計画


 無事に一学期が終わり、俺と夏凛、それに雫と美代さんの四人で、打ち上げのようなものを行うことになった。

 で、場所は近場にあるカフェに決めた。それぞれ頼んだものを持ち、空いていたテーブル席へと腰を下ろす。

 隣でなんちゃらマキアートなるものをすすり、夏凛がほうっと息をついた。


 「ん~っ、おいしい」

 「頭を使った後はやっぱ甘いもんだよな」

 「とかなんとか言ってユッキーが頼んだのブラックコーヒーでしょ」

 「これが一番安かったんだよ。それにうまいし……な、美代さん?」

 「はいっ! 私コーヒー大好きですけど、ここのは絶品ですっ!」

 「ありえん。コーヒー、ブラック、とか」

 

 俺と美代さんがコーヒー談議に花を咲かせる中、雫がぼやいてみせた。その手には抹茶のラテなるものが握られている。


 「雫ってコーヒー飲めないのか?」

 「飲める。ミルク8:砂糖1.8:コーヒー0.2」

 「それもうコーヒーじゃねえだろ」

 「雫ちゃんはさ、カフェラテ好き? もしも好きなら、私のとっておきの配合を教えるよー?」

 「そうか。それは、気になる」


 とっておきの配合ってまさか、母さんに教えてもらった時のやつか?

 コーヒーをズズッとすすりながら、話に相槌を打っていると、美代さんが急に声を上げた。


 「あのっ! 明日から夏休みじゃないですか!」

 「ふふ、そうだよ~。楽しみだよね~」

 「そこで私っ、提案があるんですけど……み、みんなで、お出かけとかしませんか!?」

 「お、それいいと思う。せっかくの長期休暇だしな」

 「い、いいんですか……? その、」


 どうかしたんだろうか? なんだか煮え切らない感じだけど。

 じっと待っていると、おずおずといった様子で美代さんが口を開いた。


 「由樹さんと夏凛さん、お付き合いされてるから、私たちと一緒だと水を差しちゃうんじゃないかなって……」

 「は? いや、それなんだけど」

 「美代ちゃんっ、私たちべつに付き合ってないよ」

 「「へ?」」


 夏凛が被せてきた言葉に、美代さんと、俺までもが驚いた。前まで邪魔してきてたと思ってたんだが、あれはどうやら勘違いだったらしい。

 

 「私とユッキーはただの友達。お互いに仲がいいってだけ」

 「そ、そうだったんですね……。私、勘違いしちゃってました」

 「なんか誤解させちゃったままでごめんね?」

 「あ、いえいいんですっ! そういうことでしたら気楽にお出かけに誘えるなって思っただけですから!」

 「ふむ……」


 楽しそうに話をしてる二人を見て、雫が小首をかしげている。もしやコイツも勘違いしてたってことなんだろうな。 

 けど、正直俺としては残念な気持ちが大きい。夏凛の口からはっきりと、友達だって断言されてしまったんだから。い、一番大切な友達だけどな……!

 それでも、その先に進むためには、やっぱ俺がぐいぐい行かなきゃ――、


 「ユッキー? 難しい顔してどうしたの」

 「あ、え? いや、その……な、夏休みの計画を立ててたんだ!」

 「そうですよね! せっかく夏休みに入るんですから、リストを作らなきゃいけませんよね!」 

 「ふふ、ユッキー賢~い。さすが遊びには手を抜かない」

 「ま、まぁな」


 あっぶねぇ、なんとか切り返せた。

 内心で荒く息をつく俺をよそに、三人が顔を寄せ合っている。


 「夏休み、なにする、んだ?」

 「それはもちろん海に行かなきゃでしょー? お祭りもあるでしょ? んー、いろんなものにお金がかかっちゃうなぁ」

 「海といえば水着ですよね! でも私、学校指定のやつしか持ってないんですよね」

 「だったらさ、このあと買いに行こうよ~! 私も新しい水着欲しいし」

 「なら、由樹とはここでさよならだな……はぁはぁ」

 「おい、なんで俺がハブられるんだよ」

 「楽しみは当日まで取っといた方がいいだろ……はぁはぁ」

 「うっ」


 確かに、それもそうだな。夏凛の水着とかすげー気になるけど、好きなものは最後まで取っとく派の俺としては、ここで我慢するべきかもしれない。耐えろ、耐えるんだ俺……っ!

 ぐっと歯噛みしていると、隣から夏凛のささやき声が。


 「……私、ユッキーのために、水着選んでくるから」

 「っ!」

 「楽しみにしてて。あ、もしもリクエストがあるなら」

 「マイクロ、ビキニ」

 「お前が答えるんじゃねー!」

 「ユッキーのえっち」

 「俺が答えたわけじゃねーよ!」

 「由樹さん、そういうのはちょっと、良くないと思います」

 「み、美代さん、そんな目で見ないでくれ……違うんだ」


 え、なにこれ、俺が悪いのか? 

 女友達三人の視線にいたたまれなくなった俺は、ふいとそっぽを向くしかない。そんな俺の背中を優しく夏凛がさすってくる。くそっ、荒んだ心が癒されてく……。


 「水着はひとまず今日買いに行くとして、海に行くのはいつにしよっかー?」

 「海開きしたらすぐの方がいいんじゃないでしょうか」

 「混んでなきゃいつでもいい……はぁはぁ」

 「雫ちゃん、それはちょっと無理難題かも。ユッキーはいつがいいとかある?」

 「……ん、まぁ、一週間後とかでいいんじゃないか」

 「じゃあ、一週間後に決定~!」


 おい、そんなあっさり決めていいのかよ。まぁ、みんな喜んでるみたいだし、いいか。


 その後それぞれがアイデアを出していき、夏休みの計画が埋まっていく。チラと隣に視線をやれば、目が合った。

 

 「ふふ、楽しみだね?」

 「そう、だな」


 今年の夏は、みんなとの仲を深めていきたい。そうすればきっと、夏凛とだって……。

 隣で微笑む女友達を見て、俺の胸は高鳴りっぱなしだった。

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