第5話 エデン解放派との出会い
二日後、僕は黄田セシルに呼ばれ、学校が終わった後、街にあるレンタルオフィスに足を運んだ。
指定された部屋に入ると、そこには黄田の他、30歳前後と思われる中肉中背の日系人もいた。
「こんにちは」
僕は自分から先にあいさつした。
「いらっしゃい、重紀君。体調に問題はない?」
僕のバイタルを常に把握している黄田が話しかけてきた。おそらく数値に現れない異常はないか確認しているのだろう。
「大丈夫です」
「よかった。紹介するわ。彼の名前は丁心倫(てい しんりん)。東アジア総合科学大学でマテリアル研究を行なっている研究者よ」
「初めまして。戸矢重紀です。よろしくお願いします」
「どうも、丁です。よろしくお願いします」
丁は少しぶっきらぼうな感じで答えた。
「丁さん、もうちょっと明るく。親しみを込めて」
黄田が軽く注意する感じで言った。
「ああ」
丁は少し気まずそうな表情を作り答えた。
「もう、いいですよ。重紀君。これからあなたに、解放派のリーダーと副リーダーを紹介するわ。今リモートで繋げるからあいさつしてね」
「分かりました」
黄田が端末を叩くと、中央のモニターに二人の男女が現れた。
一人は40代くらいの身なりがきちんと整った男性で、もう一人は30代くらいの少し鋭い目付きをした女性だった。
「メンガさん、マラハイドさん、繋がってますか?」
「大丈夫。きちんと繋がっているよ」
男性は優しい口調で答えた。
「良好よ」
女性の方は冷静な口調で返してきた。
「ご紹介します。こちらが二日前に話した戸矢隆生の弟、戸矢重紀君です」
「初めまして。戸矢重紀です。よろしくお願いします」
僕は軽く頭を下げた。
「初めまして。エデン解放派のリーダーをしています、エミール・ヴィルケ・メンガです。ドイツで国会議員を務めています」
先に身なりの整った男性がにこやかにあいさつして来た。どうりできちんとした格好をしているはずだ。
「どうも。副リーダーのアナベル・メアリー・マラハイドです。イギリスで刑事をしています」
続けて、少し鋭い目つきをした女性が僕にあいさつをした。職業に二人の特徴がしっかりと現れていた。
「重紀君。君のことは黄田さんから聞いています。力になってくれると聞いて、我々も大変心強いです。ですが、その前に君の口からぜひとも聞いておきたいことがあります。君はお兄さんの仇を見つけたら、その人を殺すつもりですか?」
メンガが優しい口調で、想像もしなかった質問をしてきた。
「えっ」
僕は兄の敵討ちはしたいと思っていたが、具体的に相手を殺すことまでは考えていなかった。
犯人と対峙した時、僕は冷静でいられるのだろうか? それとも怒りに任せて殺そうとしてしまうのだろうか?
「すいません。分かりません」
僕は正直に答えた。
「分からない?」
「はい。その人を前にした時、冷静に振る舞えるのか、それとも怒りが込み上げて殺してしまうのか、今の僕には全く分からないからです」
「あなたねぇ、アースゲイザーは逮捕することができないのよ? 恨みを晴らしたいなら拷問するか殺すしかないの。その覚悟もなく、あなたは仇を取りたいって言っていたの?」
刑事のマラハイドから厳しい言葉が返ってきた。
「すいません。マラハイドさんのおっしゃる通り、僕には全然覚悟が足りなかったと思います」
自分の考えの甘さに、僕はとても恥ずかしい気持ちになった。
「オーケー。合格だ」
突然メンガが手を叩き、口を開いた。
「えっ……。本当にこんな気持ちでいいんですか?」
僕はメンガに聞き返した。
「ああ。君がためらわず殺すと答えたら、我々は断るつもりだったんだ。そういう考えが今の状況を作っているからね」
「どういう意味ですか?」
「アースゲイザーは現在、3つに別れているんだ。我々エデン解放派の他に、エデン維持派と維持過激派の3つにね。その中の維持過激派の連中は、エデンを維持するためなら手段を選ばず、人を殺すこともためらわない集団なんだ。私たちは君が過激派と同じように目的のためなら手段を選ばない人物なのかどうか確認しておきたかったんだよ」
「そうだったんですか」
「これで君は晴れて私たちの仲間だ。歓迎するよ、戸矢重紀君」
「ありがとうございます」
「仲間に入ってくれた君に、早速、現状と今後の目標を伝えます。エデンのメインサーバーはカリフォルニアにあり、それを管理しているコンピューターに専用の鍵を差し込めば、エデンは活動を停止します。当初、エデンに頼っているインフラのプログラムを全て作り、それが完成したら止める予定でしたが、維持過激派のメンバーが鍵をどこかに隠し、現在行方が分からない状況になっています。そこで我々は記憶の活性化と不活性化だけを止めるプログラムを作り、メインサーバーからそのプログラムを組み込むことで、エデンから人類を解放しようとしています。質問はありますか?」
「はい。お二人はなぜ、命の危険も顧みずエデンを止めようとしているのですか?」
「うん。もっともな質問だ。君の命も危険に晒されるんだから、私たちがどれだけ本気でエデンを止めようとしているのか、君には知る権利がある。戸矢君。我々はね、エデンによって一族の三分の一を自然淘汰という形で消されたんだ。リベラルにされてね」
メンガから、先ほどまでの親しみやすい雰囲気が消えていた。
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