第15話 完成! 新型光学迷彩スーツ
朝食の後、グジョーア・ヘブン空港を飛び立った僕たちは、無事バンクーバーにあるナノネクストコーポレーションの本社に戻ることができた。
「お帰りなさい。皆さん、ご苦労様でした」
屋内に入ると、カリムが暖かい声で僕らを迎えてくれた。
「お疲れ様」
彼女の言葉に、皆それぞれ言葉を返した。
「ありがとうカリム。あなたの指示は的確だったわよ」
黄田が歩きながら彼女にお礼を言った。
「いえいえ」
カリムは照れ臭そうに答えた。
「カリム。光学迷彩の開発状況は?」
ロバーツがたずねた。
「はい。すでに80%完成しています。とりあえず、今日プロトタイプを作ってみて、それから量産するかどうか決める予定です」
カリムはロバーツの隣に行き、彼と歩調を合わせながら答えた。
「分かった。私もすぐにラボへ行って作業に取り掛かる」
「分かりました」
「セシル、丁君、戸矢君」
「はい」
ロバーツに呼び止められ、三人は足を止めた。
「明日やってもらいたいことがあるので、午後1時半に再びこちらに来てください」
「分かりました」
僕たちはそれぞれ返事をした。
「それでは皆さん、ご苦労様でした。明日もまたよろしくお願いします」
僕たち三人はここでロバーツたちと別れ、宿泊予定のホテルへ向かった。
次の日、僕たち三人はロバーツに言われた通り、午後1時半に合わせてナノネクストコーポレーションへ向かった。
会社の入り口にいたカリムに連れられ着いた先は、窓のない実験室の中だった。中に入ると、ロバーツが黒い全身タイツのようなものを手にして待っていた。
「おはようございます、皆さん。まずはこの服を着てください。それぞれ皆さんの体のサイズに合わせてあります」
僕たちはロバーツから、その全身タイツのようなものを受け取った。
「何ですか、これは?」
僕は服を広げ、ロバーツに質問した。
「人工筋肉でできた生地の間に、非ニュートン流体を挟んで作ったスーツです。拳銃の弾くらいの衝撃なら、痛いとは思いますけど耐えることが出来ます」
「本当ですか?」
「衝撃が加わった瞬間、硬くなるんですね」
丁が冷静な口調で答えた。
「その通り。さすがマテリアル研究者」
「はあ」
どうやら、その道の研究者にとっては何でもない知識のようだ。
「取り敢えず、三人ともそこの試着室に入って、スーツに着替えてください」
ロバーツに言われるがまま、僕は小さく仕切られた試着室に入り、服を脱いでこの全身タイツのようなものを着た。試着室を出ると、ロバーツがすぐに声をかけてきた。
「うん。似合っている。似合っている」
ロバーツはとても満足そうな表情を浮かべながら言った。
「これ、本当に光学迷彩と関係のあるものなのですか?」
試着室から出てきた黄田が、ロバーツに質問した。
「まあ、焦らないで。次にその上からこれを着て」
次にロバーツから手渡されたものは、上下揃った銀色の雨合羽のようなものだった。足の方からそれを通すと、その瞬間から雨合羽が透明になり見えなくなった。
「おお」
僕は思わず声を上げた。
「すごいだろう? 衝撃を吸収するスーツの上にそのテトラエルド酸イオンを使った光学迷彩服を身につけると、電子回路を使わずに光学迷彩が使用できるようになるんだ。目の部分は特別加工してあるから、視野も問題ないはずだよ」
ロバーツのいう通り、頭をすっぽり覆う頭巾を被っても、ちゃんと外の風景が見えるようになっていた。僕は見えなくなった腕を前後左右に動かし、体が見えなくなった感覚を楽しんだ。すると、見えない何かが突然僕の手に当たった。
「あっ、ごめんなさい」
「いいのよ。私もわからないから」
黄田の声が何もない空間から聞こえた。光学迷彩には、こういう苦労もあるのか。
「どうだい、着た感想は?」
ロバーツが聞いてきた。
「面白いです。何も見えない所に感覚が生まれるので。着心地も悪くありません」
僕は素直な感想を述べた。
「そうか。それはよかった」
ロバーツは満足そうな表情を浮かべながら答えた。
「うまく行ったみたいですね」
カリムが嬉しそうにロバーツに話しかけた。
「ああ。これで量産を始められるな。カリム、すぐに取り掛かってくれ」
「分かりました」
カリムは振り返り、出入り口に向かって歩き始めた。すると突然、衝撃音と共に建物が大きく揺れた。
「うん? 何だ?」
ロバーツが声を上げた。大きな音と衝撃は、その後、複数回続いた。僕は光学迷彩服の顔の部分だけを出して、自分が今どこにいるか、みんなに分かるようにした。黄田と丁も同じように首から上だけ光学迷彩服を脱いで姿を現した。
「現在、東棟及び西棟の複数箇所で火災が発生しています。従業員の皆さんは、すぐに退避してください」
避難指示を伝える館内放送がかかった。
「皆さん、すぐにここから出ますよ。私に着いてきてください」
ロバーツの指示で、僕たちはすぐに実験室の外に出た。幸いここにはまだ火も煙も来ていなかった。
「こっちです」
ロバーツが僕たちを階段がある方へ誘導し始めると、突然、近くの壁が大きな音と共に吹き飛んだ。僕は咄嗟に体をかがめて、飛んできた瓦礫から身を守った。その時、空いた壁から、北極で見た無人戦闘機が複数飛んで行くのが見えた。
「ロバーツさん。北極で見た無人戦闘機です」
僕は倒れていたロバーツに駆け寄り声をかけた。
「あいつらか」
ロバーツは体を起こすと、すぐに腕のスマートウオッチを操作した。そしてそれが終わると、振り返り皆に声をかけた。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「います」
「大丈夫です」
皆それぞれ声を出し、無事を伝えた。今の衝撃で歩けなくなるような怪我をした者はいなかった。
「では、ここからすぐに移動しましょう。ついて来てください」
僕らは再びロバーツに連れられ移動を開始した。
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