第10話 新たな仲間
その日はロバーツが用意してくれたホテルに泊まって体を休め、次の日、僕たち三人はロバーツに連れられナノネクストコーポレーションの本社に向かった。
「前に見えるあれが、うちの本社だよ」
ホテルから出て30分後、運転席にいたロバーツが口を開いた。建物からはまだかなり離れた所にいたが、外観はここからでもはっきりと見てとれた。
「大きさはどのくらいあるんですか?」
僕はロバーツに質問した。
「土地は1キロ平方メートルくらいかな」
「はあ」
さすが世界有数の一流企業だ。
本社に着いた僕たちはすぐに車を降り、中へ入った。
本社のエントランスは1階と2階が吹き抜け構造になっており、広々とした印象を感じさせる作りになっていた。
「こっちです」
ロバーツの案内に従い、僕たちはエレベーターに乗り、4階にある研究室の中に入った。するとそこには30歳くらいの日系人と20代半ばくらいのアラブ系の女性がモニターの前に立っていた。
「おう、丁」
30歳くらいの日系人がこちらに近づいてきた。
「元気だったか?」
「ああ。安室(あむろ)も相変わらず元気そうだな」
「まあな。ここでの生活が俺に合っているんだよ」
「二人に紹介するよ。彼の名前は安室吉平(あむろ きっぺい)君。丁君と同じ東アジア総合大学の研究者で、弊社には出向という形で来ている」
ロバーツが僕らに安室を紹介した。
「どうも、安室吉平です。フィールドワークが好きでここで研究をしています。よろしくお願いします」
安室は明るい声で僕たちにあいさつした。僕らも彼に型通りのあいさつをした。
「彼女はサラ・カリム。弊社のマテリアル開発部の研究者だ」
ロバーツは次にアラブ系女性のサラを僕らに紹介した。
「初めまして。ここで研究員をしております、サラ・カリムです。よろしくお願いします」
カリムは丁寧に僕たちにあいさつをした。僕らもそれぞれ彼女に言葉を返した。
「丁。今はそっちはで何の研究をしているんだ?」
安室が丁に話しかけた。
「合金をカーボンナノチューブのように結合させて、より強くて使いやすい物質を生み出す研究をしている」
「相変わらず、丁は地味だけどしっかりとした研究をしているんだな」
「安室も変わらず世界各地を飛び回っているんだね。レクランアントニウムを発見したという記事、読んだよ」
「ただ俺が一ヶ所にじっとしていられないだけだよ。ところでさ、丁。彼女できた?」
「えっ? 何、突然?」
「だって、お前こんなに人と親しく話すようなタイプじゃなかったろう? 何があった?」
「何もないよ。ただ、以前よりも少し大きな視点で、物事を見られるようになったかな」
丁が少し恥ずかしそうに答えた。エデンから解放されたことで、丁にも変化が起きていたようだ。
「丁さん。私、安室さんから丁さんのこと修行僧だって聞かされていたんですよ。だから今日直接お会いして、イメージと全然違ったんでびっくりしました」
カリムがさわやかな表情を浮かべながら言った。
「修行僧」
そう言って黄田がこらえるように笑い出し、僕は失礼だと思ったので一生懸命笑いをこらえた。
「だって、そうだったろう?」
安室が丁に確認するように聞いた。
「まあ、そうだな」
丁が素直に認めたので、みな声を出して笑い始めた。
今でも十分修行僧なのだが、昔はもっと取っ付き難かったと思うと、可笑しくてしょうがなかった。
ひとしきり皆で笑った後、ロバーツが口を開いた。
「それじゃあ、場も和んだ所でこれからの計画を伝えるよ。安室君、お願い」
「分かりました」
ロバーツに促され、安室はモニターの前に移動し、説明を始めた。
「これからの予定ですが、まず我々は輸送ヘリに乗り、カナダ北部にあるグジョーア・ヘブン空港へ向かいます。そこで一泊して燃料の補給を行った後、北極圏に向かい、永久凍土にこの筒を打ち込みます」
安室は側にあったオレンジ色の1メートルにも満たない筒を手にし、全員に見えるよう掲げた。
「この筒は内部の電磁力と圧力を調節することが出来る特別なものです。テトラエルド酸イオンは、採取する際、ただ普通に筒を打ち込んで引き抜くと消滅してしまいます。そうならないようにするには、物質の状態を見ながら電気を流し、かつ圧力を調節しながら採取する必要があります。その作業を僕と丁、そしてロバーツさんがテレイグジスタンスで動く人型ロボットを使って行います。黄田さんと戸矢君は、我々のバイタルチェックと周囲に何か異変はないか監視をお願いします。質問はありますか?」
「採取には、どのくらい時間がかかりますか?」
黄田が手を上げて質問した。
「ヘリ着陸時から計算して、およそ30分程度で撤収できると思います」
「分かりました」
「他に質問はありますか?」
安室の問いかけに誰も手を上げなかった。それを見て、ロバーツが口を開いた。
「では、皆さん。ヘリポートへ移動しましょう。荷物を持ってついて来て下さい」
僕たちは各自荷物を持って移動を始めた。
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