い終える寸前に、アピトの帽子を顎の下まで引っ張った。

 帽子はアピトの頭を飲みこみ、手を離すと勢いよくアピトの顎を叩いた。


「なにするんだっ」


 思わぬ攻撃に、アピトはオーバーに体をはねあげた。


「なにやってんだよ!」


 帽子から顔を抜こうともがく姿があまりにも馬鹿らしくって思わず声が出る。


「こっちの台詞だ!」


 アピトは帽子から顔を出すと怒っていると言わんばかりに足を踏んだ。


「いっ! ってぇ」


「気が収まらん」


「ごめんって」


 なんて怒った癖に、しばらくすると肩を震わせ笑っていた。


「笑ってんじゃねぇか」


「君の間抜け顔にな」


 二人は顔を見合わせるとほとんど同時に吹き出した。

 皆寝静まった夜だというのに、遠慮なしにケラケラと笑う。


 普段はそんな笑い方なんて絶対しないと言い切る近藤も、今回ばかりはケラケラと声をあげた。

 ひとしきり笑った後、アピトはため息と共に呟いた。


「……君と一緒に居ると、私が最強であることを忘れてしまうよ」


「だったら、ずっと一緒に居てやんねぇとな」


 アピトはその言葉を聞いてまた笑った。

 だが、さっきのような笑い方ではない。多く息を含んだ大人の笑い方だ。


「なぁ、コンドウ」


 風にまぎれて、アピトの声が聞こえた。


「私を救ってくれるか?」


 あまりにも繊細な微笑みを消えてしまいそうだと言うが、この微笑みはそんなもんじゃなかった。

 そこに居ることが不思議なくらいの柔らかい笑み。

 だからこそ、近藤は力強く頷いた。



「少し、昔話に付き合ってくれ」

 アピトはそう言うとぽつりぽつりと語りだした。



 私が子供の頃は、父と母との三人暮らしでね。ブローレでも城に近いところに住んでいたんだ。


 小さい頃から魔法が使えたもんだから、よく褒められていたよ。

 でもね、子供の小さい体で魔法を使いすぎると体力が持たないんだ。それで、魔法が暴走してしまうことが多くてね。


 レーベルの母には、いつも世話になっていた。


 レーベルの母はとても優秀な医者だったよ。彼女にかかると不思議なくらいピタリと魔法が止まってしまう。

 でも、結構大雑把でね。私に鎮静剤を打つと、家で寝れば良いって帰してしまうんだ。


 ……私はいつもそれが嫌でね。

 だって、鎮静剤を打った夜は必ずと言って良いほど高熱にうなされるんだ。


『それは暴走しようとする魔法と鎮静剤が戦ってるからだよ』


『良くなる前兆だよ』


 なんて言われたけど、やっぱり熱は苦しいじゃないか。


 毛布にくるまってしばらくすると、段々頭が痛くなって来て、体がダルくなってくる。


 そうするともう寝れなくなってしまうから、私はどうしようもなくなって母を呼ぶんだ。

 そうすると、母がやってきて私を寝かしつける。


『夢の中で鳥が待ってるよ』ってね。


 その鳥は夢の世界を案内してくれるんだ。夢の中は不思議なものがいっぱいでね。母は夢の中の不思議なものを一つひとつ紹介していく。


 お菓子のなる木に虹色の月、お喋りな子犬……母の話を聞いているうちに瞼が下がって、もうちょっとで寝れそうってなると、父が来るんだ。


 父は部屋の入り口で『寝たか?』って。凄く小さい声でね。

 母が『寝たよ』と言うと、『そうか』と言って、しばらく入り口に居た後、部屋に入ってくる。目は開けてないけど、足音が聞こえるんだ。


 父は近くまでくると『よく寝てるな』なんて言ってね。

 だから私は『起きてるよ』って言ってやろうとするんだが、眠たくって口が回らない。

 そうやって格闘していると、気がついたら朝になっているんだ。


 朝にはもう熱は下がっていてね。私が熱を出した次の日は必ず父が朝食を作っていた。

 ライ麦のパンにビスケット、それと豚肉の入った野菜スープ。

 とても、幸せな家庭だったよ。


 あの日まではね。


 いつだったかな、いや、覚えてはいるんだけどね。

 私が10歳になった時だ。

 城の奴らがやってきてね、私の両親を連れてったんだ。


 私は家に一人で残されて、父と母の帰りを待った。

 最初は何がなんだか分からなかったよ。


 悲しくないと言うより、悲しめるくらい理解できていなかったんだ。

 一日、二日、三日と時間が経って、父と母が帰ってこないことだけが分かった。


 レーベルの家でご飯を食べさせてもらって、残りの時間は家で父と母の帰りを待つ。そんな日が、何日も続いた。


 そして、城から手紙が来た。


 手紙の内容は難しくって詳しいことはよく分からんかった。

 だが、最後の一文でハッとしたよ。


 処刑日が書いてあったんだ。


 どうやら私の両親は"マッドサイエンティスト"だったらしくてね。

 私の体を改造して、魔力を大量に溜め込めるように人体改造したらしい。

 ホムンクルス……だったけな。

 確か、そんなことが書かれていたよ。


 私は信じなかった。


 私の両親は誠実で慈愛に溢れた人だった。それは娘である私が一番知っている。


 そんなことするわけがないんだ。

 何かの間違いだって、城に言った。

 ブローレの街にも張り出した。

 だが、信じてくれる者は居なかった。


『両親に人生を狂わされた哀れな子供』


『彼女は度重なる調教で、両親を盲信するしかなかった』


『両親が死んで、呪縛から解放されればきっと、自分の境遇が分かるさ』


 皆、私の気持ちを分かってくれる人は居なかった。

 誰一人としてだ。

 それでも、私は希望を捨てなかった。

 いつか皆、真実を知る日が来ると信じていたのさ。


 処刑の日、私は一番乗りでギロチンの前に行った。


 そこで準備を進める騎士に間違いだと、処刑を中止するように言ったんだ。

 そうしたら、その騎士は私のことをとても哀れんだ目で見てね、『もう大丈夫だ』と言って私を外へと連れ出した。


 何度言っても同じことで、処刑の時間は近づいてくる。

 私はなりふり構わず叫んで、泣いて、訴えたんだ。


『父と母はそんなことしていない』と。


『誰か助けてくれ』と。


 でも、そう簡単に運命は変わらなかった。

 私は、群衆の中に混ざって父と母の首が落とされるのを見た。


「今考えれば、魔力の高い母を消したかったのだろうね。勘違いしていたのは……私の方だった」


 アピトは話し終えると、ぼんやりとそんなことを言った。



「怖いんだ」


 アピトは声を絞り出すようにして呟いた。

 その声は、風の音にすら負けてしまいそうなほど細かった。


「どうしようもなく怖いんだ」


 アピトの体がふらりとよろけた。必死に立とうとすればする程、体が震えて立てなくなる。

 近藤はアピトの頭を掴むと、自分の胸に押し当てた。


「大丈夫」


 なんの根拠もない慰めしか言えなかった。

 近藤はひたすらアピトの髪を撫でた。『大丈夫』『大丈夫』と繰り返しながら、アピトの呼吸が整うのを待った。

 アピトは荒い呼吸の中で、声にならない悲鳴をあげた。


「大丈夫だから、今のうちに吐き出せるもん吐き出しとけ」


 そう言うと、アピトは近藤の胸に自分の額を押し当て泣いた。

 嗚咽も涙の音も、外に漏れでてしまわぬように噛み殺しながら。


 辺りはとても静かだった。

 風が落ち葉を散らす音も、虫の羽音も、自分の呼吸でさえ、別世界のことのように思えた。

 二人の間にはなんの音もない。そんな静寂が続いた。


「救えなかった」


 掠れた声が聞こえた。

 近藤がうんと頷くと、掠れた声はボソボソと話し始めた。


「また、大切なものを失うかも知れない」


「うん」


「私は、もう……失いたくない」


「うん」


「誰も、失いたくないんだ……!」


 心臓に針を通すような、そんな悲痛な叫びだった。

 近藤はアピトを支える手に力をこめた。


「ずっと、そばに居る」


 近藤は低い声で囁いた。


「ずっと、俺が居るから」


 こんなもの、子供だって言わない馬鹿げた約束だ。

 しかし、そう言わずにはいられなかった。


 アピトの腕が恐る恐る背中へ回された。

 服が引っ張られ、引っ掻かれた時のような小さな痛みを感じる。


「君は……居なくならないのか?」


 確かめるようなその声は、ただ安心を求めているだけのようにも感じる。


「あぁ」


「本当に?」


 近藤は不安がる子どもをあやすようにとびきり優しい声で頷いた。


「俺は俺の意思でお前のそばにいるんだ。誰も邪魔出来ねぇよ」


 それが例え真実でなかろうと関係なかった。

 アピトが信じ込んでくれさえすれば、それは二人だけの真実となる。


「そうか……それなら、良かった」


 アピトはそれだけ言うと、近藤の胸に体重を預け、なにも言わなくなった。

 まるで眠ってしまったみたいに、規則的な吐息の音だけが聞こえてくる。


「お前、重いな」


 沈黙を破ったのは近藤だった。


「重てぇ。マジで重てぇ」


 近藤はそう言うと、アピトの体を支えながら地面に座った。


「俺は重くて立ってらんねぇから一回休憩な」


 石畳は驚くほど冷えていて、尻に鳥肌がたつ。

 近藤ですら冷たく感じるなら、アピトは尚更だろう。


 アピトの服は近藤と比べるまでもなく圧倒的に薄い。

 近藤は、アピトの尻の下に足をねじ込み、座布団代わりになってやった。


「さみぃな」


「……ありがとう」


 近藤は軽く微笑むと、アピトの肩を抱いた。


「よく頑張ってたな」


 近藤はアピトの帽子を奪うと、地面に置いた。マントを緩め、ハイヒールを脱がす。


「疲れたら気が済むまで休憩しようぜ。歩きだすまで待っててやるから」


 近藤の言葉に、アピトはもう一度掠れた声で礼をした。

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