【第九話】情報入手! 向かうは国営公園・ジアルキア……?!
突如として女しかいない世界へと飛ばされた不良少年・近藤武蔵。
この世界の女は、魔女と呼ばれ、男の精を絞ることで、魔法と呼ばれる不思議な力を操る。
元の世界へ戻るためには向こうの世界とこちらの世界を分断する結界を破壊する必要がある。
最強の魔女・セーレ・アピトの協力のもと、魔力について調べる日々。
そんな中、とある事件が起きた。
魔女の魔力消失。
その事件の解決に乗り出した近藤たち。
しかし、知っている情報は少なく、事件解決の糸口は見つからない。
そこで近藤たちは、世界の観察者・ユギルに「情報を借りる」ため、ユギルの屋敷へ向かった。
一悶着はあったものの、ユギルのお気に入り・タカハシがユギルを説得してくれる運びとなった。
▽
やっとのことで元の大広間に戻ってきた近藤たち。
「こんなに長かったんだ……この廊下」
「やっと着いたね」
「お前が変な話しなきゃもっと早く着いただろーが」
「まぁまぁ、中に入りましょう。セーレも待ってますよ」
また言い争いが始まりそうな二人を全力で仲裁するファシスタ。
これ以上の喧嘩は身が持たない。
ファシスタが二人を前に押し出すと、ドアが開く。
広間は先ほどと変わらぬ光景。
メイド服を着た男たちが部屋の両脇に聳え立つ本棚の整理をしている。
メイド男の向こう側には、大きな椅子に腰を掛けているユギルと、その手前のソファに座っているアピトが見えた。
ん? あれ……ユギルが座ってんのってメイド男の一人じゃねぇか? 足プルプルしてるし。
どうやらアピトとユギルは何か話し込んでいるようた。
まぁ、二人とも無言で待たれてても嫌だけどさ。
「よ、ただいま。なに話してたんだ?」
「ん?! あ、こ、コンドウ! いや、世間話さ。そう。世間話。気にすることじゃない」
見るからに怪しい様子。
こんなに動揺してるとむしろ聞いてくれと言われてるような気がするが、アピトは正直な奴だ。
話さないということは言いたくないのだろう。
少し気になるが今は聞く必要もないか。
帰りにでも聞けば良いと、それ以上詮索することもなく近藤はアピトの隣に腰を下ろした。
「うぅ、セーレぇ私、頑張ったぁ」
アピトのもとへフラフラと近付くファシスタ。
「あぁ、大変だっただろう。お疲れ様!」
ファシスタはなんの躊躇いもなくアピトの胸にダイブする。
アピトもアピトで当たり前のようにファシスタの頭をなで回す。
もうすっかりいつもの調子に戻ったアピトを見て、大したことなかったのかと内心ほっとした。
まぁ、一人で溜め込む奴ではないと思うけど、一応な。
「ユギル嬢」
「オキニイリ! 遅かった」
「すみません」
タカハシは流れるようにユギルを抱き上げると、席へ座った。
もちろん。メイド男を業務へ戻らせることも忘れていない。手慣れてんだな。
「ところで、ユギル嬢。少し良いですか?」
「んー? なに?」
席に座って一息つく間もなく、タカハシがユギルに声をかけた。
仕事がはやいというか、なんというか。
事情を知らないアピトには耳打ちしておいた。
「彼らに情報を与えてやることって出来ませんか?」
「彼らって……あの男に?」
「えぇ」
「いや」
さっきまでの笑顔はどこへやら。
ユギルの顔はたちまち曇り、プイとそっぽを向いてしまった。
それでも、出来る男・タカハシは問題なしと言いたげに涼しげな笑顔を崩さない。
なにか取って置きの秘策でもあるのだろうか。
「ユギル嬢」
タカハシは落ち着いた声でユギルを呼ぶ。
さてと、ここからどう切り抜けるのか。あいつの秘策でも見てやろうじゃねぇか。
「いっぱい好きって言ってあげますから」
飲んでないお茶を吹くかと思った。あぁ、これ唾か。
突然の惚気に防御が間に合わず、大ダメージを食らう。
どうやらアピトとファシスタも同じなようだ。近藤と同じように間抜けな顔をしている。
「いっぱい?」
「えぇ」
「呼び捨てで呼んでくれる?」
「もちろん」
どんな契約してんだよ。
抱える頭が一つじゃ足りない。ってか、なに見せつけられてんだよ。
「仕方ないな。感謝しろ。情報を共有してあげる」
「アーアリガトウゴザイマス」
何とか声を絞り出せただけでも奇跡だろう。
何が『いっぱい好きって言います♡』だ。馬鹿じゃねぇの。
「お前たちの知りたい情報は、魔女たちの魔力消失についてだね。どうやって、魔女たちから魔力を奪ったか」
アピトが静かに頷く。
多分、こいつも声がでない。
「ユギルはこの世界の全てを知っている。だけど、それは起こったという事実についてだけ。
名前、原因、気持ち。目に見えないものを特定することはムリ」
やはり、そう上手く事が進むわけではないか。
だが、情報が得られれば何でも良い。もはや近藤たちは手詰まりの状態なのだ。
「それでも、因果関係を持った事象を特定することは出来る。
魔女の魔力消失と同時期に起こった異変」
__魔法生物の大量発生。
そういえば、最近そんな依頼がよく来ていた。
「ナオヤ、シキ。あれ持ってきて」
「はい」
タカハシの声に、遠くの方で本の整理をしていたメイド男がバタバタと部屋の奥へと引っ込んだ。
なんだなんだと眺めていると、メイド男たちはすぐに戻ってきた。
手にあるのは……箱か。
メイド男たちがその箱を近藤たちの目の前にそっと置くと、プカプカと浮いた。
メイド男の一人、ナオヤが箱を開くと、その中には近藤たちもよく見覚えのある魔法生物が入っていた。
白い板にくっついた少し大きめの蚊みたいな生物。
依頼で倒していた奴だ。
「この生物、ユギルも知らない生物。この魔法生物が大量発生した」
「あぁ、そのモンスター、私も何度か倒したよ」
「なら、話しは早いね。この蚊と、魔女の魔力消失は繋がってる」
「蚊と?」
アピトは首をかしげたが、近藤は合点がいった。
「なるほど。この蚊が媒介となって毒を運んだのか」
「お前、馬鹿だと思ったけどそうでもないね」
それ、褒めてねぇよ。
殴りたくなるが、また廊下に連れ出されても敵わないのでじっとする。
まだ分かっていないアピトのために説明しておくと、『この蚊が毒を吸って、その次に魔女の血を吸うことで、魔女の体内に毒が混ざって、魔力消失が起こった』ということだろう。
蚊に血を吸われりゃ確実に体内に毒が入るし、何より怪しまれない。
「最高の媒介ってことだな」
「バイカイってなんだ……?」
この馬鹿は置いておこう。
「じゃあ、この蚊を全滅させれば……!」
ファシスタの声に、ユギルが首をふる。
「それよりも根本を叩いた方がはやい。この蚊は繁殖力が高いから、全滅させるのは不可能。
お前たちもこの蚊を倒してたなら分かるよね?
この蚊自体は一回刺したら毒の効果は持続しない。
つまり、使い捨て。毒を持っているか持っていないかを識別して倒すより、毒自体を壊した方がいい」
ユギルの言う通りだ。
大きめの蚊と言えども、蚊の中ででかいだけで人と比べれば小さい。
こんな蚊を、しかも全国にばら蒔かれたってのに、たった三人で一匹一匹駆除していくなんてのは現実的ではない。
だが
「その毒の在処が分かんねぇんじゃ、どうも出来ねぇじゃねぇか」
毒を探しながら蚊を倒していくことも出来るが、やはり時間稼ぎにもならない。
「フッフッフ。ユギルはこの世界の全てを知っている。つまり、蚊がいっぱい居るとこも知っている」
「マジか!」
初めてユギルと友達になれそうな気がした。
蚊は使い捨て。
要するに、あの蚊は定期的に補充されているということだ。
となると、蚊が大量発生する場所さえ分かれば、犯人たちと接触できる可能性がぐっと高くなる。
「知りたい?」
「そりゃ知りてぇだろ!」
「じゃあ……オキニイリ。ユギルもオキニイリの名前呼んで良い?」
「えぇ、良いですよ」
「まだ見せられるの……これ」
思わず本音が漏れるファシスタ。
横に立っているメイド男の二人組もさすがに嫌そうな顔をしている。俺も同じ気持ちだ。
ユギルと友達になれそうだという気持ちがすーっと遠くへ消えていく。
あれは気のせいだったようだ。
ってかアピト。そろそろバイカイから離れろ。
「蚊がいっぱい居るところは、ジアルキア公園」
「それって、公園だから居るんじゃねぇの」
「お前、キライ」
「はいはい。黙りますよ」
近藤が両手を挙げて降参と言うと、ユギルは満足したように頷いて、話を続けた。
「ジアルキア公園に居る蚊はたった一日で全て消える。
正確に言うと、四方へ散らばる。ユギルが思うに、蚊のキライな音を出して、蚊を外に散らしてる」
「悪ぃけど地図とかねぇ?」
「シキ。持ってきてくれるかい?」
ユギルの右側に居たメイド男は、はいと頷き、本棚のところまで走っていった。あの子がシキか。
走り去っていくシキの足元を見てみると、ハイヒールのかかとを踏んだ痕がある。ハイヒールのかかとって踏めるのかよ。
「ファシスタ。患者の家って分かるか?」
「えぇ、分かります」
シキが持ってきてくれた地図を広げ、ジアルキア公園にバツをつける。
その後に、患者たちの家に丸をつけていく。
どの患者も、ジアルキア公園のから1、2キロメートル以内に住んでいる。
アピトの依頼でこの蚊を倒した場所もジアルキア公園の近くだ。
「可能性はあるっちゃあるか」
「そんなことしなくても分かる」
頬を膨らすユギルを華麗にスルーし地図を懐に仕舞う。
「あ、話し終わったか?」
「意識飛ばしてんじゃねぇよ」
「うん、終わり。今からジアルキア公園に行くよ」
「分かった」
話を聞かない割に了承は早い。いや、話を聞かないから了承が早いのか。
こいつ、よく今まで変な壺買わされないで生きてこれたな。
「助かったよ。ユギル」
アピトはそう言うとソファから立ち上がった。
つられて近藤たちも立ち上がる。
「うん。次は献上品を持ってきてね」
「あぁ、任せろ」
お前それ毎回言って持ってきてねぇタイプだろ。
返事だけの人間だろ。
「じゃあ、また何かあれば力になるよ」
タカハシもユギルを持ったまま腰を上げた。
そこのドアまで見送ると、アピトたちの後ろを付いてくる。
なんか、タカハシは背が高いから後ろに居られると、圧が凄いな。
「コンドウ」
「あ?」
不意にユギルに名前を呼ばれた。
ずっと、男だのなんだのと呼んでたから、てっきり名前なんか覚えてないと思ったが、伊達に情報の魔女じゃないらしい。
「お前はアピトの枷だ」
「はぁ?」
振り向いてみればまたふざけたことを抜かしやがって。と思ったが、ユギルの顔は真剣そのものだった。
なにか言い返してやろうとも思えないほど、迫力に飲まれた。結局なにも言葉にならず、ただユギルの目を見つめた。
「だけど、良い枷だよ。アピトと対等になれ。隣に立つんだ」
「お前に言われなくても、守られる趣味はねぇからな」
ユギルはうんと笑った。
「コレ。もしもの時はお前たちを助ける。使うときはお前たちで決めな」
ユギルが渡してきたのは、スーパーボウルくらいの大きさの、白い玉のようなものだった。
「なんだこりゃ?」
「この中にはオキニイリの精が入ってる。それをユギルの魔力でコーティングした。
大きな魔法を使うとき、きっと役に立つ」
「俺よりアピトに渡せよ」
「いや。お前が持ってて」
ユギルの真っ直ぐな目に頷くしかなかった。
「分かった。ありがとな。何から何まで。次来るときはお土産持ってくるようアピトに言っとくわ。じゃ」
ユギルとタカハシに軽く手を振って別れを告げると、一足先に扉の外に出ていたアピトたちを追いかける。
「なんの話だった?」
「ん、これ持ってろって」
「スーパーボウルですか?」
「魔力の玉だって」
「それだけか?」
「ん? それだけだけど?」
「そうか」
アピトは何かしきりに気にした様子で、煮え切らない。
いっそのこと聞いてやろうかとも思ったけど、ここで雰囲気が悪くなってこの後に響いたら問題だと、止めておいた。
これから向かうとこは敵と鉢合わせする可能性が高い。
仲間内で変な波風は立てないに越したことがない。
心の底でアピトの様子とユギルの言葉が交互に浮かんだが、大丈夫だろと言い聞かせて頭を振った。
▽
ジアルキア公園に着いた頃にはすっかり夕方になっていた。
「待て、クラクラする」
「大丈夫か? コンドウ。休むか?」
「いや、良い」
アピトに支えられながら公園の中に入る。
ジアルキア公園。
国が管理する公園の一つで、自然保護地域でもある。立ち寄ることはなかったが、名前くらいは聞いたことがあった。
国営公園なだけあって、実際に足を踏み入れてみるとかなり広く感じる。
が、辺りには背の高い木や遊具もなく、少し目を凝らせば向こう側の出入り口がはっきり見えるほど見晴らしが良い。
犯人たちを見つけ出す心配は必要ないらしい。
「犯人ってか、人っ子一人もいねぇみてぇだな」
「帰ったか?」
「逆だろ」
ファシスタの話によれば、最初の患者が来たのは夜だった。普通に考えて、犯人たちの動き出す時間は夜と言うことだ。
それもそうだろう。
こんな見晴らしの良い公園で昼間っから蚊を放流してれば不審に思われない訳がない。
「暗くなるまで待ちましょうか」
ファシスタの声に三人は各々自由行動を開始した。
いや、正確には自由行動をしているのはファシスタと近藤の二人だ。
ファシスタは蚊の被害を押さえるためにと近隣の家へ声を掛けに行った。
一方で、近藤は公園内を散策し、何かしら情報を掴もうとしていた。
ここは敵のフィールドなのだ。
万が一のこともあり得る。
「で、お前はファシスタの方行かなかったのかよ」
「悪いか?」
「悪くはねぇけど、頭使う方にいたってお前、自分がダメージ食らうだけだぜ」
「気にするな。乗り越えてみせる」
頼むから戦闘前から無駄な体力を消費するな。
近藤たちは相手の人数も、力の強さも分かってない。
いくらアピトが最強といえど、未知の相手との戦いは思わぬハプニングを生む。
「ま、良いけど」
諦めたように呟いた言葉は、アピトには聞こえたのだろうか。
アピトはただ静かに近藤の後ろを付いてくる。
いつもはお喋りな癖に、こういうときに喋ってくんないと気まずいんだよな。
まぁでも、考え事をするにはもってこいだ。
この公園を回ってみて何となく気になったことがある。
そう。
この公園は綺麗すぎる。
蚊が、というか魔法生物が大量発生した場所というには草木も青々として、どこか壊れた箇所も見当たらない。
アピトの魔法生物の駆除にはよく付いていくが、どんな生物であれ大量発生すれば、多かれ少なかれ変化をもたらす。
ましてや相手は蚊だ。
どこかしらにボウフラの大群を目撃しても可笑しくないがそれすらも見つからない。
いや、大群どころか一匹も見つからない。
なんだか、誘い込まれているような薄気味の悪さを感じる。
まるでこの公園は誰かに見つけてもらうための広告塔……
そこまで考えて思考が濁った。
むせたのだ。
喉からカラカラと音がなるような咳が公園に響く。
ホント、最近むせやすい。食いもん合ってねぇのかな。
なんて、それくらいのことだった。
ホント、その程度のことなのに、アピトは違った。
「どうした?! コンドウ? 具合でも悪いのか?! コンドウ?!」
咳のせいで言葉が出ないのだ。
立て続けに問われたって返事も出来ない。
それでもアピトは血相を変えて何度も何度も近藤の名前を呼ぶ。
「わっ、かってるって。むせたんだよ……悪かったな」
「それだけか? 具合は?」
「元気だよ」
喉の調子を整えながらそう言うと、アピトは安心したように胸を撫で下ろした。
「そうか」
「そうか。じゃねぇよ。さっきから何なんだ? やけに気にしてきやがって」
敵地という場所がそうさせたのか、数分前までは我慢しようと誓っていたことも我慢できなくなっていた。
「……気にするくらい良いじゃないか」
「心の内にあるならな。何だ? 俺は足手まといか?」
少しくらい軽く言ってやれれば良かったのかもしれない。
だが、今の近藤はそんなことも考えられない程ピリついていた。
「どうした? いきなり。そんなこと言ってないじゃないか」
「言外に言ってんだよ」
ユギルの言葉を、そんなに気にしていたつもりはなかった。
あの言葉は、近藤を苛立たさせるために言われた言葉でもないということも、理解していた。
ただ自然と口が動いていた。
一度意識すると凄いもので、頭の中にこびりつくようにあの時の情景が浮かぶ。
対等になれったって、対等と思われなきゃ意味ねぇじゃねぇか。
これ以上考えたくなくて、もう終わりだ、とアピトを突き放した。
アピトも追いかけてくることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます