無断欠勤

連喜

第1話 謎の会社


 これは俺が20代の頃働いていた、しがない中小企業の話。俺が20代だったのはもう25年くらい前になる・・・時間が経つのは本当に早い。漫然と生きていたら、もう50歳になっていたとは・・・書いていて自分でも驚く。


 俺がいたのは経理総務もやっているコンサル系の会社だったから、顧問先の従業員の個人情報を扱っていた。自宅住所、電話番号、生年月日、最寄り駅、家族構成、毎月の給料とボーナス。小さい会社だと、経理と給与はアウトソーシングするというところは昔からあった。特に給与は誰がやっても変わらないから、社員を抱えておく必要はない。それに、給料の額なんかが社内でばれてしまったら、人間関係にも影響を及ぼすし、家を知られたくない人が多いだろう。


 個人情報が集まってくるから、若い女性にストーカーしようと思ったら、簡単に家の住所や通勤経路がわかる。独身かどうかも扶養控除申告書を見ればわかるし、自宅や携帯の電話番号も入手できる。もちろん、実際やったことはない。ストーカーしたところで、お近づきになれるチャンスはないからだ。

 

 小さな会社に就職するのを避ける人が多いが、悪い予感がするからだろう。その第六感はある意味当たっていると思う。

 

 ***


 俺は20代後半。外出もありながら、事務仕事もしなくてはいけないという、気持ちの切り替えが必要な仕事をさせられていた。ほぼ毎日、客のところに行きつつ、隙間時間で事務をやるのはけっこう面倒だった。


 隣の席は30代半ばで、税理士の科目合格の男性だった。もう何年やっているかわからないくらい試験を受け続けていた。でも、話しやすい人だった。

 

「この会社辞める人が多いですね」


 俺は前から気になっていることを口にした。そこは10人くらいの会社なのに、毎月退職者が出るという怪異が起きていた。業種は健康器具の販売。まともにやっていたら売れないだろうから、ちょっとした嘘や誇張を交えて、判断力のない人に無理やり売りつけるくらいでないと無理だろう。

「まあ、訪問販売ってのは売れないよね」

「でも・・・有休消しないでいきなり辞めるって、あまり聞かないですよね」

 そういう退職の仕方をしていることが分かったのは、その会社の社長から、退職届が提出されておらず、いきなり会社に来なくなるという話を聞かされていたからだ。その分は欠勤として給料から引かれる。

「まあ、朝起きて、会社行きたくねーなって思うんじゃない?」

 俺も確かに毎日思うが、それでも社会人としてはちゃんと1か月前に告知してやめるもんだろうと違和感を感じていた。

 

 

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