友情がはぐくめない


 夏休み初日になり、俺たち四人は街でもブラブラしようとのことで集まることになった。

 いつものように学校近くの公園へとやってくると、二人のほかになぜか夏凛もいた。


 「おい、夏凛お前今日」

 「あ、おはよ。ふふ、美代ちゃんそれでね」

 「……?」


 なんだ、いま流されたか? それに目線も合わせてくれなかったような。

 気のせいだとは思いたいが、それ以前にいろいろと腑に落ちないことがある。


 その一、集まろうという連絡をくれたのは雫だったこと。

 その二、いつもならウチで集まってから向かうはずの夏凛が、先に公園へといたこと。

 

 「……っ」


 こんなこといままでなかったから、ちょっとばかり戸惑ってる。俺、夏凛になんかしたっけかな……。いや、さすがに考えすぎか?


 そうこうしてるうちにブラブラするようで、みんなで歩きだした。夏凛は相変わらず美代さんと楽しそうにおしゃべりしながら歩いていて、なんか話しかけづらい。

 距離を詰めようかと考えていると、隣にいたらしい雫が話しかけてきた。


 「どうした? そんなに、そわそわ、して」

 「え、いや、なんでもない……」


 横にいた雫でも気づいてしまうぐらい、俺は挙動不審らしい。それはきっと夏凛にも伝わってるはずなのに、ぜんぜん気にかけてもらえてない。

 

 「あ、このお店入ろっかー?」

 「あぁっ、そうだな!」


 チラと夏凛が俺を見て、すぐに目を逸らした。美代さんと連れ立って中へと入ってしまう。

 

 「……っ」


 いまのは完全に無視されてたよな。いったい俺がなにをしたっていうんだ。

 もしや、ずっと視線がうっとおしかったりしたのか!? 変な臭いとかしちゃったりするのか!? いつも夏凛のことを想ってるせいか!? ときどき夜のお供にしたりとかしてるせいか!? 


 「わけ分かんねーよ……」


 寂しさとか、虚しさで心にぽっかりと穴が開いていっている気がする。男なのに、下手したら泣いてしまいそうだ。

 それでも俺はどうにか心を奮い立たせながら、みんなの後についていく。


 「私これにしよっかなー、美代ちゃんは?」

 「私はこのかき氷がいいです!」

 「お、俺はこれにするわ」

 「ふーん、雫ちゃんは?」

 「……っ」

 

 なんでそんなにそっけないんだよ。もうやだ辛い、回れ右して帰りたい。


 ……でも、帰ってしまったりしたら、二度と会えなくなるんじゃないか。せっかく立てた夏休みの計画もパーになるんじゃないかと思ったら、足がすくんでしまう。

 夏凛に会えなくなる、なんて、俺は絶対に嫌だ……!

 

 みんながお会計を済ませ、外に出てかき氷を食べ歩いている。夏凛がおいしそうにかき氷をパクついている。

 どうにかして気を引けないか……そうだ、これを分けてやったらどうだろう?


 俺はササッと夏凛の隣に近づき、スプーンストローに乗せたひと口ぶんを、差し出した。


 「な、なぁ、俺のひと口いるか?」

 「んーん、いらない。あ、美代ちゃんのちょっとちょうだい」

 「…………」


 ダメだ、俺の心はもうズタボロだ。

 疲労困憊すぎて、足取りが重くなってきた……。あ、あんなところにゴミ箱によく似たベンチが……。

 フラフラと近づいていった俺は……、


 「――ユッキー!」

 


 ◇



 「…………ん?」


 なんだろう、後頭部に柔らかなものがあって。

 目を開けると眩しいぐらいの太陽と、誰かのシルエットが。


 「ユッキー! よかった、気がついたんだね!」

 「……ぁ、夏凛」


 そこには、ずっと待ち望んでいた存在である、夏凛がいて。

 心配そうな眼差しを、向けてきている。

 その顔を見たら、なんだか目頭が熱くなってきた。


 「か、夏凛っ゛……っ」

 「ユッキー泣かないで、ほらいい子いい子してあげるから」


 慌てた様子で夏凛が頭を撫でてくれている。柔らかで、じんわりとした温もりは、俺の心に空いた穴を少しずつ埋めてくれて。

 だんだん落ち着きを取り戻してきた俺は、震える口を必死で動かしていく。


 「ごめん、俺っ……お前に酷いことしたんだよな……? 嫌われてもおかしくないことしちゃったんだよな……っ」

 「違うよ! ユッキーはなんにも悪くないの!」

 「……ぇ?」


 戸惑う俺のそばで、夏凛の瞳が潤んだ。

 それから堰を切ったように、ボロボロと涙がこぼれてくる。


 「え、え……?」

 「私の方こそ、ごめんねっ! ユッキーの気持ちとか、どう思うかとか考えてなかった……っ」

 「夏凛……」

 「ひどいことしちゃって、ごめんなさい……っ」

 「……っ」


 泣いてる夏凛の辛そうな顔が見たくなくて。

 俺はゆっくりと手を伸ばして、彼女の頬に触れた。


 「ゆ、ユッキー……っ?」

 「……俺さ、お前が隣にいてくれないとダメみたいなんだ」

 「へっ……?」

 「ずっと、言えなかったことが……言いたかったことがあるんだ」

 「……うんっ、なに……?」


 もうこれ以上、我慢なんかしたくない。俺の気持ちを、大好きなこの子に伝えたい。

 たとえそれで振られたとしても、悔いはないはずだから。

 俺は彼女の目を真っすぐ見据えて、告げた。


 「俺、夏凛のことが……好きだ」

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