【第十二話】潜入開始! 女騎士と悪魔の喧嘩コンビ……?!
突如として女しかいない世界へと飛ばされた不良少年・近藤武蔵。
この世界の女は、魔女と呼ばれ、男の精を絞ることで、魔法と呼ばれる不思議な力を操る。
近藤が最強の魔女・セーレ・アピトの元で暮らすようになってから数週間。
とある事件が起きた。
魔女の魔力消失。
その事件の解決に乗り出した近藤たちは、ユギルの協力を得て、ジアルキア公園に辿り着く。
そこで待ち受けていたのは、魔女の魔力消失の黒幕・タダノ、小俣、フォーランの三人。
彼らは「魔女のいない世界をつくる」と言う。
現在、タダノたちに返り討ちにされたアピトは魔法を失い、死の瀬戸際を彷徨っている。
一方、近藤はある決意を胸に、タダノを追ってクイエラに到着した。
◇
『西の王都とも呼ばれていた、クイエラがたった一日で戦場へと変わり果てました。
クイエラの騎士と王都の騎士との衝突が原因との話も入ってきていますが、依然として全体は掴めておりません。
一体、クイエラに何が起こったのでしょうか。
えー、また、住民などの被害も未だ明らかになっておりません。
近隣住民の皆さんは、安全確保のため速やかに避難をしてください。
悪魔が巻き込まれたとの情報も入ってきています。
繰り返します。
近隣住民の皆さんは__……』
▽
クイエラの都市は思ったよりも栄えていた。
街に流れるラジオを聴く限りだと、王都の騎士はまだ到着していないらしい。
今のうちに多田野を見つけ出さねば、城との三つ巴は流石に望んじゃ居ない。
が、一口にクイエラの中に居ると言ったってクイエラだってそれなりに広い街だ。簡単には見つからない。
話を聞こうとも思ったが、契約が済んでない悪魔なんて絶好の餌だ。
今魔女に声でもかけてみろ別の話が始まるぞ。
せっかくユギルのところへ行ったのだから地図でも貰えば良かったと思うが、後悔先に立たず。
仕方なしにブラブラと足を進めていく。
まぁでも、近藤もただ考えなしに歩いているわけではない。
ちゃんと目星は付けている。
探すのは王都の騎士が向かう場所。
厄介なことに多田野たちは場を掻き乱して身を隠すのが上手い。
だからこそ、多田野たちの後を馬鹿正直に追うのでは姿が掴めない。
先回りするのだ。
あいつらの目的は城だ。
つまり、城の奴らが居るところに多田野も現れる。
簡単に城の奴らの集まりそうな場所といっても範囲はあまり狭まらないが、王都の騎士に少人数で大ダメージを与えられる場所と考えれば選択肢は自ずと狭まってくる。
候補は三ヵ所。
一つ目は結界付近。
軍がクイエラに来た理由は結界の警備だ。
確実に城の軍を狙える上に、外ということもありトラップも仕掛けられる。
二つ目は駐屯地。
ここも確実に城の軍が集まる場所だが、城のテリトリーでもある。
可能性としてはやや下がるだろう。
三つ目はラグアドレク通り。
クイエラの中でも群を抜いて大きな通りであり、駐屯地までの道として使われることが多い。
軍の進行具合からして恐らくこの道を使うだろうが確信はないため、待ち伏せするにはリスキーだろう。
近藤は、城とタダノが接触する前にタダノを見つけ出さなければならない。
ここで選択を間違えれば、城とタダノの抗争に近藤一人で特攻していくことになる。
「どーすっかな」
王都の騎士が来る時間も迫ってきている。
あまりゆっくり考える時間もない。
が、流石に手がかりが少なすぎる。
ここは無難に結界付近へ行ってみるか? なにか手がかりがあるかも知れない。
いや、手がかりを探して帰ってくる頃には王都の騎士もここに着いているだろう。
一体なにが正解なのか。
「……ん?」
近藤を思考の波から引きずり出したのは、足音だった。
体育祭の時によく聞く揃った足音。
その音に顔を上げると、目の前には騎士たちが綺麗な行進を披露していた。
どこか遠征でも行くのか。ご苦労なこった。
魔力消失の原因解明に加えて新たな業務まで……そこまで考えて気が付いた。
可笑しい。
今から王都の騎士が来るというのにこんな大部隊を引き連れて遠征なんか行くだろうか。
もしそんな指示をする指揮官が居ればそいつは間違いなく馬鹿だ。
それがヒントになった。
つーか、もうほぼ答えだ。
タダノたちは駐屯地に居る。
どうやったかは分からないが、クイエラの騎士を外に追いやったのだ。
そうと分かれば駐屯地に向かうのみ。
近藤は騎士たちの流れに逆らって、駐屯地を目指した。
▽
駐屯地は思った通り蛻の殻であった。
近藤は誰にも咎められることなく玄関、ロビーを過ぎ、オフィスの廊下のような場所を歩いていく。
どこを歩いても人影すら見当たらない。
となると、クイエラの騎士たちは全員外に出たのか。
一体どんな手を使ったのだろう。
やっぱ集団催眠とかなのだろうか。ロマンあるな。
誰も居ないとは分かっていても、足音は殺して歩いてしまう。
辺りが静かすぎるせいか、布の擦れる音、息を吐く音、小さな物音ひとつがうるさく感じる程、近藤の耳は敏感になっていた。
そんな警戒度最高潮の耳が音を拾った。
女と男の声だ。
どうやら目の前の曲がり角に居るらしい。
多田野の仲間か?
生憎この廊下は一本道。
左右にドアがあるが、開ける音で気付かれるだろう。
なら、迎え撃つしかない。
元々そのつもりで乗り込んできたのだ。今更怯える必要はない。
拳を握りしめ、臨戦態勢にはいる近藤。
足音と話し声は段々大きくなってくる。
「ホントお前無責任! あり得ない!」
「ごめん! だけど気にしてたら前には進めないぞ! 過ぎたことは過ぎたこと! 忘れ去れ!」
待って。お前らなに喧嘩してんの。
しかも男。怒られてんならちゃんと反省しろよ。
「きゃあぁぁ!」
「おや、侵入者か! 腹の奥からこんにちは!」
廊下に悲鳴と挨拶が響き渡る。
いやいやいや。挨拶独特すぎるだろ。
そんな冷静なツッコミをしつつ、近藤も近藤で少し驚いていた。
別に独特な挨拶されたことに驚いた訳じゃない。多少は驚いたけど、そこじゃない。
「騎士……?」
金髪のふわふわの髪を一つに結わえ、騎士の甲冑に身を包んだ女。
その横にはがっしりとした体格の茶髪に赤メッシュの男が朗らかな笑顔で挨拶をしている。
まさか、このタイミングで城の奴らの方と出会うなんて、ついてない。
「いきなり現れないでよぉ。ボク死ぬかと思った……」
「人間そんなことでは死なないものさ!」
比喩だよ。
さて、この気持ちをどうやって戦闘へと持っていこうかと思った矢先、女の方が口を開いた。
「ねぇ、もしかして君、オマタクン? ごめんね! ボク、ドニアットと会えてなくって情報回ってないんだよね。
作戦変更は知ってるんだけど、ドニアット、もう探しに行っちゃったんだって?
工口がさっき報告するからさぁ」
「え、あ。はい」
思わぬマシンガントークに面食らったが、どうやらこの女、俺のことを小俣だと勘違いしているらしい。
なんか知らないが、敵対視されてないようなのでラッキーだ。
それにしても、態度が可笑しい。
確か、小俣は城から逃げたんだよな? こんな穏やかに出迎えられるか?
しかも、ドニアットって、フォーラン・ドニアットだよな?
「ねぇ、ドニアットから話聞いてる? 取り合えず、クイエラの騎士たちは王都の騎士を迎え撃ちにいったんだけど……。
ってか、オマタクンが居るなら、ドニアットも帰ってきてるよね?」
「あ……いや……俺も詳しくは……」
「え? 一緒に帰ってきてないの?」
「あ……はい」
「じゃあまだ探し物してんの?! もう! 酷くない?!」
女騎士は共感を求めるように近藤の手を握る。
近藤が小俣ではないことなんてことは露知らずに、すっかり気を許してくれたらしい。
「大体さ、ボクたちが城に潜入してからドニアットたち全然会えなくなっちゃうし。
そりゃボクとドニアットたちの関係がバレたら不味いのは分かるよ。
けどさ! 連絡手段が文通だけって! あり得る?!
今日だってフォーランに会えると思って楽しみにしてたのにぃ」
色々不満があるらしい。
普段だったら愚痴なんて殴ってでも聞きたくないが、今回は殴らなくて正解だ。
近藤の中にあった妙な違和感は確信へと変わった。
こいつらは多田野の仲間だ。
恐らく、この日のために城に潜入していたのだろう。
一体何年越しの計画なのか、話しぶりから相当長期戦だったことが伺える。
こいつが言ってることが正しいのなら、タダノはクイエラの騎士と王都の騎士をぶつけて、弱ったところで魔力を奪うつもりなのだろう。
用意周到もここまで来れば病的だな。
「キャロン! 話は終ったか?」
「まだまだ全然話足りなーい!」
「そうか! じゃあ、一つだけ言わせてくれ!」
「後にしてよ」
「こいつは敵だ! 以上!」
「へ?」
この挨拶馬鹿、気付いてたのか。
まぁ、侵入者かって叫んでたもんな。
だが、こいつらの素性が分かった以上別に小俣のフリをし続ける必要はない。
「なんで先に言わないんだよ! 馬鹿!」
「見て分かるだろう!」
「ボクはお前のせいでオマタクンに会えてないんだよ!」
よく喧嘩する奴らだな。
ここから俺らが学ぶことは、報・連・相の大切さだろう。
「あーもう。話しすぎちゃったからちょっと眠ってて貰わないと」
「自己責任だな!」
この女、チェミィ・キャロン。
城に潜伏していたタダノたちの協力者である。
そして、この男、工口透。
キャロンの悪魔であり、共に城に潜伏していた仲間である。
「ごめんね。恨むなら工口にしてね!」
「なんでだ?」
キャロンが工口に触れると蔦が廊下を覆う。
大魔法か。
実際に目にするのは二回目だ。
蔦はまるで生き物のように蠢き、近藤に襲いかかる。
近藤は蔦に足をとられないよう気を付けながら逃げ惑う。
流石。潜入していたとはいえ、騎士は騎士だ。
一筋縄じゃいきそうにない。
だが、近藤にも策がないわけではない。
近藤は蔦を掻い潜ると、キャロンたちに背を向け、近くの部屋の中へと逃げ込む。
「あ! 逃げるなよ」
逃げるなって言われて逃げねぇ奴はヨユーな奴だよ。
悪いが近藤にはその余裕はない。
「まぁ逃げても魔法で開けちゃうんだけどね~」
「壊すんだろう!」
キャロンたちの笑い声が、ドアの向こうから聞こえてくる。
次第に大きくなる足音がドアの前でぴたりと止まる。
今だな。
と、近藤は部屋から飛び出しタックルする。
いきなり飛び出てきた近藤に、魔法を打ち出す余裕もなく、二人は雪崩れるようにその場に倒れる。
これが近藤の戦闘スタイル。魔法を使う前にタックル。
卑怯でもなんでも好きなだけ言うが良い。俺には魔法が使えねぇんだからこれでドローだ。
「さて」
近藤はキャロンの腰から剣を抜き、突き立てる。
もちろん、工口は踏みつけておく。
「多田野の居場所、知ってるか?」
「あー……それってさ、知ってても言うと思う?」
剣に込める力を強めると、工口が足元で暴れた。
「キャロンを殺すか?」
「それしかねぇなら」
工口の体格は筋肉質で、がっしりしている。まぁ、いわゆる体育会系だ。
この体勢でも、油断していれば形勢逆転もあり得る。
投げ飛ばされる前に足をその首へ移動させる。
いくらがたいが良くても急所は急所。
工口の顔が少しだけ青白くなる。
「どうする? 言うか、死ぬか」
「なぁ……君には矜持があるか? 正しく勝つということに対するプライドはあるか?」
首を踏まれているというのに、工口の声量は変わらない。
それどころか、その顔には笑顔を浮かべている。
「……ねぇよ」
「そうか! それならなにも言うまい!」
「工口……っ!」
キャロンの叫び声、そして、銃声。
撃たれた。
そう認識する前に、腕に鈍い痛みが走った。
近藤はキャロンの手に剣を突き刺すと、工口の顎を蹴り上げ、拳銃を奪った。
「ぅ、あぁっ」
「次は切り落とすぞ」
工口の首もとにかかとを落とす。工口の笑顔は苦しそうに歪み、軽くむせた。
「俺は正義のヒーローごっこで来たんじゃねぇ」
キャロンに刺さった剣を抜くと、見たこともないくらい派手な赤が飛び散った。
「俺は、俺のために誰かが犠牲になんなきゃなんねぇなら、笑顔ではいどうぞだ。
てめぇらも同じだから分かんだろ? 自分の願望のために他人がどうなろうと関係ねぇ。
なぁ、自分たちが同じ仕打ちを受けた時だけ文句言うとか、くそダセェぞ」
二人を見下ろしながら近藤は淡々と口を動かす。
イライラする。
こいつが笑ってんのも、あいつが助かろうともがくことも。
全てが気に障る。
懐かしい煩わしさが腹の中で胡座をかいた。
そうだった。
自分さえ良ければそれで良い。
近藤はずっとそうやって生きてきた。
だから、友人なんか出来なかった。
両親も、近藤のことを諦めていた。
近藤もそれでよかった。
なのに、なんであいつらは、あいつは……アピトは、俺に手を差し伸べてくれたのだろうか。
アピトと出会って、人のために動くことも悪くねぇと思えてきたって時に、お前らのせいでまた独りよがりになっちまったじゃねぇか。
「はやくしろ。てめぇの悪魔の首が折れるのが先か、ゲロるのが先か」
キャロンの口は開かない。ただ、悔しそうに顔を歪めるだけだ。
人の命の上に立っているという感覚は正直気持ち悪い。
しかしその反面、その命を消すことに迷いはなかった。
罪でも良いのだ。アピトが生きててくれるなら。
もう一度催促しようと口を開きかけたその時。
脇腹に鈍い痛みを感じた。
銃とはまた違う、体に広がるような痛み。
思わずよろけたその隙を、見逃して貰えるほど甘くはなかった。
キャロンは呼吸の整わない工口を引っ張り出すと、飛ぶように後退した。
脇腹を押さえつつ、なんとか銃を撃つも、素人のもんだ。当たるわけがない。
あっという間に距離をとられ、臨戦態勢に入られる。
「凄い顔してるよ。君」
「……フォーラン・ドニアット」
攻撃をしてきたのは、フォーランか。探し物しててここに居ねぇんじゃねぇのかよ。
フォーランが産み出した氷は、丁度近藤の脇腹を抉っていた。
「どーも。冷静になれたわ」
近藤は氷から離れ服を脱ぐと、傷口に当てきつく縛った。
「フォーラン、ボク……」
「怪我、大丈夫? 後は私がやるから」
キャロンはか細い声でうなずく。
状況は最悪だ。二人は手負いだとはいえ、三対一。それに、フォーランの手にあるのは……。
「グリモワール」
「知ってるんだね。博識じゃん」
「知ってるもなにもお前らのせいでそれを盗んだ馬鹿がいるんでな」
頭が冴えてくれば冴えてくるほど傷口が痛む。
何だか頭もグラグラしてきた。はやめに蹴りをつけなきゃな。
「君が倒れる前に教えてあげるよ。ここにタダノはいない。無駄足だったね」
「おー、サンキュ。次はどこに居るか教えてくれる?」
▽
結果は目に見えていた。
行われたのは戦闘と言えるものではなく、ほぼ一方的な攻撃。
頭痛、吐き気、目眩。
腕はやられたか? 足は平気か? この痛さが傷の痛みか、内側から来る痛みかも分からない。
しっかりしろ。
グリモワールを奪っちまえば後はぶん殴るだけだ。
何度気合いをいれても意識が飛びそうだ。
「ねぇ、私たち、君を殺すつもりはないんだよ」
フォーランの攻撃は先程から止まっている。
情けか、余裕か、何だろうが都合が良かった。グリモワールを奪うチャンスなのだから。
だがどうした? さっきからちっとも体が動かない。
立つだけで精一杯。あれ? 俺立ってるよな?
あー痛ぇな。体全体が痛ぇ。
ここどこだ? 何しに来たんだっけ。
ヤベェ。ほんとにヤベェ。意識が定まらない。
なんか、眠いな。
「死んだの……?」
「いや、息はあるぞ!」
「ほんとだ……意外としぶとい」
「人間は思ったより丈夫だからな!」
「フォーラン、止め刺さないの?」
「……そうだね」
首に当てられた剣の冷たさがどんどん遠退いていく。
死ぬのか。
そっか。呆気ないな。
ほんと、呆気ないし、情けない。
アピト、ごめん。
死後の世界ってのは生きてる世界とすっかり変わるのかと思っていたが、あんまり変わった感じがしない。
固い床に埃の臭い、なんなら、まだ遠くの方でフォーランたちの話し声みたいなのが聞こえる。
あぁ、俺、まだ死んでねぇのか。
「え……?」
耳は死ぬ直前まで聞こえるなんてよく言ったものだ。
体は全くといっていいほど動かないが、声ははっきりと聞こえてくる。
「なんで……?」
なんでって、俺が聞きてぇよ。
なんで俺はまだ生きてんだ?
殺すはずじゃなかったのか?
「なんで……君がここに……」
君が、ここに?
なんのことだと考える暇もなく、上から声が降り注いだ。
「何でだろうな。私が一番不思議だよ」
この声。
途端に意識が覚醒していくのが分かる。
甲高いハイヒールの音は近藤のすぐ横で止まった。
「アピ、ト……?」
「やぁ、コンドウ。酷い有り様だな。死ぬなよ」
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