第7話 維持穏健派との会合
三日後、僕は再びこの前と同じレンタルオフィスに足を運んだ。部屋に入ると、黄田と丁がモニターの前で待機していた。
「お疲れ様です」
「ああ。お疲れさん」
僕があいさつすると、黄田がすぐに言葉を返してきた。丁は軽く頭を下げた。
「重紀君。分かっていると思うけど、今日はエデン維持派の人たちとの大事な会議よ。落ち着いて話せば大丈夫だから気楽にね」
黄田はいつものように、明るい声で言った。
「はい」
「モニターに繋げるよ。準備はいいかい?」
丁が僕の方を向いて聞いてきた。
「はい。オーケーです」
丁が端末をいじると、モニターにリーダーのメンガと副リーダーのマラハイドの姿が映った。
「おはようございます、皆さん」
メンガがみんなに向かってあいさつをした。
「おはようございます」
他のメンバーも各々言葉を返した。
「重紀君。体調はどうですか?」
メンガが聞いてきた。
「問題ありません」
「黄田さん。重紀君の体に何か異常は見受けられませんでしたか?」
「大丈夫です。健康そのものです」
メンガの質問に、黄田はすぐに答えた。
「分かりました。重紀君。私たちはこれから、エデン維持穏健派の人たちと交渉を行います。向こうの参加者は4人で、我々も含め9人だけで話し合いを行います。他に聞いている人はいないので、心配せずに思ったことを素直に話してください」
「分かりました」
「丁君。向こうから連絡は来ましたか?」
「はい。いつでも言いそうです」
「繋げてください」
「分かりました」
メンガに言われ丁が端末に触れると、モニターの中に新たに画面が4つ現れた。
そこには年配の白人男性と二人のアジア人の男女、そして背の高いアフリカ系の男性の姿があった。
「お久しぶりです、皆さん。私の声は聞こえていますか?」
メンガが画面にいる彼らに話しかけた。すると、年配の白人男性が代表して口を開いた。
「問題ありません。こちらこそ、お久しぶりです、メンガさん。まず初めに戸矢隆生さんに対して哀悼の意を捧げさせてください。彼は我々と違う考えを持っていましたが、人として尊敬できる方でした。謹んでご冥福をお祈りします」
維持派の人たちは、それぞれの文化に合わせた哀悼の意を表してくれた。それが終わると、年配の白人男性が再び口を開いた。
「では、話し合いを始めましょう。メンガさん、二日前にいただいた連絡によると、エデンによる記憶の活性化と不活性化だけを止めるプログラムがついに完成したのですね」
「はい。戸矢隆生は亡くなる前、弟のエデンデバイスのプログラムを書き換え、完成したことを証明しました。今、黄田セシルの右側にいる青年がその弟です」
「初めまして。戸谷重紀です」
僕は口を開き、維持派の人たちにあいさつをした。
「こちらこそ、初めまして。私はロバート・フィリップ・ブロカード。エデン維持派の代表を務めています。隆生さんのことは、とても残念な出来事でした。我々も維持過激派に対し強い憤りを持っています。共に手を取り合い、将来への道を探っていきましょう」
「ありがとうございます。ブロカードさん」
「うちのメンバーを紹介しますね。私の隣に映っている彼女は、中堀ゆずみ(なかほり ゆずみ)。維持派の副代表を務めています」
「どうも。初めまして、中堀です。UKU化粧品の社長をしています。異性を惹きつけたいのなら、ぜひうちの商品を使ってください」
彼女は明るく話していたが、隙は全く感じなかった。
「御社の名前は存じております。よろしくお願いします」
「私の下に映っている男性は有兵火(ゆう へいか)。韓国で消防士をしています」
「どうも、有です。よろしくお願いします」
有は消防士らしい精悍な声であいさつした。
「初めまして。こちらこそ、よろしくお願いします」
「そして、最後に紹介する彼はマルコ・フォン・ゼーダー。南アフリカ出身で広告会社に務めています」
「初めまして、ゼーダーです。お兄さんのこと、改めてお悔やみ申し上げます」
ゼーダーはとても落ち着いた物腰で言った。
「ありがとうございます、ゼーダーさん。こちらこそよろしくお願いします」
「さて自己紹介が終わったところで、戸矢君。私は君に直接確認しておきたいことがあります。本当に体に何か不調はありませんか?」
ブロカードも僕の体調について聞いてきた。
「はい。ありません」
「あっ、そのことについてですが、よろしいでしょうか?」
黄田が割って入ってきた。
「私は今日までの6日間、彼のバイタルサインを常に観察していましたが、問題は何もありませんでした。戸矢隆生たちが作ったプログラムは完璧です」
「分かりました。そういう事でしたら、話を先に進めましょう。メンガさん。私たちはあなた達が進めている記憶の活性化と不活性化だけを止めるという案に賛同いたします」
ブロカードがはっきりとした口調で述べた。
「本当ですか?」
「はい。これはここにいるメンバーだけでなく、他のメンバーとも話し合い決めたことです。ですから、我々に何か力になれる事がございましたら、喜んで皆さんにご協力いたします」
「ありがとうございます。そういう事でしたら、私が皆さんにお願いしたい事は、この戦いに静観していてください」
メンガはいつも通りにこやかな表情で、僕が全く予想しなかった言葉を口にした。
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