【第十一話】終点到着! 列車で行くは最西端の地・クイエラ……?!
突如として女しかいない世界へと飛ばされた不良少年・近藤武蔵。
この世界の女は、魔女と呼ばれ、男の精を絞ることで、魔法と呼ばれる不思議な力を操る。
元の世界へ戻るためには向こうの世界とこちらの世界を分断する結界を破壊する必要がある。
最強の魔女・セーレ・アピトの協力のもと、魔力について調べる日々。
そんな中、とある事件が起きた。
魔女の魔力消失。
その事件の解決に乗り出した近藤たちは、ユギルの協力を得て、ジアルキア公園に辿り着く。
そこで待ち受けていたのは、魔女の魔力消失の黒幕・タダノ セイジ。
タダノはカラリマの悪魔・小俣みる、そして、魔女・フォーラン・ドニアットを連れ、「魔女のいない世界をつくる」と言う。
現在、タダノたちに返り討ちにされたアピトは魔法を失い、死の瀬戸際を彷徨っている。
一方、近藤はリベンジマッチを果たすべく、タダノの行方を追っていた。
▽
まず近藤はとある人のところへ向かった。
とはいえ、この世界に来て日の浅い近藤。力を借りにいく人など決まっている。
「気持ち悪ぃ。何でこんな階段なげぇんだよ」
「大丈夫?」
心配のしの字もないおどけた声。ふざけたメイド服。
そう。タカハシだ。
ちなみにメイド男のシキとナオヤもいる。
今から急いで行っても、体力のない近藤では、先にいった王都の騎士には追い付けない。
そこで、タカハシたちの力を借りに来たのだ。
まさかたった二日でこの階段を二回も上るとは。もう二度と味わいたくない。
「で、ホントに送るだけで良いの?」
「まぁ、ヤバくなったらお前らもユギル守んなきゃなんねぇだろ」
「そうだけどねぇ」
全国的に魔力消失が起こっている今、ユギルもなるべく一人で居ない方がいい。
タカハシたちも、近藤を送り届けた後とんぼ返りする予定だ。
本当はファシスタも心配だが、近藤の見立て通りなら、魔女の居ない世界へ計画は第二段階へ入ったハズだ。
全勢力をもって城を迎え撃つ。
狙われる心配があるとしたら城の味方に回ると厄介だと思われそうな力を持った魔女たちだけだ。
たった15歳の幼気な少女は大丈夫……と信じている。
まぁもし狙われてもアピトの魔力が暴走していれば迂闊に近付いてくることはないだろう。
「それで、クイエラだっけ? また遠いとこに行くねぇ」
「まぁな」
タカハシの言う通り。
向かうは西の都市・クイエラ。
なんでか知らんが、城の奴らは城の軍の約三割をクイエラへ向かわせている。
クイエラといえば、近藤も知っている街だ。
この世界の最西端。結界がある街。
悪魔の反乱と聞いて、男たちがこの世界から脱出を計ったとでも思ったのか。
結界の警備を固めるために城から一番遠い結界の地、クイエラへと向かわせた。まぁ、あり得ない話ではないだろう。
難しいことは考える必要ない。
要するに、クイエラに行けばタダノに会える。
「ユギル嬢に頼んで他の子達も一応王都の騎士を追いかけて東西南北に飛ばしたけど、最西端まで行っちゃうと違ったときキツいかもね」
「安心しろよ。こういう勘は冴えてんだ」
「自信過剰で何より」
「てめぇ喧嘩売ってんだろ」
こういうのらりくらりとした奴とは馬が合わない。
大体、身長高いだけでイケメンって言われてんだろ。雰囲気イケメンめ。
と、先程から些細な喧嘩を繰り返しているこの二人。
こんな調子で行って王都の騎士に追い付けるかは些か不安だが、何しろ取って置きの抜け道があると聞いている。
今はそれに賭けるしかない。
「で、どこ向かってんだ」
「"駅"だよ」
「は?」
「歩きで行っても間に合わないでしょ? ユギル嬢が所有してる、"地下鉄"って言えば良いのかな?」
「マジかよ!」
最高!
ユギルの奴そんなもんまで作ってたのか。
なんだ変な奴とか思ってたけど良い奴じゃねぇか。
と思ったのが5分前。
前言撤回。
やっぱ変な奴だ。
駅へ着いてみるとそこにあったのは、列車なんて名ばかりのトロッコ。いや、台車のついた自転車。
しかもこの自転車、電動なんて便利な性能もない、ただひたすらにペダルの重い自転車。
唯一の救いは坂道がないことだ。
まぁ、よく考えればこの世界の列車なんてきっとろくなことにはならない。
運転席に裸体の男たちが並んで精を供給する……なんて言われた暁には想像するだけで軽く三回は吐ける。
自転車という健全な乗り物で良かったと思おう。
自転車は二台。
後ろのトロッコは詰めれば大人三人入るかな程度の大きさだ。
現在はじゃんけんで負けた近藤とタカハシが自転車を漕いでいる。
「ねぇねぇ」
どうやらタカハシはまだ喋る余裕があるらしい。
近藤も意地になって声を張る。
「あぁ?」
「勝算はあるの?」
「あったのにっ! 負けたんだぜっ! 俺ら」
近藤の自虐にタカハシはケラケラ笑う。人の心ねぇのかな。
後ろからシキとナオヤが気まずそうに咳払いをする声が聞こえた。上司に負けるなよ。
▽
「うげぇ……気持ち悪ぃ」
ものの数分でバテた近藤に代わり、今はシキがペダルを漕いでいる。はえぇ。
シキのメイド服から逞しい筋肉が覗く。そりゃハイヒールのかかとベコベコに折り曲げてるだけある。見事な筋肉。
「大丈夫か?」
心配そうに背中を擦ってくれているのは、ナオヤ。
ナオヤは近藤がトロッコに乗り込んでからずっと背中を擦ってくれている。
意外と世話焼きなのかもしれない。
「あぁ……もう大分良くなった。サンキュ」
「水飲もうか? はい。あーん」
そして定期的に水も飲ませてくれるのだが、これがとても恥ずかしい。
ユギルの扱いが癖になってるのか、元ホストだったのか、あーんだのごっくんだの言ってくる。ホストではねぇか。
ってか、さっき抗議したのに聞く耳持たねぇなこいつ。
「なんか、まだ着かねぇの……」
「まだ2、3時間は漕ぐよ」
タカハシの涼しい声に近藤は頭を垂れる。
「あ、近藤武蔵。僕にも水くれるかな?」
「おう」
タカハシに呼ばれ、近藤は身を乗り出して水を渡す。
その内心、久々のフルネーム呼びに学校の呼び出しを思い出しバクバクしていた。
なんか、心臓に悪い呼び方だな。
タメなのに様付けされると違和感あるからと、呼び捨てするように言ったら、なぜかフルネームで呼び捨てになったのだ。
そうじゃねぇよ。
タカハシは流れるように水を飲むとそのままシキに渡した。あまりに自然な動きにロードレースでもやってたのかなと思えてくる程。
何でもそつなくこなす奴ってなんか苛つくな。
「え、あ、ありがとうございます」
シキはワタワタしながら水を受け取る。
そうそう。漕ぎながら飲むとかしなくて良いんだよ。それくらいが丁度良い。
シキは水を飲み終えると、近藤に渡した。
「すみません」
「おう」
「あの……」
「ん?」
水を渡し終えた後、シキは前を向かず、近藤の目を見つめてきた。
安心しろ。恋愛は始まらない。
「多田野に会ってどうするんですか?」
タカハシが強めにシキの肩を叩いた。
「はい漕ぐ」
「あ、はい」
シキは前を向き直ると、またペダルを漕ぎはじめた。
なんとも言えないこの空気感。
それを壊したのは他でもない近藤だった。
「別に聞かれたくねぇ話でもねぇよ」
「すみません」
シキは小さく謝った。
「なんで謝んの」
近藤が笑うとシキは何か口ごもったが、車輪の音に掻き消された。
「狙いは"フォーラン"っていう魔女だ」
「フォーラン?」
タカハシが聞いたことないなと呟く。
それもそうだろう。アピトやユギルのような有名な魔女ではない。まぁ、情報通のユギルなら知ってるかもしれないが。
「ファシスタから聞いたから俺もよく分かってねぇんだが、どうやら毒の正体は"多田野の血"らしい。
その血をフォーランって魔女が注射器に変身して注入してたと」
「悪魔の血が魔法を消失させるなんて聞いたことないけど」
不思議そうに顎をさするタカハシ。
どうやら、魔力を消失させる血が気になるらしい。
情報好きなところも主人に似てるのか。
「詳しいことはわかんねぇ。だけど、分かることは何個かある」
まず、毒の量だ。
ファシスタがあの距離で血だって認識できるくらいの量。それは決して少ない量ではないハズだ。
そう。あの魔法生物じゃ足りねぇ。
いくら大きい蚊と言えど、流石に無理がある。
つまり、あの魔法生物はダミーだったということだ。
確かに、蚊が馬鹿みたいに大量発生してるのに魔力消失が起こった魔女が数十人で済んでいるというのは少し可笑しな話だ。
実際はフォーランが変身魔法で擬態し、対象者に近付いて、怪しまれないように打っていたのだろう。
タダノたちの目的は城の無力化。
そのために、城の兵力を大きく削ぐ必要がある。
だからこうやって城の注目を買い、自分たちのもとに兵力が集中するように画策している。
そんな中で、フォーランの変身魔法が見抜かれれば集中した城の兵力に押し潰されてしまうだろう。
魔法生物のばら蒔きは集客と目眩ましを兼ねた最高のパフォーマンスだったということだ。
「なるほど。それでフォーランを捕まえれば、多田野は動けないと」
「そう言うこと」
「よく考えてるな。えらい」
ナオヤが近藤の頭を撫でる。だからそれやめろ。
「だけど、大変じゃないですか。そんなの、一人で……」
シキはどうやら真面目な性格をしてるらしい。深刻そうな横顔が見える。
「俺たちも手伝いますよ」
「いや、いい」
「でも!」
タカハシがまた肩を小突く。
「……シキ。お前はユギルの悪魔だろ。
俺たちを助ける判断をして、ユギルがやられたらどうする? 後悔しねぇのか?
俺たちの問題の責任は俺たちが負う。
お前は、自分の問題の責任を負え」
シキは何か言いたそうにこちらを見た後、前を向き直って立ち漕ぎを始めた。
ハイヒールで立ち漕ぎはやめておけよ。
シキの返答の代わりに車輪の音が響く。
しばらく進むと、ようやくシキが口を開いた。
「それでも、近藤がやられたら、助けられなかったこと後悔すると思います」
「後悔させねぇ安心しろ」
そう言うと、シキは『なに言ってもダメだ』と笑った。
それから、少し大きな声で分かりましたと言った。
「何かあれば、言ってください」
「ありがとな」
こういう時だからこそ人の優しさは心に染みる。
感動する近藤にタカハシたちも言葉を投げ掛ける。
「シキ、よく面倒なことに首突っ込もうと思ったね」
「アンタな……」
「シキも良い子だったな。後で高い高いしてあげようか?」
「蹴るぞ」
死ぬぞ。
会話が終ったことを確信して、近藤はほっと息をついた。
別に、タカハシの心ない言葉は気にしてないからな。
もちろん。シキたちを巻き込まなくて済んだことにも安心している。
こいつらには言ってないが、多田野の謎は血だけじゃねぇ。変な力も使う。
近藤同様頭を掴まれて気持ち悪くなって、最悪死にましたなんていったら後味が悪すぎる。
しかしそれよりも、これ以上詮索されなかったことに安心していた。
近藤には、タダノに会うもう一つの目的がある。
それは、タダノの血だ。
今、アピトの体の中では魔力を消す力とそれに抗う力がぶつかり合っている。
その影響により、アピトは常に魔法を使っている状況なのだ。
この状況を打開するためには、魔力を消す力を無効化するか、抗う力を消すしかない。
だが、魔力を消す力の無効化は無理だ。いや、正確には時間が足りない。
その前にアピトの体力が尽きてしまう。
だから、抗う力を消すしかない。
つまり、アピトの中から完全に魔力を消す。
これがタダノに会うもう一つの目的だ。
アピトにとって魔力がどういうものかは分かっているつもりだ。
最強から魔力なしになったとなれば、皆掌を返すだろう。魔力だけで生きてきたアピトが、これから先、魔力なしで生きていくのがどれ程辛いか。
分かってる。
分かってるが死なせたくない。
アピトには、どんな形であれ、生きていてほしい。
それが例えエゴと言われようが。
俺が支える。
その罪も背負って一生かけて償っていくと誓う。
だから、生きてくれ。
その我が儘が叶うなら貶されても、嫌われても、何なら腕がもげたって良い。
いや、叶うならじゃない。
何をされても叶えるのだ。
ガタンと音がしてトロッコが大きく揺れたと思うと、動きがゆっくりになる。
「着いたか」
近藤は平然を装って声をかける。
考え事はもうおしまいだ。
「うん。多分、城の奴らも着いてないと思うよ」
「サンキュ。助かったわ」
近藤はトロッコから降りると、軽く体を伸ばした。
「お前、ホントに漕ぎきったな」
「体力には自信あるからね」
『馬鹿体力』と言うと、タカハシは『ありがとう』と笑った。
ほんと、食えねぇやつだ。
「気を付けてね」
「お前らも頑張れよ」
タカハシから差し出された拳に自分の拳を当てる。
B級映画感が否めないが、お陰でやる気は出てきた。
待ってろよ。全部終らせてとっとと帰ってやる。
▼
「流石西の王都、本当にすごい賑わいだね」
「こっちにも手を出しておいたのに、全く気にしてないようだね」
石畳を軽く蹴りながらタダノとフォーランはとある場所を目指していた。
「ちょっと……待ってください……歩くのはやいんですね……」
その後ろを小俣が追う。
「ここは、人通りが多いですね……楽しい……」
「あ、楽しいの? なんか勝手に苦手だと思ってたよ」
フォーラン、小俣の意外な一面を知る。新密度はさして変わらない。
「ずっと牢屋に居たんで……こんな暗くなっちゃいましたけど……元々は明るかったんですよ……」
「そうか。なら、そろそろ君も自由になれるよ」
タダノは小俣の肩を軽く叩いた。
小俣は近藤との戦闘の後、カラリマから逃げ出した。
そこをこの二人に保護されたのだ。
ついでに城に復讐する機会まで与えて貰った。
「小俣、これからは私と二人で行動するよ。探し物を手伝っておくれ」
「え……フォーランさんは……?」
「私は協力者と合流するんだ!」
フォーランは久しぶりに会うなぁと呟いた。
「協力者……居たんですか……」
「うん。協力者っていうか幼馴染みっていうか、なにかと手伝ってくれる人たち。
ここに王都の騎士を呼び寄せてくれたのも彼女たちだし」
本来ならば、あの公園で決着を付ける予定だったらしいが、セーレ・アピトの魔力の暴走のせいで取り消しになってしまった。
いきなり作戦が変わったというのに、すぐに動けるなんて凄い人たちだなぁ。
だから、そんなに信頼されているのかな。
「……ところで……お二人とも……フード暑くないんですか……」
小俣の声にタダノとフォーランは顔を見合わせると、少しだけ寂しそうに笑った。
「あぁ、もう慣れたんだ。私たちはずっと日陰者だから」
「大丈夫。もう少しでフードも取れるし、日向にも行けるんだから」
フォーランがそう言うとタダノは軽く微笑んだ。
この二人は古くからの仲らしい。
それも、契約もなしにずっと一緒に居るという。
そもそも、タダノはその特殊な血を持つせいか、悪魔としての力を持たない。契約以前の話らしい。
しかし、二人は契約なんかよりももっと濃いもので結ばれていると口を揃える。
この世界に来てからずっと物として扱われていた小俣にとってはそれが少し羨ましかった。
「さぁ着いた。ここだよ」
タダノが足を止めると、目の前には何やら重苦しい建物が聳え立っていた。
「ここって……クイエラ駐屯地……?」
「そう。ここが私たちの拠点だ」
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