同伴


 腹が減っては戦は出来んということで、近場にあるファミレスへとやってきた。

 まぁ、戦といっても、リアルでなくてバーチャルの方ではあるのだが。ゲームしてるときにお腹が空いてると、プレイミスが多くなるのだ。

 と、そんなことより、


 「んー?」


 隣を見ると、小首をかしげ、パチパチと目を瞬かせている夏凛がいる。いや、なんだよその顔。


 「ファミレスってさ、ひとりで入るのってけっこー勇気いるよね?」

 「それは、まぁ、な。コンビニとかと比べると、難易度高いが」

 「な・の・で、私がお供してあげようー」

 「ほんとのとこは?」

 「ただ飯にありつけるなぁ、やった~!」

 「本音が漏れてるぞ」


 本人がこのありさまなので、いちおう建前の方を説明しておくと。

 今日、母さんが所用により家におらず、夕飯が食べられないという事態に発展してたのだ。

 とはいえ、配慮はあった。テーブルの上に現金が置いてあったし、一緒に手書きのメッセージも置いてあった。

 

 『このお金で夕飯食べてください。あ、夏凛ちゃんも一緒にいるならどこか連れてってもらいなさいよ。あんた一人だとお母さん心配だから』

 

 なんで息子より女友達の方に信頼を寄せてんだこの人。分かるけど、俺だってそうするけど! 複雑!

 という涙を誘う展開がありつつ、夏凛の提案によりファミレスへと来た次第だ。

 

 「それにしても人多いね」

 「そりゃ夕飯時だからな」


 周りを見渡せば、仕事帰りの大人や、学生、ファミリー層までがおり、賑わいをみせている。

 それでも、二人だけということもあってか、割とすんなり席に通された。

 席へと座り、メニュー表を見る。いろいろ種類あるなぁ。

 

 「お前なに食べる?」

 「んー、私はいいや」

 「は? 遠慮するなよ。さっきまで、ただ飯にありつけるとか言ってたくせに」

 「あれは建前ですから」

 「本音じゃなかったのかよ。じゃあ、ほんとのほんとは?」

 「…………」


 おい、なんでそこで俺の顔を見る?

 母さんに頼まれたからか? それとも、本気で心配してくれてるのか?

 どちらにしろ、思いやりのある夏凛らしいな。恥じらっている理由が、ちょっと分からんけど。


 「せめて、ドリンクバーの飲み放題でも頼もうぜ」

 「そうだね。せっかく来たんだし」


 お互いに頼むものも決まったので、ボタンを押して注文を済ませた。

 待ってる間、ドリンクでも取りに行くか。腰を上げると、夏凛からの声がかかる。

 

 「あのさ、提案があるんだけど」

 「ん、なんだよ」

 「普通に飲むのもつまんないし、ここはさ、いろんな飲み物を混ぜたりしよーよ?」

 「やめとけよ、絶対マズいから」


 昔、この手の行為を嬉々としてやって、泣きを見た思い出がある。闇鍋とかと違って、自分で自分の首を絞めているというのがなんとも言えない。

 

 「で、お互いに交換するの。それでそれで、なにが入ってるかを当てましょう! ってゲーム。面白そうでしょ?」

 「とばっちり受ける羽目になるじゃねーか! ぜんぜん面白くない!」

 「安心して、ヘンなのは入れないから。じゃ、まずは私から」


 おいっ、て行ってしまった。なんであんな楽しそうにできるんだよ、ゲテモノもいけるくちだったりするのか?

 とにかく、待つしかない。

 いちおう、見えないようテーブルに伏せて待っていると、肩を叩かれた。

 見上げると、ニコニコ顔の夏凛。くそっ、火照ってのどが渇いてきてしまった。

 

 「はいっ、どーぞ」

 「あぁ……なんか、すげー色」


 ちょっと黒っぽい。匂いは、お茶っぽい感じもする。

 おそるおそる飲んでみれば、さっぱりしたのどごしと、炭酸っぽさ。


 「お茶と、炭酸」

 「もうっ抽象的すぎ。せめて名前まで当ててよ」

 「無茶言うなよ。つーか、これ入ってるの二つだけか?」

 「うんっ、簡単でしょ?」

 

 いや分からんわ。それにあんまりうまくないから、飲むのためらう。

 それでも残すのは気が引けたので、ちびちびやりつつ、俺は答えた。


 「んんー……緑茶と、コーラ、か?」

 「ぶぶーっ、おしかったね。正解はウーロン茶と、グレープ味のファ〇タでした~」

 「まぁ、こんなもんだよな。で、次は俺か」

 「ふふ、楽しみにしてるね」


 ヘンなの入れてほしそうな顔してるな。安心しろ、俺は鬼だから。めちゃくちゃマズいの作ってやる。

 ほくそ笑みつつ、俺は歩いていった。ゲームなので、負けるわけにはいかない。せめて引き分けに持ち込まないとな。

 ドリンクバーのマシン前に立ち、コップを持って、次々にボタンを押していく。


 「アイスのコーヒーだろ。緑茶だろ。コーラだろ。ジンジャエールだろ。カル〇スだろ……ま、こんなもんか」


 出来上がったものはかなり黒に近い色をしている。コーヒー色が強いので、見た目での判断はできないだろう。

 スキップ気味に戻ると、夏凛が俺の頼んだものに手をつけていた。


 「あっ、お前なに食ってんだ!」

 「んふふ~、ポテトおいひぃ」

 「俺のポテトが! 全部なくなってる! ハンバーグしかないっ!」

 「もうっ、ユッキーたらおそ~い。はいこれ、最後のポテト。あーん」


 この女、分かってないようだな。食べ物の恨みは恐ろしいんだぞ。

 そんな食べさせようとするだけで帳消しになるような代物では、


 「むぐっ」

 「どう? おいしい?」

 「……うまい、です」

 「ユッキーすっごく幸せそうな顔してる」

 「バッ――そんな顔してるわけねーだろ!」

 「じゃあ、もっとよく見せて」

 「断る」


 明らかに火照ってしまっている。あーんの力は偉大らしかった。夏凛補正も入ってるだろうけど。

 とりあえず、熱を冷ますべく、俺は手に持っていたドリンクに口づけた。


 「……んぇ、マズい。なんだよこれ」

 「あははははっ! ユッキー自分で作ったの飲んでる~!」

 「そうだった。すっかり忘れてたわ」

 「これじゃ、勝負にならないね。ん~、私の勝ちだったりする?」

 「ぐっ……不本意だが、そうなるか。ご飯、来ちゃったしな」


 勝負にこだわって、料理が冷めるのはいただけない。

 とりあえず、皿返せ。お前のやつじゃねーんだぞ。

 

 「ハンバーグうまっ。でも熱っつ」

 「んふふっ」

 「なんだよ、じろじろ見て」

 「ゲームに勝ったので、ご褒美を貰ってます」

 「は?」


 別にあげてないんだが。

 意味深な目を向ける俺をよそに、ハンバーグを頬張る俺よりも、幸せそうな顔を夏凛はしているのだった。

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