第12話 北極圏に到着

次の日、僕たちは再びヘリに乗り北極圏へ向かった。


「そろそろ目的地に到着します。シートベルトをして着陸に備えて下さい」


コクピットにいるフィントンが艦内放送を使って知らせてきた。彼の指示通り、僕たちはシートベルトをして席についた。


「いやー、今回、俺たちついてたね。外気温がマイナス6度で風もないよ」

隣に座っていた安室が僕に話しかけてきた。


「それでも十分寒いですよ」

僕はすぐに反論した。


「いやいや。先月ここに来ていたらマイナス20度だよ」


「マイナス20度!」

 思わず僕の声がうわずった。


「ああ。今日は太陽も当たっているし、何かいい予感がするよ」


「そうですね」


お言葉ですが、安室さん。これからこのヘリはエデン維持過激派の激しい攻撃を受けるかもしれませんよ。


アースゲイザーでない安室に、僕の本心を伝えることはできなかった。


ヘリは無事着陸し、僕たちは早速テレイグジスタンスを使って動かす人型ロボットの準備に入った。

ロバーツと安室と丁はテレイグジスタンス用のヘルメットを被り、専用のベッドで横になった。すると大型モニターに三人のバイタルサインが表示され、壁側にあった人型ロボットたちが動き始めた。


僕と黄田は襟にマイクを着け、モニターの前に着席した。


「接続正常。バイタルにも問題ありません」

黄田が口を開いた。


「了解。カリム、聞こえてる?」

ナンバー1と書かれた人型ロボットを動かしているロバーツが、カナダにいるカリムに話しかけた。


「はい。こちらでもシグナルを確認できました。ナンバー1がロバーツさんで、ナンバー2が安室さん。そしてナンバー3が丁さんですね。現在、まだヘリの中にいる状態で間違いないですか?」


サイドモニターに映っているカリムが聞いてきた。


「ええ。その通りです。では、我々はこれよりヘリを降りて採取に向かいます」


「了解」

カリムの返事の後、ロバーツと安室、それに丁の三人は、機材を持って外に出た。




ロバーツを先頭に三人は氷山に向けて歩き始めた。ロバーツが位置を確認し、安室が氷山に打ち込む筒と制御装置を手にし、そして丁が観測用機材を持って目的地の氷山へ向かった。


「うん。ここだ」


ロバーツは足を止め、目の前の氷山を指差し言った。

コンピューターの計算によると、ここが一番良質なテトラエルド酸イオンが採取できると出ていた。


「安室君。ここに打ち込んでください」


「分かりました」


安室と丁は機材を置き、筒に配線を繋いで準備を整えた。


「準備が整いました。これから筒を打ち込みます。下がってください」

安室はそう言って、筒を氷山に押し付けた。


「準備はいいか、丁」


「いつでもどうぞ」


「行きます」

安室がトリガーを引くと、氷山に筒が打ち込まれた。


「状況は?」


「安定してる。今のところ問題はない」

安室の質問に、丁は観測用モニターに視線を向けたまま答えた。


「了解」

すぐに安室から精悍な声が返ってきた。


あと数十分、このまま何も起きませんように。ロバーツは空を見上げ、無事に撤収できることを祈った。




ロバーツたちが外に出て採取している間、僕と黄田はヘリの中で三人のバイタルサインを見ながら待機していた。


「作業は順調ですか?」

副操縦士のパエスがこちらに来て、作業状況を聞いてきた。


「ええ。全て順調です」

黄田が明るい声で答えた。彼女の言う通り、作業は問題なく進んでいた。


「何かあったらすぐに言って下さい。こちらで出来る事があれば対処しますから」


「ありがとうございます」

黄田がお礼を言い、僕は軽く頭を下げた。


なんて頼もしい言葉なんだろう。敵が襲ってきたら、得意のハンティング技術でぜひとも僕らを守ってください。


僕がパエスの言葉に心を動かされていると、突然、バンクーバーにいるカリムから連絡が入った。


「ヘリの南東から、高速で向かってくる五機の飛行体あり。これは……無人戦闘機です」


連絡を受けて、僕と黄田はすぐにヘリの後ろへ行き、積んであった武器を取り出した。


「えっ。何? どういうこと?」

横になっている安室が声を上げた。


「私達に危害を加えようとしている人たちがいるってこと」

黄田が端的に答えた。


「えっ」

黄田の説明を聞いても、安室は状況を飲み込めず戸惑っていた。それが普通だと思う。


「あなたたち、狙われているのかい?」

パエスが僕にたずねてきた。


「はい。残念ながら僕たちの作業をどうしても邪魔したい奴らがいるんです。これ武器と連絡マイクです」


僕は武器とエデンデバイスを通じて音声が直接耳に入るマイクを彼女に手渡した。闘う意思があるかどうかは、あえて聞かなかった。


「ほう、いい武器じゃないか」

マイクをつけた後、パエスは慣れた手つきで電子パルス銃の安全装置を外し、軽く構えた。うん。様になっている。


「それじゃあ防寒具を着て、無人戦闘機を迎え撃ちましょう」

黄田もパエスに闘う意思を聞く事なく、迎撃メンバーの一人として声をかけた。黄田の中でも、パエスはすでに戦力になっていた。


「ちょっと待て」

パエスが口を開いた。ああ、やっぱり疑問に思ったか。


「味方は多い方がいいだろう?」

パエスはコクピットに繋がる無線のスイッチを押した。


「どうした?」

すぐに機長のフィントンが出た。


「キャプテン。我々のヘリを狙っている不届きな無人戦闘機が五機、こちらに向かっています。一緒に狩りませんか?」


「分かった。すぐにそちらに向かう」

一分もせずして、フィントンは僕たちの所へやって来た。


「はい。これが武器と連絡マイクです」

僕はそれ以上何も言わずに彼に武器とマイクを渡した。


「フィントンさん。武器を扱った経験は?」

黄田がたずねた。


「何度も」


フィントンは不敵な笑みを浮かべながら答えた。

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