チャット


 『明日、ユッキーの家にお泊りしたいって話、伝えてくれた?』


 チャット画面にはそんなメッセージが表示されてある。差出人は、夏凛。

 届いたのはついさっきのことだ。ベッドで寝そべっていたところに、タイミングよく。

 俺はその内容に返事を返した。

 

 『あぁ。親には承諾をもらってる』

 『良かったぁ。ボツにならなくて』


 ホッとしてるかのような文章に、短く返事を返す。

 スマホを横に置き、俺は天井を見上げた。



 事の発端は、夏凛からの提案だ。

 俺との仲を深めたいとかなんとかで、お泊り会をしようとなったのだ。

 普通、男女でだと抵抗が有りそうなもんだけど、夏凛はいたって平然としていた。

 俺はやんわりと断ったんだが。結局押し切られる形になってしまった。

 場所の方に関してはこっちで指定させてもらったが。アイツの家で一泊はさすがにキツいしな。


 「はぁぁ……」


 ひとつ、ため息がもれた。

 もちろん、楽しみではある。期待値でいえば、遠足前の小学生と同じぐらいだろう。

 高校生活最初の大型連休を、アイツと過ごせるんだからな。


 「でも、複雑なんだよなぁ」


 アイツが俺を信頼してそんなこと言ってるのは分かるんだが、友達である前に、男と女なのだ。

 こっちにも我慢の限界というものがある。バナナがおやつにされないとは限らないのだ。


 「……ん?」


 再び、スマホが震えた。

 確認する。差出人は当然、夏凛だ。


 『なに着ていこっかなー?』

 『なんでもいいだろ。まぁ、明日は晴れみたいだから、薄着でも大丈夫じゃないか』

 『そっか。じゃあ選んでくれる?』


 最後の文章の後に、画像が貼り付けられている。夏凛の私服がいくつか並んだ写真だった。


 『じゃあってなんだよ。自分の服だろ』

 『迷っちゃってて選べないの。だから、ユッキーに私のカスタマイズをお願いしようかなって』

 『なら、メイド服で』

 『分かった。明日、おばさまたちのいる前でひたすらご奉仕してあげるね? ご主人様?』

 『ごめんなさい。冗談です。勘弁してください』


 ほんとにそんなことされたら、親にどんな目で見られるか分からない。勘当されてもおかしくない。

 真面目に選ぼう。着てこられたら困る。

 夏凛の撮った写真には、いろんなジャンルの服がある。可愛い系やら、綺麗系やらだ。迷うなこれ。


 『じゃあ、この左から二番目のやつで』

 『オッケー。着ていくから楽しみにしててね』


 よかった、すんなり通った。

 ホッと息をつきながら、スマホを置こうとすると、再びの通知。


 『なに穿いていこっかなー?』

 『またかよ。なんでもいいだろ』


 上は決めたんだから下は自分で決めろよ。

 呆れつつ、画面に目を落としていると、続きが送られてきた。


 『ユッキーはさ、何色がいい?』

 

 今回は画像とか送ってこないのか。というか、なんで色?


 『いま、真剣に考えてくれてるんだね』

 『茶化すなら電源切るぞ』

 『ごめん。待ちます』


 そうだなぁ、上が白系だから、下は黒系の方がいいか。オシャレとかよく分からんし、無難なやつにしとこう。

 なに着ても夏凛なら似合うだろうし。


 『黒とかでいいんじゃないか』

 『そっか。ユッキーは黒が好きなんだ』

 『別に、白でもいいんだけどな。ボトムスなんて』


 返事を返すと、すぐさま返ってきた。

 まるで狙っていたかのように。


 『下着の話だよ?』

 「ぶふっ――!?」


 俺は吹き出した。恥ずかしさで顔が熱くなる。

 は、ちょ、おまっ、ふざけんなよ! 黒い下着つけてるとこ想像しちゃったじゃねーか!

 悶々としている俺に、またも通知が送られてくる。


 『真剣に考えてくれてありがと』

 『ユッキーのえっち』

 『明日は覚悟しててね?』

 『じゃ、おやすみなさい』


 「こ、コイツめ……」


 絶対にわざとだ。狙ってやってただろどうせ。

 俺今から寝ようと思ってたのに、これじゃ寝れる気がしない。寝不足確定だ。

 ほんと明日、どうしてくれようか……?

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