七夕


 本日、七月七日は七夕。短冊に願い事を書いて、笹にくくりつけるというイベントが行われる日だ。

 なんでこんな話をしたのかというと、学校にクソでかい笹が届いたからである。毎年、近くの商店街から譲り受けてるものらしい。

 

 「学校で七夕のイベントやるなんてロマンチックだよね~!」

 「そうだな」


 俺の隣では夏凛がうっとりとした表情をみせていた。その手元には学校で配布された短冊が握られてある。もちろん、俺のぶんもある。

 いまは学校で設けられた自由時間を使って、短冊を書くという作業に充てられていた。テストが終わったからその息抜きもかねてのものなんだろう。

 みんなでわいわい雑談し合いながら短冊を書いてる様子を眺めていると、夏凛がぼやいた。


 「私憧れてるんだぁ、織姫と彦星に」

 「は、なんだよ急に?」

 「だって年に一回、今日この日にしか会えないんだよ? それでも、二人の愛は薄れたりしないってすごくない?」

 「そう、かもしれないな」


 言われてみれば年一デートで我慢できるのはすごいかもしれない。一応、遠距離恋愛みたいなもんかもしれないが、あの当時にはスマホなんてなかっただろうから、想い続けるのも並大抵の覚悟じゃないといえるだろう。


 「……」


 チラと、隣を見やる。夏凛はなにを書こうかなと口ずさみながら、嬉しそうにしていた。その様子に心がぐらぐらと揺さぶられてしまう。


 俺は夏凛が好きだ。それはもうずっと一緒にいたいぐらい好きだし、間近で笑った顔を見るだけで幸せな気持ちを覚えてしまうぐらい、想いが深くなってしまっている。

 だから、年に一回しか会えないとかなったらどうなるか分からない。毎日リモートで顔を見ないと気が済まないかもしれないし、へたすりゃ天の川を泳いででも会いに行くかもしれない。

 もうどっぷりと浸かってしまっているな。どんだけ好きなんだよ俺っ。


 「ユッキー、どうかしたのー?」

 「へっ! あ、なにがだ」

 「なんか嬉しそうな顔してたからさ」

 「そ、そうか? 授業がなくて気がラクだからだろ」

 「ふふ、ほんとにユッキーったら~」

 

 おかしそうに笑う夏凛につられて、俺も笑いがこみあげてくる。

 この時間がずっと続けばいいのに。お互いの友情が続く限りは、きっと大丈夫だろうけど。

 っと、のんびりしてる場合じゃないな。自由時間にも限りがあるんだから。

 短冊に目をやりながら、隣に聞こえるよう声を上げた。


 「なぁ、夏凛はなに書くか決まったか?」

 「んー、いっぱいありすぎて悩んでる。短冊一枚しかないのがなー」

 「欲深すぎるだろ。そんなんじゃ願い事叶わないかもしれないぞ」

 「もうっ、夢見るぐらい良いでしょ~」

 

 隣で夏凛が頬っぺたを膨らませている。そうやって、俺の願い事を増やすのやめてほしい。

 ていうか、こういうのって抽象的なものがいいんだろうか? それとも、シンプルに分かりやすい方が叶えてもらいやすかったりするんだろうか?

  

 「どうすっかな。夏凛と、夏凛と……」

 「ねぇユッキー、さっきから私の名前を呼んでるみたいだけど」

 「え? あ、いや、これはその……」

 

 じろじろと見つめられ、顔が熱くなってくる。もしやバレたのか、俺の気持ちが。

 ドギマギする俺に、夏凛が微笑んでくる。


 「そんなに慌てなくてもいいのに。私には全部筒抜けだよー?」

 「っ……ど、読心術が免許皆伝にでも至ったのか……?」 

 「ふふ、そんなの使うまでもありません。だってユッキーの意思がひしひしと伝わってきてたから」


 ウソだろ、お前を想う気持ちがそんなにあふれてたなんて。

 でも、だったらもういいよな? 素直に伝えちゃっても。


 俺は夏凛の顔を見つめながら、必死で口を動かす。


 「夏凛、その、俺……お前と、」

 「ずっと一緒にいたいって書くつもりでしょ~? ほんとにユッキーったら、友達思いすぎ~」

 「……ぁ、ま、まぁな? やるじゃないか夏凛っ!」

 「ふふ、いままで友情をはぐくんできたかいがあるってものです!」


 小さくガッツポーズを決めながら、夏凛がドヤ顔をしてみせる。俺は彼女に小さく拍手を送りつつ、内心でホッと息をついた。

 あ、危なかった……早とちりして告白をするとこだった。うっかり選択を間違えるとこだったわ。

 

 「それじゃ、短冊に書いちゃお? ユッキーとずっと一緒に……あ、雫ちゃんと美代ちゃんも入れてあげなきゃね」

 「そ、そうだな、あの二人も……友達なんだから」

 「ユッキー? なんだか元気ないみたいだけど?」

 「いや、なんでもない。俺もそうしようと思っただけだ」

 

 無理やり視線を切って、短冊にペンを走らせる。

 筆が鈍いと感じるのは、まだ心に迷いがあるからかもしれない。それでもどうにか願い事を書き終えた。


 「あ、ユッキー書けた?」

 「ん、まぁな。っておい、なに盗って」

 「私がデコレーションしてあげる~」

 「いや、やめろよ。うわっ、文の最後にハートとかつけんなよ! 俺が書いたと思われるだろ」

 「私の気持ちを、願いに込めてみただけだから」

 「は?」


 キョトンとする俺をよそに、少しだけ頬を赤らめる夏凛。

 照れてる理由が、いまいちよく分からないんだが……。

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