第18話 決戦を控えて

僕と黄田と丁の三人は、車に乗ってエデンサーバーがある研究所へ向かった。

飛行機に乗らなかったのは、エデン維持過激派の無人戦闘機とロバーツが用意した無人戦闘機が、何度も戦闘を繰り広げていたからだ。

車中、突入隊のリーダーに選ばれた黄田は、再び作戦の確認を行った。


「もう一度、作戦を確認するわよ。まず、無人戦闘機が研究所周辺の航空兵器を殲滅し、その後、地上からヒューマノイドとテレイグジスタンスで動く人型ロボットで、外にいる敵の戦力を全て排除します。私たちはそれが完了した後、姿を隠して研究所へ向かいます。中に入ったら研究所のシステムにアクセスできる場所へ行って、この青のフラッシュドライブを差し込みます。これで向こうの防御システムをハッキング出来るようになり、相手の戦力を大きく削ることができます」


僕と丁は黄田の手にある青いフラッシュドライブを見ながら黙って頷いた。


「赤の方は、エデンサーバーに差し込むもので、記憶の活性化と不活性化のみを止めるプログラムが入っています。それぞれ使う場所も役割も違うから間違わないでね。エデンサーバーを完全停止させる鍵を見つけた場合は、本部に連絡した後、鍵をエデンサーバーに差し込んで停止させます。エデンに任せているインフラの一部が一度完全停止することになりますが、すぐに我々が作ったシステムが動き出すので、被害は最小限に抑えられるはずです。質問は?」


黄田の問いかけに、僕と丁は何も答えなかった。


「よし。じゃあ、この作戦、必ず成功させるわよ」


「はい」


車の中なので、僕と丁は少しだけ気持ちのこもった細やかな返事をした。




僕たち三人は1日かけて無事、エデンサーバーがあるカリフォルニアの研究所に着いた。研究所周辺は味方の拠点が研究所を取り囲む形で複数作られ、上空にも味方の無人戦闘機が何十機も飛び回っていた。


僕たちは北西にある拠点の一つに入った。中に入ると、そこでは複数のテレイグジスタンスで動く人型ロボットが武器や燃料のチェックを行なっていた。


「おはようございます」


僕たちがあいさつをすると、人型ロボットの人たちもそれぞれ僕たちに言葉を返してきた。そして、そのうちの一つが僕たちに近づき、声をかけてきた。


「おはよう。長い車移動で体は疲れていないか?」


「ああ。その声はマラハイドさん」

黄田が声を上げた。


「さすが黄田。すぐに気づいたな」


声の主は解放派の副リーダーであり、刑事のマラハイドだった。リモート会議の時と違い、彼女はとてもフランクな感じで僕たちに接して来た。


「ここで何をしているんですか?」

黄田がたずねた。


「ヒューマノイドの設定や武器の準備だ。明後日の攻撃に備えてな。取り敢えず、部屋に案内するよ。ついて来てくれ」


僕たちは荷物を持って、マラハイドの後をついて行った。奥に進むと、そこには六畳ほどの個室が6つ用意されていた。


「好きな所を使ってくれ。トイレやシャワーは共同で、食べ物はさっきの場所にある」


「分かりました」

三人はそれぞれ返事をした。


「よし。じゃあ動きやすい服に着替えて、15分後に外へ来い。なまった体を鍛え直してやる」


「えっ」

僕たち三人の声がハモった。


「だってそうだろう。お前たち、これから中へ侵入するんだぞ? きちんと体を動かしておかないと怪我するぞ?」


確かに。


「じゃあ、外で待ってるからな。ついでに基本的な武器の使い方も仕込んでやる」


僕たちは着いて早々、マラハイドの訓練を受けることになった。




彼女の訓練は、日が落ちるまで続いた。準備体操の後、走ったり筋力を鍛えたりする運動をいくつも行い、その後は銃やグレネードの扱い方を一通り習った。


訓練終了後、僕はシャワーを浴び、食堂でアミノ酸が多めの食事を取った。そして部屋に戻るなり、すぐさまベッドの上で横になった。

明日もこんな訓練をするのか? もう十分だ。明日のことを思い、僕がブルーな気持ちに浸っていると、突然、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

ドアを開けると、そこには黄田が立っていた。


「今、ちょっといい?」


「はい」

僕は黄田を中へ迎え入れた。黄田は近くにあったイスに腰掛けた。


「どうしたんですか、急に?」

僕はベッドの上に座って、彼女に質問した。


「ちょっと、確認しておきたいことがあって」


「何ですか?」


「重紀君。あなた、人を撃つ覚悟はできてる?」


「えっ?」


「直接恨みのない人間に対して、引き金を引く覚悟ができているのか聞いているの。あなた、引き金を引ける?」


「多分、大丈夫だと思います。彼らは安室さんをはじめ、多くの無関係な人たちを殺しましたから」

僕は少し考えてから、彼女に言葉を返した。


「そう。ならいいわ。ただ訓練中のあなたを見ていて、あまりに普通だったら心配になって声をかけたの。覚悟ができているなら、それでいいわ」


黄田は少し穏やかな表情を浮かべ、イスから立ち上がった。


「明日も頑張りましょうね。じゃあ、おやすみ」


「おやすみなさい」


黄田は部屋を出て行った。僕は彼女に一つ嘘をついた。人を殺す覚悟ができたのは、さっき彼女から質問を受けた時だ。僕は目まぐるしく変わる状況についていくだけで一杯一杯になっており、自分が直接生身の人間に対して引き金を引くことなど全く想像していなかった。


この日、僕は早めに就寝し、次の日は維持過激派のメンバーに直接引き金を引く事を想定しながら訓練に臨んだ。

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