第14話 不思議な占い屋

 2022年7月18日


 私は置時計を手に入れる為、魔法少女を探し回っていた。今まで三回とも、時計を受け取ったのはこの日だ。


「こんにちは!」


 後ろから突然話しかけられ、私は驚いた。


「もう四回目だよ? また必要なの?」


「はい……。」


「仕方ないから占ってあげるね!」


 そう言って彼女は私の手を引いて路地裏に案内した。



 そこには占いの屋台があった。屋台にはピンク色の少し派手めの看板が置かれており、「サリリの占い屋さん」とデコレーションされた可愛い文字で書かれている。


(本当に占いやってたんだ……。)


「さぁさぁ座って!」


 私は促されるまま屋台の正面に置かれた椅子に座った。


 タロットカードを取り出した彼女は、信じられない程のスピードでカードを切ってテーブルに伏せた状態で並べていく。


「この中から好きなカード5枚めくってね!」


 私は言う通りにカードをめくる。


 めくったカードの意味は分からないが、魔法少女はうんうん唸っている。


「もしかして5歳以前の記憶がない?」


「え?」


 確かにその通りだ。私には5歳以前の記憶がない。何故かは知らないし、それ程気にしたこともなかった。


「はい。あまり気にしてなかったんですけど、私にはその頃の記憶がありません。」


「そっかぁ……じゃあ聞いても分からないかもしれないね……あなたはその頃〇〇って所に住んでたはずなんだけど覚えてる?」


 〇〇は樹君の実家のある町だ。そして恵奈が昔住んでいた所でもある。


「あなたはその当時の記憶を取り戻す必要があるみたいね。」


「それってどういう……」


「はい! 占い結果が出ました。2007年1月10日に行って下さい!」


「え?」


「え? じゃなくて、その日に行ってくれば分かるから!」


 ほらほら! と言って無理矢理背中を押される。力が強いのか、かなり痛い。


 私は訳もわからないまま屋台を追い出されてしまった。


「ちょっと待っ……」


 どういう事なのか問いただそうと振り返れば、そこには屋台も魔法少女の姿も無かった。



 夢でも見ていたのかとも思ったが、私の手には魔法の時計がある。


(15年前…? 何があるってのよ……。)


 私は家に帰ると魔法少女に言われた通りに時計を設定した。





2007年1月10日


 目覚めると知らない部屋だった。母が起こしてくれたようだ。


 全く知らない部屋のはずなのに、既視感を覚える。それに関しては自分の記憶がないせいだろう。時計を確認すれば、七時半だった。


「おはよう。お着替えして顔を洗っておいで。」


(若いころのお母さん……。)


 さっと着替えた私は、場所が分からなくて母に聞く。


「わかった。洗面台どこ?」


「あらあら? 甘えてるのかな?」


 本当に分からないんだけど……。


「一緒に行きましょうね?」


 着替えも随分早かったし、洗面台なんて言葉…教えたかしら?と母は呟きながら私を案内してくれた。


 顔を洗い、歯磨きをしてトイレを済ませる。


「偉いわ! 一人で歯磨きするようになったの?」


 当時の私は一人で出来なかったらしい。


「う、うん。」


 普通にしているつもりだったがそう言われると、なんだかなぁと思ってしまう。


(やりにくいなぁ……。気を付けないとね。)


「それじゃあご飯にしましょう。」


「そうだね。たまには私が作ろっか? 目玉焼きで良い?」


「え?」


 母は目を見開いて驚いている。


(しまった! 今の私は四歳。いくらなんでも不自然過ぎる。誤魔化さなきゃ。)


 さっき気を付けようと思ったばかりなのに、私はまだ寝惚けているのかもしれない。


「テレビで見た。」


「あっ。そういう事だったの。」


 とりあえず納得してくれたようで何よりだ。


 朝食は焼き魚と卵かけご飯だった。


 久しぶりの母の料理にもくもくと食事をとっていると……。


「綺麗に食べられるようになったな。ちゃんと骨も取ってるし偉いぞ。」


 と父に褒められた。


「いや……もう子供じゃないんだから、汚い食べ方してたら恥ずかしいよ。」


「ええ?? 子供だろ……。」


(私のバカ……。)


「テレビの真似っこみたいよ?」


「そういう事か……。」


 勝手に納得してくれて助かった。


 喋れば喋る程ボロが出る。


(子供の頃どんな風に話してたかなんて覚えてないよ。もう、ある程度開き直っちゃおう。)



「今日は樹君の家で遊ぶんでしょ? あんまり恵奈ちゃんと喧嘩しちゃダメよ?」


「え?」


「あれ? 忘れてたの? 約束してたじゃない。」


(樹君……? 恵奈ちゃん……?)


「うっかりしてた。明日と勘違いしてたみたい。」


「あらそうなの? お母さん準備できたら声かけるからね。」


「うん。」


「お父さんは?」


「お父さんはお仕事よ。」


 考えてみれば当たり前だった。


「お父さんは何の仕事?」


「お父さんはね。火を消すんだ。どうだ?恰好良いだろ?」


「火を消す? あぁ、消防士って事? それだと分かりにくいよ。」


「え? あ、あぁ……すまん。」


 父は意気消沈してしまった。なんだか可哀そうな事をした気がする。


 私の記憶では父は会社員だったはずだ。公務員ではない。


(私の記憶が失われるような何かがあって、仕事をやめて引っ越した?)


 普通に考えれば転職しただけなんだろうけど……。


「じゃあ仕事に行ってくるよ。」


「行ってらっしゃい。」


「行ってらっしゃいのチューは?」


「え? しないけど。」


 父は落ち込み、今日は娘が冷たい……と言って出かけて行った。


「慧ちゃん、今日は様子が変ね……。家でゆっくりした方が良いかしら?」


(待って、それは困る。)


 樹くんと恵奈ちゃんは、失われた記憶の手掛かりかもしれない。


「大丈夫だよ。元気だし、樹くんと恵奈ちゃんに会いたくて会いたくて震えるよ?」


「なにそれ?」


(あれ? 西野ナナってまだデビュー前だったっけ?)

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