テスト勉強


 高校に入り、最初のテスト時期が近づいてきた。

 ここは偏差値がそこまで高くもないので、授業も簡単……かと思いきや、意外と難しい。

 何度説明を聞いてもちんぷんかんぷん。マズいな、赤点をとってしまうかもしれない。

 これまでどうにか補習を受けないできてた実績が、崩れ去ろうとしている。

 どうしようと頭を悩ませていたら、ふいに肩を叩かれた。


 「ユッキーどうかしたの? 落ち込んでるみたいだけど」

 「……テストがなぁ、ヤバいんだよ。このままじゃ赤点とりそうで」

 「にまにま」

 「なに笑ってんだよお前」

 「目の前に、後光が射してると思いませんかー?」

 

 まぁ、確かに射してるな。コイツの顔眩しすぎるんだよ。

 直視できなくなったので顔を逸らすと、頭を掴まれグイっと引き戻された。


 「な、なにをする……」

 「頼ってくれていいんだよ? そのための友達でしょ?」

 「……あ!」


 そうだ、コイツ頭いいじゃねーか! 余計なことに頭使ってて、すっかり抜けてたわ。

 俺は藁にも縋るような思いで、夏凛の手を握った。


 「え!? ゆ、ユッキー……!?」

 「頼む! 俺に勉強を教えてくれ!」

 「え、う、うん、いいけど、その、手っ――!」

 「ありがとな! 俺はお前みたいないい友達を持って幸せだ」

 「あぅ……」


 なんだなんだ、顔真っ赤だぞコイツ。勉強し過ぎて熱でも出たか?

 俺は俺で、勉強し過ぎて、頭がおかしくなってるかもしれんが。

 

 とはいえ、いまはひたすら詰め込むしかない。時間がないのだ。

 


 教室内だとにぎやかだし、家に帰ると遊びにうつつを抜かしそうなので、話し合いの結果、図書室で勉強をすることになった。

 二人で並んで図書室に入ると、ちらほらとほかの生徒が。みんなもここで落ち着いて勉強がしたいんだろう。

 近場の空いてる席に座り、俺は夏凛に向け頭を下げる。


 「と、いうわけで、夏凛先生。なにとぞご指導ご鞭撻のほどを」

 「オッケー。ビシバシいかせてもらうからね!」

 「……やっぱ、お手柔らかに」

 「もう~、いま頑張るのと、あとから頑張らされるのどっちがいいの」

 「それは、いまだな」

 「でしょ? それじゃ」

 「いまだけしか、お前が隣にいてくれないんだもんな」

 「――んっ!」

 「俺、お前が隣にいてくれなきゃ、頑張れる気がしないんだよ」

 「――んんっ!」

 「どうした?」


 なんかすげー頭から蒸気が漏れてるぞ。まだ勉強を始めてもいないってのに、だれるの早くないか?

 呆れた目で見つめていると、ふいに肩を叩かれる。


 「相変わらずいちゃついてるな……はぁはぁ」

 「あ、雫。と、美代さん」

 「こんにちはっ、由樹さん。と、若葉さん」

 

 振り返るとそこにいたのは、最近友達になった女子二人だった。二人とも、勉強道具を抱えながらってことは、ここでテスト勉強をする腹積もりらしいな。


 「なぁ、ここ、空いてる、か?」

 「あぁ、誰もいないから座っていいぞ。美代さんもこっちに」

 「ありがとうございます。ふふ、なんだかみんなでお勉強できそうで楽しみです!」

 「俺も美代さんたちとご一緒出来て嬉し――いでっ」

 「ユッキーほら、勉強しようね~?」


 夏凛が目で圧力をかけながら、ノートを手渡してくる。赤点候補のくせに油売るなとでもいいたいのだろう。

 しかたなく、ノートと向き合うことにする。


 「ここの解き方はね」

 「ふむふむ……なるほど。あーそうなるのか」

 「よくできましたぁ~。はいこれ、ご褒美のアメです。糖分補給は大事だからね?」

 「お、さんきゅ」

 「……これが、アメと、ムチ。やるな、夏凛」

 「もうっ、雫もちゃんとやらなきゃ、中学のときみたいにまた赤点とっちゃうよ」

 「うぐ……それは、やだ」


 チラと視線を向かい側にやれば、美代さんが雫の勉強を見てあげてるらしかった。

 まぁ、予想通りの構図といえるが。

 一息がてら、話しかけてみることにする。


 「あのさ、二人は中学の頃から一緒なのか?」

 「いえっ。雫と私は小さいころからの幼馴染みなんです」

 「まったく、世話、焼かせる」

 「それは雫でしょっ。朝起きられないし、忘れ物多いし、勉強苦手だし」

 「違う。お前が、過保護、なだけ。わたしは、流れに、任せる」

 「言い訳だけは一人前なんだから……。それで、由樹さんたちはいつからお付き合いを?」

 「え、いやだから俺たちは――むぐっ」

 「私とユッキーは中学からの付き合いなんです」

 「そうだったんですね! お似合いで羨ましいです」


 おいっ、口を塞ぐな、勘違いされてるだろ。付き合いって友達付き合いですって訂正しなくていいのかお前は。

 もやもやしながら場を静観してると、とつぜん雫が声を上げた。


 「なぁ、二人、とも。テストが終わったら遊びにいかないか? ……はぁはぁ」

 「え、いいのか?」

 「あっ、それいいですね! 由樹さんと、あと若葉さんとももっと仲良くなりたいですし」

 「俺も、二人と仲良くなりたいかな。夏凛はどうする?」

 「どうしよっかなー」


 小首をかしげ、悩んでるようだ。コイツの場合、ほかにも友達が多いから、おいそれと決断できないのかもしれない。

 ん、雫がなにやらジェスチャーを送っているような……。


 ややあって、パンと柏手を打った。

 

 「私も行くよ。せっかく誘ってもらったんだし」

 「決まり、だな。ひとまず、連絡、手段」

 「あ、じゃあみなさんで連絡先交換しましょうか? スマホ持ってますよね」

 

 美代さんの提案で、お互いに連絡先を交換することになった。まさか、俺のスマホに夏凛以外の女の子とのつながりができるなんてな。

 内心でにまにましてると、夏凛が肘で小突いてくる。


 「いって、お前っまた」

 「覚悟しててね……?」

 「え、」

 

 それはこれからみっちり勉強をさせてやるってことでしょうか。晴れやかな気持ちで遊びに出かけた方が気持ちいいって分かるけども。

 なのに、そんな色っぽい顔を覗かせるのはなんでだ。お前ドSなのか。



 ……ちなみにこの後行われたテストでは、全教科ギリギリ赤点を免れることができた。夏凛は余裕で一桁だし、美代さんは学年一位だったとのこと。

 そんなことよりも、雫が俺よりちょっとだけ点数高かったのが、納得いかないんだが。

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