第36話 新たなはしら②

 そして選んだもう一つの道。彼らが長年悩んだ末の結論であり、ミモルの選び取った未来でもあります。


「終わらせないように人間が世界を支える……」

「ん~、正確にいうと、ちょっと違うんだけどね」


 小首を傾げている間に、エレメートはさっと近づいてミモルの細い腕に軽く触れ、それからおでこを撫でました。蝶の鱗粉りんぷんのようなきらきらした粒子が流れたのは、目の錯覚でしょうか?


「はい、これで本当におしまい」

「え、え? 何ですか?」


 にっこりと屈託なく笑われて何事かとオロオロしていると、変化にいち早く気付いたエルネアが「それは!」と甲高い声をあげます。フェロルが焦った様子で、どこからか手鏡を取り出して顔を映してくれました。


 わけも分からず受け取り、まじまじと隅から隅まで観察してみると、額の中央に何かがチラつきます。四角と直線だけで作られた、子どもの落書きのような模様です。


 どこかで見たことがある気がします。それも、ついさっきのような近さで……。


「お揃いだね」


 楽しげな声にはっとして目線を上げ、神々へと流しました。彼らの額や首筋、そして腕に、鏡の中の自分と同じ印が刻まれています。

 クロノが片目を釣り上げ、苛立ちを含んだ口調で言いました。


「世界を存続させると言ったのはお前だ。なら、新しく神を創る以外に方法がないのは考えなくても分かるだろう」


 かみを、つくる?


「人間だけで支えられるほど世界は軽くない。ディアルが『お前を中心に』と言ったのが聞こえなかったのか。誰かがかじ取り役を引き受けなきゃ、細い柱なんてあっさり倒れて終わりだ」


 だから彼らは生み出しました。不安定な柱達にんげんに天の方向を指し示し、この世界を見守る新しい「神」を。リーセンが言いました。


『呆れたわ。さっき、エレメートが「おめでとう」って言ったのはこれだったわけね』


 ミモルはまだ全てを呑み込み切れたわけではありませんが、自分が「神」と呼ばれる存在の一員になってしまったことだけは理解しました。


「え……ええぇえっ!?」



 ひとしきりの驚愕きょうがくのあとでミモル達が連れてこられたのは、壁がこれまた白く塗り込められた家でした。

 廊下によって神殿と繋がっています。草原の真っただ中にぽつんと建てられたそこは、お金持ちの別荘といってよいほどのサイズでした。


「失礼致します」


 案内役を務めてくれた黒髪の少女・アルトがりんとした声で一言述べると、何もなかった場所が四角く切り取られ、扉に変化して内側へと開きます。中からは開けられない仕組みのようでした。

 

 脇には簡単な調理が出来そうな設備があり、それを横目に黙ったままついていきます。すぐに、向こう側にテーブルや椅子が見えてきました。


「あ……、ネディエ!」

「ミモルか!?」


 きっちりと編まれた三つ編みが驚きに揺れました。広く開けたフロアに立っていた人物こそ、探し求めていた親友です。


 むこうもミモルの姿を捉えると、一呼吸おいた後に走り寄ってきました。二人の少女は数時間ぶりに再会を果たし、互いの無事を確かめるように抱き合ったのでした。

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