第2話 謎の会社(2)
俺はコンサルティング会社に勤務していながら、赤字の会社を見てるのがけっこう好きだった。借金まみれで、毎月赤字。それなのに、社長が金策に走って知人などから借金を重ねているとか、社長の報酬が全くないという会社もあった。そういう所は、いつ潰れるかな・・・と、思ってワクワクしていた。(社長の方々、申し訳ありません)これが町工場とかなら、従業員たちはどうなっちゃうんだろうと気の毒になるけど、若い人が始めたベンチャーみたいなのは、それほど気にならない。
今は起業ブームだけど、昔から社長になりたい人は一定数いた。起業してうまくいっている人もいたが、最初はよくても、次第に傾いて行くのが大半だ。俺が見ていた会社の中には、若い社長が20平米くらいの狭い事務所から始めたのに、今はけっこう大きくなっているところが数社ある。
顧問先は大体毎月訪問していた。書類の受け渡しと、コンサルティングという名目の雑談のためだ。俺なんて全くの素人で売りといえば、元大企業に勤めていたことだけ。ほとんど素人同然だけど、税理士科目を持ってる人にくっついて企業回りをしていた。
件の離職率の高い会社は狭いオフィスで、50平米くらいしかなかった。健康器具の訪問販売だから、営業社員は直接客先の家に行くから、誰も出社していなかった。その代わり、オフィスにはテレアポのおばさんがいて、名簿屋から買った価値のないリストに1件つづ電話をかけていた。
「お忙しい中、申し訳ございません。〇〇〇という会社のものです。奥様でいらっしゃいますか?今、有名な大手健康器具メーカーの製品を無料でお試しいただけるキャンペーンをやっております。お近くを回っておりますので、ぜひこの機会に・・・」
こういうアポイントはほとんど取れない。でも、声のきれいなおばさんがかけると、たまに会ってもらえたりする。テレアポのおばさんたちは、最低賃金くらいの、ものすごく安い時給で働いていた。アポ取りに成功して、営業担当が無事会うことができたらインセンティブをもらえるという制度が採用されていたけど、本当に支払われていたかはわからない。営業担当はとりあえず、アポが取れた家に行くのだが、ついでにご近所回りもやらされるとか。給料はすごく安いが、インセンティブにつられて就職してしまうみたいだ。まるで、マルチ商法に引っかかる若者みたいだ。
営業担当が若いイケメンかきれいな女性だったら、家に上げてもらいやすいが、そういう人はそんなチンケな仕事はしない。
「今月は一人辞めました。それで、新入社員はこの人」
社長が入口近くの応接セットに座って、クリアファイルに入れた書類を出してきた。俺は「またですか?」と口に出そうだったが、やめておいた。
「わかりました。次は・・・女性ですか。しかし、よくすぐに新規採用できますね」
俺は言った。
「うちは通年採用だし、やる気がある人は基本全員採るんで・・・」
25歳の若い女性・・・どんな人だろう。字もきれいだし、家も結構近い。年齢を見ただけで、俺は期待してしまう。
「女性だと危なくないんですか?」
「まあ、運ですよ。どこにいても犯罪に巻き込まれることはありますからね。部屋の内覧行って殺された女の人もいたし・・・でも、普通はそういうのってないじゃないですか」
「ええ、まあ。でも、よくやりますね」
「夜の仕事やってた人で、昼の仕事に変わりたいみたいで」
「はあ・・・じゃあ、トークがうまいんでしょうね」
「どうでしょうねぇ・・・」
「きれいな人なんですか?」
先輩は食いついている。
「写真見ます?」
社長はデスクに行って、履歴書を取ってきた。写真を見るとわりときれいな人だった。
「こんな人が家まで来てくれたら買いますね・・・」と、先輩は言った。お世辞だろうと思っていたがら、すかさず社長が言い返す。
「紹介しましょうか?」
「え?いいんですか?」先輩が食いついていた。
「もちろん」
きっと、健康器具を売りつけられるだろうと思った。それなら、普通にお店行った方が安いのに・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます