第三章 決戦

第17話 最後の説得

「ロバーツさん。現在、こちらが用意できる戦力を教えてください」

副リーダーのマラハイドが、ロバーツにたずねた。


「テレイグジスタンスで動かす人型ロボット300体、戦闘用AI搭載のヒューマノイド5000機、無人戦闘機1000機。それに戦闘用ドローンを100機用意しました」


「それらをカリフォルニアにあるエデンサーバーまで運ぶのに、どのくらいかかりますか?」


「三日もあれば可能です」


「光学迷彩服の数は?」


「残念ながら、今回生産施設を破壊されてしまったので、3着しかありません」


「3着」


マラハイドが少しがっかりした様子で言った。


「はい。しかもその3着はここにいる黄田君と戸矢君、それと丁君の体に合わせて作ったものなので、彼らと同じ体型の人以外着られません」


「私は喜んで作戦に参加しますよ。隆生さんの仇を取りたいので」

黄田はすぐに戦闘への参加を志願した。


「僕も兄の仇を取りたいので、作戦に加えてください」

彼女に続いて僕もすぐに返事をした。


「二人とも、ありがとう」

メンガが僕たちにお礼を言った。


「丁君は、どうだろうか?」

ロバーツが僕らの方を見て聞いてきた。


「たぶん、彼も作戦に志願すると思いますよ」


「セシル。なぜ、そんなことが分かるんだ?」


「闘う理由が、もうすぐできるから」


黄田の言葉を聞いて、ここにいた誰もが理由を察した表情を浮かべた。




ナノネクストコーポレーションの事件を受けて、エデン維持派のメンバーは維持過激派とのリモート会議を設け、武力攻撃を止めるよう説得を試みていた。


「今回の事件に対し、私たちは大変遺憾に思っております。なぜ、無関係な人の命まで奪わないといけないのですか?」


維持派のリーダーであるブロカードは、モニター先にいる維持過激派のメンバーにうったえた。


「今回戦いに巻き込まれた人たちに対し、我々も大変気の毒に思っております。ですが、ナノネクストコーポレーションの取締役であるロバーツの力は我々にとって最大の脅威であり、勝利のため、どうしても彼を葬る必要があったのです」


過激派のリーダーであるウェブは、冷静な口調で答えた。


「いくら目的があるからといって、無関係の人を殺していい理由にはなりませんよ。あなた、歴史学者ですよね? 正義や正しさは立場によって異なるから、それを理由に行動を正当化することは出来ないってご存知ですよね?」


維持派の中堀が少し強い口調でウェブに言った。


「正当化出来るか出来ないかは、その考えに根拠があるかどうかで決まります。ナチスドイツのように人種自体が悪いという考えには根拠がありません。ですが多様性を進めれば社会が機能しなくなるというのは事実です。文化の違う人たちが集まり、それぞれ自分達のやり方を主張すれば、社会は回らなくなりコミュニティーは崩壊します。我々はそれを120年前に経験し、エデンによって克服したのです。ですから、私たちが今行っていることは、現実に基づいた根拠のある行動です。私の発言が間違っているというのなら、多様性を進めても社会が崩壊しないことを、歴史的事例及び数値を使って証明してください」


ウェブは全く怯むことなく答えた。


「多様性って、そんなに悪いことですか? 例えば、エネルギー政策にしても自然エネルギーや水素エネルギ、核融合エネルギーと多様性を持って国家運営を行っていますよね? 同じように人間も多様性を保つことで生き残り戦略を描けるのではないでしょうか?」


維持派の有が、ウェブにたずねた。


「あなたのおっしゃった二つの多様性は、根本の部分が全く異なっています。エネルギー政策は、自分達の生存率を上げることを目的として行っているものです。対して文化的背景が全く違う他者との多様性は、自分達の生存を脅かすもの、またはこちらの負担が増すものを受け入れろというものです。本質が全く異なりますので、二つを一緒にすることは出来ません」


「なあ、あんた」


今まで黙って聞いていた維持過激派のバーガーが、有に話しかけた。


「じゃあ、なんで外来種を取り締まる法律があるんだ? もともといる動植物が滅ぼされるからだろう? 人間だけが特別だというその驕り高ぶった言動は、一体どこから生まれるんだ?」


バーガーの言葉に有は何も言えなかった。


「どんな事をしてでもエデンを維持したいあなた方の気持ちは分かりました。では、その先の未来については、どのように考えているのですか?」


維持派のゼーダーが、冷静な口調で維持過激派の人たちに話しかけた。


「我々はこのままエデンを維持し、エデンによってコントロールされた世界運営を続けて行きます。そして多様性を減らしたことで生まれた余力を用いて、人類の更なる発展を促して行きます。そのためでしたら、私たちは何だってする覚悟です」


迷いを全く感じさせないウェブの言葉だった。


「では、解放派の人たちと全面戦争になることも厭わないのですね」


「ええ。その通りです」

ゼーダーの質問に対し、ウェブはすぐに答えた。


「分かりました。我々は両者どちらにも与せず、行く末を見守っています。ですが、今度あなた方が一般の人々に攻撃を加えた場合は、我々もそれ相応の応戦をいたします。そのことだけは覚えておいてください」


ブロカードは彼らの説得を諦め、代わりにこれ以上戦場を広げないよう釘を刺した。


「分かりました。それでは皆さん、ごきげんよう。失礼いたします」


ウェブたち維持過激派のメンバーは、彼女の言葉に合わせて一斉に通信を切った。

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