第13話 二度目の大学生活

 恵奈と樹君が付き合い始めた。紹介したいからと三人で会う約束をしている。


 待ち合わせ場所は例の喫茶店だった。私達三人は余程この喫茶店に縁があるのだろう。


 恵奈は私を親友として紹介してくれ、楽しく三人で会話してショッピングへ。


 二人にとっては私達三人でのお出かけは初めてかもしれないが、私にとっては待ちに待った久しぶりの三人でのデートだった。


 本当にここまで頑張った。これまでの事を振り返り懐かしく思いながらも、私だけは樹君とは結ばれない事実に涙を抑えきれない。



「良かったね。恵奈……本当に良かった。」



 そう言いながら、親友を祝福している事を涙の理由に使わせてもらった。これに関しては嘘という訳ではないし、私自身の悲しさを覆い隠す為にも許して欲しい。


 恵奈は事情を察してかこちらに合わせてくれ、ありがとうと言って私を抱きしめてくれた。


 三人でのデートは本当に楽しかった。


 デートの後は、かつて別の時間で私達三人が住んでいたアパート…今は二人が住んでいるアパートへ私を招待してくれた。


 私はこんなにも涙腺が緩かっただろうか? 涙を堪えるのが大変だ。


 恵奈は事情を知っているが、樹君にしてみればすぐ泣く子だと思われてそう。



 そう……私が思っていると、恵奈の口から信じられない話が飛び出してきた。



「慧も良かったら一緒に住もうよ。」



 最初は何を言っているのかわからなかった。もちろん私にとっては嬉しいが、事情を知らない樹君にしてみれば青天の霹靂だ。



「え? 慧さんも住むってどうゆうこと?」



 樹君は戸惑っている。それはそうだ。当事者の私でさえ唐突過ぎて、理解が追い付いていない。



「恵奈、どうゆう事?」


「だって、前は三人で付き合ってたんでしょ?」


 確かにそうなんだけど、樹君はそれを知らないのだ。



「この話はね……長い話になるから、いっくんもしっかり聞いてね。」



 私の代わりに恵奈がこれまで私が頑張ってきた事を説明する。


 当たり前だが、樹君は大分疑っていた。私が未来から来たなんて話普通は信じない。


 これは完全に想定外だった。私は樹君にこの話をするつもりなんて全くなかった。


 でも、一度話してしまった以上なかった事には出来ないし、信じてもらうしかないので私の知っている未来の確定情報をいくつか言っておいた。そのうち本当だったと信じてくれるだろう。


 それに同じアパートで樹君と恵奈が再会する事を高校時代の私が言い当てた事もあり、一旦は信じる方向で樹君も話を進める事にしたようだ。


 でも樹君の表情を見れば分かる。私を何か気味の悪いものを見るような目で見ている。


(人によってはそうなっちゃうよね……。樹君にはそういう風に見られたくなかったな……。)


 恵奈も樹君を見て察したようだ。


「いっくん? 病気のいっくんや私を誰が支えてくれたと思ってるの?」


「で、でも…それは今の俺達じゃないし……。」


「だからって恩人をそんな目で見るの? しかも自分から手を出した相手に?」


 恵奈の目つき険しくなる。


 ここに来て私は自分の失敗を悟った。恵奈は私と同様依存心の強い女だ。以前は樹君だけに向いていたその感情が、今は私にも向けられている。私を悪く思っているのが気に入らないのだろう。


 そして私が最後一緒に暮らしていたのは、良くも悪くも濃い日々を送った大学二年生の時の二人だ。今の二人は、私の知る二人には心の成長が追い付いていない。


「恵奈はそもそもそんな話信じてるのかよ。」


「当たり前だよ。そもそも慧の言う事が外れた事なかったし。」


「でも、知りようのない事に関しては嘘ついてるかもしれないじゃないか!」


「慧が嘘つくわけない!」


 私は慌てて二人を止める。


「ちょっと落ち着いて二人とも。」


 喧嘩は一旦止まったが、空気が悪い。


「あのね。私はそもそも樹君にこの話をするつもりは無かった。二人が幸せならそれで良かったの。」


「それじゃあ慧はどうなるのよ!」


「私だってそのうち良い人見つけるよ。」


 自分でも無理して言ってるのは分かってる。将来は分からないけど、少なくとも現時点ではそんな気になれない。


「ねぇ! いっくん……引き止めてよ!」


「いや…俺は慧さんの事良く知らないし……。」


「ねえ、恵奈もさ……私の事信じてくれるのは嬉しいけど、樹君が納得できない気持ちも分かって……。」


「でも……。」


「樹君からすれば、いきなり現れた良く知らない女と、前は三人で一緒に住んでました。って言われてるんだよ?」


「……。」


「まぁ……あんまりな言い方かもしれないけど、そうだね。」


 ぶすっとした顔で樹君が返答する。


「もうこの話はおしまいにしよう? 私にとっては久しぶりに三人で過ごすんだから、楽しい時間にしたい。」



 その後も気まずい空気は払拭出来ず、私は長居する事無くアパートを後にした。




 あれから度々恵奈から誘われ三人で過ごしてみたものの、前回のような関係性には至らず、どうしてもぎこちなさがある。


 恵奈は何度も樹君に例の話をしているようで、樹君から相談されるようになった。


 恵奈とは付き合い続けているが、樹君は恵奈に疲れてきているようで、私に癒しを求めるようになり何度か肌を重ねた。


 罪悪感はあるが、それに関して恵奈は気にしていないようだったので、私も気にする事をやめた。


 

 一年かけて私たちの関係は変わってしまった。樹くんが私に依存し始め、恵奈を雑に扱うようになったのだ。


 恵奈は私と樹君から離れたくない。樹君は恵奈と離れたいが、私とは離れたくない。私は恵奈と樹君から離れたくない。


 奇妙な三角関係が形成されてしまった。


 私が望んだのはこんな関係じゃない。

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