第六話 ・お別れですか? いいえ始まりです
フェイちゃんとのお買い物を、終えた日からの私は意外にも忙しい日々を送っていた。
とりあえず、やたらとお茶会と、お見合いもどきが開かれた。
お茶会は同年代の女の子達とお話をする場である。しかし、どうにも所謂派閥というものが関係しているのだろうか、参加した少女達は皆、私を褒め称え、接待に徹してきたのだ。
この状況は私にとってハーレムに等しく、勿論楽しいのは楽しかったのだが、純粋には楽しめないでいた。私はあくまで、彼女達とも友達になりたかったのだ。しかし、彼女達はどこか一歩引いた余所余所しい態度で、まるで壊れ物か爆弾でも扱うかのように私に接してくる。
それは、なんとなしに目の前で紅茶を嗜む、昇天ペガサス盛り(大げさ)ロリを眺めていた時の事である。私と一瞬目の合った彼女はプルプルと、まるでチワワのように震えだし、ティーカップをひっくり返してしまったのだ。それからの彼女は、とてもじゃないが見ていられないものであった。
慌てに慌て、最後には泣き出してしまう始末。彼女を必死に慰めようとしたが、中々上手くいかず最終的には私が、気配遮断を発動したらなんとか泣き止んでくれた。
そんな状況ですらも、周囲の子達は『まるで聖母のようだ』とか『自愛に満ちた女神様』だとか私を賞賛するばかり、流石に鈍感な私でも異常な空気に気がついてしまう。
一度気付いてしまえば、浮かれていた気持ちも一気に覚め、それからは居心地の悪さが目立つばかりで、私はすっかり気疲れしてしまった。
お見合い
今回、唯一の救いとい言えば、例のショタこと、クリス君が参加していた事か。
彼も整った顔立ちをしているものの、なんというかアレだ。イケメンとは別枠だ。彼はエスコート的には、てんで駄目太郎であったが、凄く一生懸命で私の荒んだ心を癒してくれた。
それと、なんと彼のエバール家は侯爵家であるらしいのだ。私のヴェルロード家は建国時から続く名門伯爵家で、同じ伯爵位の中では群を抜いているのだけど、相手が侯爵家ともなれば、釣り合いは取れるだろう。もし、私がロリコンレズをこじらせて、行き遅れたら彼は貰ってくれるだろうか? しかしアレだな、クリス君は嫁を貰うというより、婿入りする姿がよく似合う気がする。
まぁ、どちらにしろ、その頃には彼もショタっ子を卒業し、結婚してるだろう。
嗚呼、私の将来は暗雲が立ち込めている。
そうこうしている間に、一週間の時が流れた。
ついに帰宅の時がやってきたのだ。
フォレスローザに来た時と同じく、逞しいスレイプニルに馬車を引かせて家に帰るらしい。ちなみに、この一週間の間、フェイちゃんとは一度も会っていない。彼女も忙しいのだろう、別に私が嫌われてるわけじゃない、絶対違う……。
左手の薬指にはめられた指輪を軽く撫でる、よし! もう大丈夫だ。
少しばかり寂しさが残るが、踏ん切りを付け馬車に乗り込もうと足をかけた時、
「ーーメルルさん」
「え、フェイちゃん!」
なんと、フェイちゃんから声がかけられました。
軽く息を乱しながら私の前に立つ彼女、きっと忙しい中、急いで私の出迎えに来てくれたのだろう。
やっぱり、フェイちゃんは健気なイメージがよく似合う。
「遅れてごめん。でも、間に合ったみたいで良かったよ」
「ううん、ありがとう。最後にフェイちゃんと会えて嬉しかった」
本当に良かった、このシュチュエーションだけで三年は戦えそうである。
「ふふ、最後だなんて、大袈裟じゃないかな? 僕らはきっとまた会う事になるさ。それに、いつでも連絡なら取れる」
そう言って彼女は、おもむろに私の手をとり小さなメモを握り込ませてきた。
どうにもメモには手紙の宛名が書かれているようだ。
いじらしいじゃないか……テンション上がって来た!
「うん、帰ったらすぐに連絡するから。待っててね!」
「勿論だとも、首を長くして待たせてもらう事にするさ」
それから、すぐに彼女とのお別れになったのだけど、結局別れの言葉は口にしなかった。私達の物理的な距離は遠い、そうすぐには会うことは出来ないだろうけど、いつかまた会う事は不可能なわけではない。きっとまた、彼女と一緒にお買い物に出かけれる日も来るだろう。
ふふ、彼女が私からの手紙を待つのなら、私は再開の日を今から待ちわびるとしよう。
いくらでも待たせてもらうぞ、フェイト・フォーランド。
多くの経験と代え難い出会いを得た、フォレスローザでの一週間と少しはこうやって幕引きとなった。
しかし、この時、まさか慣れ親しんだ地元が大変な事になっているなど、満ち足りた思いで帰路につく私は考えもしなかった。
~~おまけ・次章予告~~
迫り来る不死の軍団、迎え討つは民の苦悩を憂い、立ち上がった一人の少女。
彼女の名はメルル・S・ヴェルロード。
聖なる輝きを放つ光の衣を纏いて、この地に降り立った。
後の世の聖少女、その人である。
そして、前代未聞の孤独な聖戦が此処に始まる。
溜め込まれた嫌悪は、ついに爆発の時を迎えた。
闇夜に紛れ襲いかかる凶刃、迎え撃つ少女。
命を賭した戦い。
道理か、それとも合理か……互の正義がぶつかる時、一つの結末のみが残される。
少女に仕える老人は、彼女に対して主従関係以上の感情を抱いていた。
しかし、彼女は老人の手には余る存在であった。
愚かな傲慢か、はたまた健気な親愛か、
どちらにせよ忠誠心を超えた不相応な感情は、必然的に悲劇を齎す。
願わくば、愛しき者との別れが彼女を更に強くする事を祈ろう。
彼は彼女をこう評した。
『どこまでも優しく、残酷な御方だ』
今、歪んだ師弟関係に決着が付けられる。
物語は祝福の儀をもって幕を上げた。
しかし、幕開の前から燻り、錯綜し、もつれた糸のように絡み合った関係は、清算しなければならない。
・第二章 《鮮血の清算編》
P.S.次章予告はそこはかとなく合ってます。
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・昇天ペガサス盛り(×)→ベルフトタワーウィッグ
ベルフト王国の高貴な婦女子の間で、流行りの斬新でセンセーショナルな髪型。
まるで重力に対する反逆の如く天を突く異様は、
見るものの心を捉えて離さない事間違いなし。
控えめ令嬢なんてもう古い! 気になるあの子の興味を惹きたい貴女は盛りに盛りまくるべし!
ちなみに、土系統の素養を持つならより繊細な意匠を、水系統なら素敵な香を自分で付加するのが最新のトレンドである。
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