話し合いタイム
他の人に聞かれたくない話し合いの場となると、場所を選ぶ必要がある。あたしはおばあちゃんにみんなでトランプで遊ぶと言って、大部屋の座敷を貸してもらった。
突然現れた茶羅は、雄津さんの友達と紹介した。
あたしと秀人が並んで座り、雄津さんと檜山さんがテーブルの向かいに座る。茶羅だけは足を崩して座り、一人だけお誕生日席のように座った。みんなの前には、おばあちゃんによって湯呑が置かれた。そしてやしゅろにある人生ゲームやすごろく、トランプやUNOなどのカードゲームも勢ぞろい。
茶羅は雄津さんの部屋や屋根を修繕し終えて、しばらくぐったりしていたが、ゲームに気が付くととても興味を示した。ここに集まるカモフラージュのためで、遊ばないと言うと、子犬のようにうなだれてた。
龍の姿のときと、態度が違いすぎて戸惑う。(あたしと雄津さんたちが朝食を食べているうちに、雄津さんの部屋は修繕されて、元に戻った)
秀人によると、龍の態度や言動はその姿に由来するところが大きいらしい。
あたしはおばあちゃんが淹れてくれたお茶をずずずと吞む。相変わらずおいしい。
檜山さんがお手本のような所作で、湯呑に口をつける。そして口を開いた。
「さて。何から話してもらおうかしらね。あなたたちだけでは、話し合いがこじれそうだから、私たちが間に入ることにしたわ。どうぞ、存分に話してちょうだい。もちろん、このことは他言無用よ」
「……雄津さんは、龍の研究をしているんですよね。それなのに、このことは秘密にしてもらえるんですか」
秀人が用心深く切り出す。雄津さんは甘いものと苦いものを同時に食べたような顔をした。
「正直に言うと、今にも叫び出しそうだよ。茶羅くんを見て、興奮しっぱなしだよ。世間に向かって、龍はいると公表したい気持ちはある。僕も研究者の端くれだからね。だけれど―――」
雄津さんは恨めしそうに、秀人を見る。
「龍がいることを、七宝神社サイドは把握している。それにも関わらず、外部にも島民にさえも隠している。僕が接した限り、信仰として龍を信じているお年寄りはいたけれど、実際に見たという人はいない。なぜ隠すのか? それは都合が悪いことがあるから?」
「過去に龍と人間の戦争になっちゃったんスよね~ オレの住んでいる土地でも、水鏡の龍と人間の戦争は有名な話っス」
と、茶羅が軽い口調で重いことを言った。
せ、戦争!? あたしはだらしなく口をぽかんと開け、雄津さんと檜山さんはそろって息を呑んだ。
秀人は頭を抱えて、補足説明をする。
「はぁ……。戦争ってほどじゃなくて、紛争だったらしいですけど。水鏡島と本土との交流が始まったのは江戸時代と言ったのは覚えてます?」
「うん。交流が近年になったおかげで、独自の文化が発展していたんだよね」
「本土との交流が始まる前に、いざこざがあったと史実に残っています。水鏡島は本土と交流をすることに消極的でした。それなのに、本土は軍勢を送り込み、無理やり交易を始めさせたんです」
瞳さんが口元を手で覆う。
「ひどい……」
「そのときに本土の兵に抵抗したのが、瀬名の一族―――つまりはおれの先祖と龍たちです。武力を持たない島の人々に代わって、本土の侍と戦いました。戦いは三日三晩続き、決着はつきませんでしたが、島の人間も本土の人間も深手を負いました。繊維を失うほどに、傷つきました」
「それで、水鏡島は本土と交易を始めたのかな?」
雄津さんは辛そうに聞く。
「双方のトップが話し合いをし、互いに条件を受け入れるて交易を始めました。水鏡島は島の港を開き、本土の文化を受け入れることを許諾しました。本土は、当初は水鏡島を統治しての交易を望んでいましたが、水鏡島の抵抗を受けて、対等な立場での交易を許諾しました。怒らせたら何をしたら分からないやばい一族と思ったんでしょうね」
ええと、つまり。あたしは秀人の説明をまとめようとする。
水鏡島と本土の間で戦いがあり、決着はつかなかった。話し合いによって、水鏡島と本土とは対等に交易を始めることになった、と。
でも、おかしい。小学校では、開港を迫った本土と戦ったとは勉強していない! それに龍のことだって。
それに、そんな壮絶な戦いがあったのなら、龍のことや戦いのことは語り継がれているはずだ。龍の伝説について、聞かせてくれた島のおじいちゃんおばあちゃんの顔が浮かぶ。
「歴史の真実と龍は隠ぺいされたんだねそしてそれは、瀬名の一族が関わっていた?」
秀人がとてもうなずきたくなさそうに、うなずいた。
「瀬名の一族は龍に仕えることと引き換えに、龍の力を得て様々な秘術を学び、一族に代々受け継がせていきました。資料を捏造することも多聞にありました」
瞳さんがひた、と秀人の目を見つめる。
「一体どうやって、真実を知る人たちの口を封じたのかしら?」
「それは……」
秀人が押し黙る。と、発言したそうにむずむずしていた茶羅が、また爆弾発言をする。
「記憶を消したんだよね!」
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