ラブレター


 「ん? なんだこれ……」


 朝、普段通りに登校した俺は、下駄箱に妙なものが入ってることに気づいた。取り出してみると、手紙のようだ。

 これはもしや、アレだろうか? ラブなレターってやつ。もしくは誰かのイタズラか。そっちの方があり得そうだけど。

 小首を傾げながらも、俺はとりあえず読んでみることにした。封筒の封を切り、中に入っていた二つ折りの紙を開いてみる。


 『すごいことに気づいてしまいました。

  きみのことを考えると、頭が熱くなるんです。

  だから放課後、屋上まで来ていただけませんか?

  よろしくお願いいたします。          』

                       


 「……なんだこりゃ」


 読んだら読んだでますますわからん。

 一見ラブレターっぽくも思えるが、頭が熱くなるとかって言葉だと血が上ってるとも捉えられるから、果たし状っぽくもある。仮にそれだとしたら、俺がいったい誰を怒らせたって話だが。

 うーむ、自分の目で確かめるべきか……。


 「ユッキー、おはよー!」

 「うっひょおおおおっ!」


 手紙に目を落としていると背後から声をかけられた。奇声を上げながら振り返れば、そこにいたのは夏凛だった。知ってたけどな、こんなことするのコイツぐらいだし。

 

 「あははははっ! ユッキーってばほんと面白いんだから~!」

 「こっちは笑わせようってつもりはないんだよ! ビックリしてるだけだわ!」

 「ふふ、ごめんね? おわびにはいっ、お菓子あげる」

 「お、さんきゅ――じゃなくて、こんなことしてる場合じゃないんだよ」

 「ん? どうかしたの、ってなにそれ」


 夏凛が俺の手元に視線を落としながら、目をパチパチと瞬かせている。

 

 「いや、俺もよく分からないんだがな、下駄箱に入ってたんだよ」

 「ふーん、誰かのイタズラかな」

 「決めつけるの早いな。ラブレターかもしれないだろ」

 「ふぅ~ん」

 「なにニヤニヤしてんだよ。俺がモテるのがそんなにおかしいか」

 「もう~、そんなことは言ってないじゃん。でもこれ、男子からじゃなくて?」

 「それはないだろ。字めっちゃ綺麗だし」


 目を落とすと、流麗な字で書いてある。男がこんなに綺麗な字を書けるのだろうか? いや、上手いやつもいるだろうけど。

 あれ、そういえば夏凛も、字がめっちゃ綺麗だったような……。


 「雫ちゃんか、あの人かもしれないねー」

 「あ、その可能性も捨てきれないか」

 

 仮にラブレターとして考えると、あの二人も候補に入ってくるな。どっちも俺のことをそんな目で見てるようには見えないが。

 百聞は一見に如かず、ともいうし、直接聞いてみたいとこだけど。友達関係にヒビが入ったりしたら嫌なんだよな……。

 ちょっと前までの俺なら、こんなこと考えもしなかったんだけど。


 悶々としながら考え込んでいると、ポンポンと肩を叩かれる。


 「ん、なんだよ」

 「悩んでても仕方ないし、放課後に確かめてみたら」

 「そう、だよな……」


 夏凛の言葉に、大きく頷いてみせる。

 気が逸ってて居眠りできそうにないし、とりあえずは授業とかで時間を潰すとするか。



 ◇



 放課後になり、俺は夏凛に一声かけてから、屋上へと向かう。興味があるとのことで、後ろから彼女もついてくることになった。

 一段とばしで階段を駆け上がり、屋上へと続くドアを開け放つ。気持ちのいい風が肌を撫でて、


 「……誰もいない」


 キョロキョロと辺りを見渡してみるが、人っ子ひとりいなかった。

 といっても放課後になったばかりだし、まだ相手は来てないのかもな。心の準備をする時間が取れそうだと考え、後ろを振り返る。

 すると夏凛のやつが、なにかを見せてきた。見覚えのある紙がそこにはあって。


 「ん、なに、『ドッキリ大成功』? は、まさかお前」

 「ふふ、実はあの手紙書いたの私でした~」

 「……っ」


 こっ、この女嵌めやがったな!?

 一日中そわそわしてる俺の顔を、やたらとニマニマ顔で見てたのは、こういうことだったのか。なんてやつだ!

 

 「お、お前だったのかよ……っ」

 「そうだよっ、ウソ偽りない私の気持ちがしたためられてます」

 「いやどこに書いてあったんだよ。むしろいまの俺の気持ちが代筆されてるわ」

 「あれっ? も、もしかして、怒ってる……?」


 おそるおそるといった感じで夏凛が訊ねてくる。俺が肩を震わせてるから、怒ってると勘違いしてるみたいだった。

 ちょっとはカチンときてるけど、俺はすぐさま溜飲を下げた。あとでなんかおごらせてやろうと考えつつ、ひとつ息をつく。


 「……いや、手の込んだことをしてくれたなと呆れてるとこだ」

 「相手が私で、がっかりした?」

 「べつに。これでお前との付き合いが、まだまだ続くんだろうなって、安心したとこ」

 「……そうだね。ずっと続くかもね」

 

 お互いにホッと息をつく。それから夏凛のやつが、俺の肩に頭をもたげてきた。


 「……ほんと、鈍いんだから」

 「ん? なんか言ったか?」

 「なんでもなーい。寒いから早く帰ろ?」

 「お前がこんなとこに呼び出したんだろーが。責任とれよ」

 「じゃあ、私の身体で暖を取ってもいいよ?」

 「さーて、家に帰ってゲームでもするか」

 「あっもうっ、無視するなコラ~っ!」


 腕に抱きついてくる夏凛をあしらいながら、俺は笑う。

 なんだかんだコイツとの時間が、俺にとって一番心地いいのだ。

 これから先もずっと、一緒にいたいって思えるような相手なんだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る