第19話 決戦

決戦の日は、快晴だった。


僕たちエデン解放派は、研究所を取り囲むような形で地上に戦闘用ヒューマノイドとテレイグジスタンスで動かす人型ロボットを配備した。無人戦闘機は既に半分以上出撃させ、戦闘用ドローンは戦いが始まったらすぐに発進できるよう武器庫から表に出した。


僕と黄田、それに丁の三人は光学迷彩服を着て、戦場から少し離れた林に身を隠していた。


「セシル、丁君、戸矢君、聞こえるかい?」


エデンデバイスを使った無線を通じて、ロバーツが話しかけて来た。


「聴こえます」


三人はそれぞれマイクを通して彼に返事をした。


「これから無人戦闘機とヒューマノイドが先行する形で、研究所に攻め込みます。君たちは侵入ルートが確保された後、研究所の中に入って向こうの防御システムをハッキングして下さい。その後、エデンサーバーがある中央制御室に行って、プログラムの書き換えをお願いします」


「了解」


「それでは、皆さん幸運を祈ります」

ロバーツが通信を切った。


「丁さん、重紀君。最後にもう一つ確認」

近くにいると思われる黄田が、話しかけてきた。


「光学迷彩服から武器を取り出す時は注意してね。その瞬間、光学迷彩が切れて位置を特定されてしまうから」


「了解」

僕と丁はそれぞれ返事をした。


「これより作戦を開始します。皆さんの健闘をお祈りします」


解放派のリーダーであるメンガが、この場にいる全員に向かって作戦の開始を宣言した。ヒューマノイドたちがゆっくりと前進を始め、無人戦闘機が研究所の方へ向かっていった。


さて、向こうはどう応戦してくるだろうか?


僕は少し興奮しながら眼前にある戦場を眺めていた。すると、突然、上空から強い光が降り注いできた。


その光を浴びた無人飛行機とヒューマノイドは、1秒程度当てられただけですぐに爆発した。味方の隊列はグチャグチャになり、身を隠す場所があったものは、すぐにその陰に隠れた。


「あれは何?」

黄田が口を開いた。


「おそらく衛星レーザーじゃないかな?」

丁が冷静な口調で言った。


「私たち、どうすればいい?」

黄田が再びたずねた。


「メンガさんたちが何とかしてくれるまで、当初の作戦通り、このままここで待機するのがベストだと思う」


「そうなの? 分かった。このままここで待機するわ」

黄田は丁のアドバイスに素直に従った。


「皆さん、聞こえますか?」


少しして、メンガから通信が入った。


「今の攻撃は、アメリカ軍の衛星兵器によるものです。衛生兵器の一つが維持過激派にハッキングされ、それにより攻撃を受けたのです。その衛星兵器は近くにあった人工衛星をぶつける事で破壊に成功しました。ですから、しばらくは大丈夫です」


「メンガ。それかなりまずい方法よ。デブリがばら撒かれる」


現場で指揮をとっている副リーダーのマラハイドが、無線でメンガに伝えた。


「その通りです。これを繰り返すと、今後人類は二度と宇宙に出られなくなる可能性があります。そこで、これから全軍で研究所に突撃して下さい」


思いもしなかったメンガの提案だった。


「今のこの状態で、攻め込めというのか?」


戦闘に参加しているメンバーから、不満の声が漏れた。


「皆さん、聞いてください。ハッキングされた衛星兵器は、おそらく複数存在していると思われます。こちらもできるかりぎ相手の衛星をハッキングして攻撃を停止させますが、残念ながら全部に手は回りません。2時間後、その場所は複数の衛星兵器の攻撃範囲に入ります。ですから、それまでに皆さんに研究所を占拠してもらいたいのです」


説得力のあるメンガの言葉だった。


「なるほど。それなら今攻めるしか方法はないな。分かった。攻撃中のメンバーに次ぐ」


マラハイドが戦闘に参加しているメンバーに向かって話し始めた。


「メンガの言った通り、今攻めなかったら、我々は再び大きな犠牲を払う事になる。黄田たちが研究所のハッキングに成功したら、後はこっちのもんだ。みんな、力を貸してくれ」


「了解」


多くのメンバーから、温かい賛同の声が返ってきた。


「メンガ。守備用のドローンを2部隊残して、あとは全て攻撃に回して」


「了解」


「それじゃあ、いくぞみんな」


「おう」


マラハイドの号令とともに、解放派のヒューマノイドと人型ロボット、そして無人飛行機に攻撃用ドローンは、一斉に基地に向かって突撃していった。研究所からも攻撃用のヒューマノイドが出てきて、激しい銃撃戦が始まった。


僕たちは林に身を隠したまま、しばらくの間、戦況を見守っていた。解放派の戦力は先ほどの攻撃で6割程度削られていたが士気は高く、加えて航空戦力部隊が多く残っていたので戦況を有意に進めていた。


「はい。わかりました」

近くで黄田の声が聞こえた。


「丁さん。重紀君。今、マラハイドさんから連絡が入った。私たちも研究所に向かうわよ」


「了解」


僕たちは身を隠しながら研究所に向けて進み始めた。

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