第13話 迎え撃つ

僕たちは防寒着を着込み、外で迎え撃つ準備を整えた。


「黄田。あいつらを倒す作戦はあるのか?」

パエスが黄田にたずねた。


「散開して、氷山の影から迎撃することを考えています」


「そうか。確かにそれも悪くないが、私に少し時間をくれないか? 最も良い作戦を立てられるかもしれない。カリム。ヘリ周辺の地形図を出してくれ」


「分かりました」

パエスの指示で、カリムはモニターにヘリ周辺の地形図を出した。


「持っている武器は?」


「電子パルス銃5丁、チャフグレネード2丁、電子パルス手榴弾10個です」

僕はすぐにパエスの質問に答えた。


「そうか……うん。作戦が一つ浮かんだ。ここは一つ私に任せてくれないか?」

パエスの言葉に皆すぐに頷き、同意した。


「ありがとう。それじゃあまず、黄田と戸矢は正面に、私とキャプテンはそれぞれ左右の氷山に身を隠して待機する」

パエスがモニターの上を指差しながら言った。


「僕たちが正面なんですか?」

僕はすぐに彼女に聞き返した。


「ああ。君らには奴らの拡散を担当してもらう。無人戦闘機が近づいてきたら、まず、戸矢が正面からチャフグレネードを撃つ。すると相手は必ず回避行動を取るから、編隊を崩す。その時、左右に展開したものは私とキャプテンで、上下に回避したものは黄田が撃て。あとは個別に撃破していく。いいな」


「了解」

僕たちはそれぞれ返事をした。ただ隠れて撃つより遥かにいい案だ。


「この戦い、絶対に勝つぞ。いくぞ」


「おう」

パエスに率いられ、僕たちは武器を手にヘリを降りた。




外に出た僕たち四人は、それぞれ所定の場所に身を隠し、無人戦闘機が来るのを待った。


「いいか、戸矢。無人戦闘機が10キロ圏内に入ったら、戦隊の中央に向けて撃つんだぞ。いいな」

エデンデバイスを通じて、パエスが交信してきた。


「はい」


「無人戦闘機が南西から接近中。距離20キロ……15キロ」

カリムが無人戦闘機との距離を逐次僕たちに伝えてきた。


「10キロ」


カリムの言葉を聞いて、僕はスコープから見える無人戦闘機の戦隊中央に向けてチャフグレネードを発射した。


弾は狙い通り戦隊の前で破裂し、無人戦闘機はすぐに回避行動を取り始めた。


数秒後、左右から複数の発砲音が聞こえた。おそらくパエスたちと無人戦闘機が撃ち合っているのだろう。黄田も一生懸命、上空に向けて電子パルス銃を撃ち続けたが、残念ながら一機も撃ち落とすことが出来なかった。


「二機撃墜。残り三機です」

カリムが伝えてきた。


「三機の位置は?」

パエスがすぐにカリムにたずねた。


「それぞれ旋回し、一機は北から、残り二機は東と西から近づいてきてます」


「分かった。戸矢、黄田。お前たちは北から来た無人戦闘機に、先ほどと同じように攻撃を仕掛けろ。左右は私とキャプテンが対処する」


「了解」

僕と黄田はそれぞれ返事をした。


「三機の無人戦闘機が、北側、東側、西側よりそれぞれ接近中……。ヘリとの距離10キロに到達しました」


カリムの連絡を受け、僕は再びチャフグレネードを無人戦闘機に向けて発射した。


先程と同じように弾は無人戦闘機の前で爆発し、無人戦闘機はすぐに回避行動を取り始めた。黄田は再び電子パルス銃を無人戦闘機に向けて複数回発砲した。

だが、残念ながら弾は無人戦闘機に当たらなかった。すると突然、西側から電子パルス弾が一発飛んできて、見事無人戦闘機を撃ち落とした。パエスがいる方向だ。


「ターゲット消失。無人戦闘機は全て沈黙しました」

カリムから連絡が入った。僕の体から力が一気に抜けた。


「お疲れ様です」

僕は近くにいた黄田に声をかけた。


「ええ。お疲れ」

黄田は少し疲れた様子で言葉を返してきた。どうやら、彼女は僕以上にプレッシャーを感じていたようだ。


パエスとフィントンが僕と黄田がいるところに集まって来た。


「お疲れ様でした。お二人ともお見事です」

僕はすぐに二人の労をねぎらった。


「まあ、このくらい大したことないよ」

パエスは余裕の笑みを浮かべながら言った。


「銃の性能が良かったからな」

フィントンも余裕の受け答えだった。


「パエスさんは、どうしてそんなに簡単に当てられるんですか?」

黄田がパエスに質問した。


「最初の攻撃からずっと無人戦闘機の回避パターンを観察していたんだ。そこから動きを予測したんだよ」


「それは私には出来ません」

黄田が万歳するジェスチャーを取り答えた。


「それじゃあ、ヘリに戻るか。ここに長く居たら体が冷える」

フィントンがヘリの方向に視線を向けながら言った。


「そうですね」


僕たちはフィントンの言葉にそれぞれ返事をし、ヘリに向かって歩き始めた。




その頃、エデン維持過激派のメンバーはカリフォルニアにあるエデン研究所の中で、作戦の失敗を悔しがっていた。


「くそ」


元アメリカ陸軍歩兵部隊に所属していたクリスティン・V・バーガーは、モニターの前で机を叩き言った。


エデン維持過激派は自ら警備会社を設立し、エデンサーバーがある研究所の一室に事務所を構えていた。


「俺たち、舐めてたな。奴らのことを」

スペイン海軍出身のデリオ・テロンも、顔をしかめながら言った。


「これで奴らは高性能の光学迷彩を大量生産してくる。ナノネクストコーポレーションの取締役はさっさと消しておくべきだったな」

寺迫光三郎(てらさこ こうざぶろう)は、端末に視線を向けたまま冷静な口調で答えた。


「そうね。彼がいるとすぐに解放派に武器や資金が投入される」

維持過激派のリーダー、ジェニス・ロング・ウェブは冷静な口調で言った。


「消していいですか、代表?」

バーガーがウェブに許可を求めた。


「ええ。手段は問わないわ」

ウェブはすぐに彼女に許可を出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る