第25話 還るばしょ②
「……うっ」
ネディエの顔に刻まれた眉間の皺が更に深くなりました。少し我慢してなさいと前置きして、ムイが腕に力を込めます。断面の波が激しくなり、淡く光を発し始めました――あの青い光です。
「止めてください! 魂を無理やり
血の気を失った顔でヴィーラが止めに入り、その言葉を聞いて他の皆も目を
「これも任務ですので」
アルトの結界です。空間を切り取るその壁は、容易に破れるものではありません。
魂が壊れる。ミモルには想像も付かない話ですが、友人が危険に
「やめてっ!」
どんどんと激しく壁を叩けど、ヒビ一つ入りません。
手を伸ばせば届く距離に助けを必要とする人がいるのに、指先ひとつ触れられないことが歯がゆくて、悔しさがノドをせり上がってきます。
「どいてろ!」
「神の犬共が。そういうお高くとまってるところが大っ嫌いなんだよ」
敵意剥き出しで叫ぶ彼に混じって、誰もが口ぐちにやめるように言いました。でも、壁の中の二人には聞こえていないようです。
ネディエが苦し気に「やめろ」と言いました。
「抵抗すると余計に苦しいわよ。大人しくしてなさい」
片手では
表現しようのない気分の悪さに耐えながらその腕をぐっと掴みました。
「これは私のものだ」
「拾ったものは自分のものって理屈? 早く分離させないと、浸食されるって解るでしょ」
記憶を受け継ぐということは、他人の人生を引き受けるのと同義です。
人格形成の大部分を「生き方」が占める以上、ネディエの選択は自分を捨てるに等しい愚かな選択のはずでした。
それでも、呆れたといわんばかりの視線をネディエは強く睨み返します。
「私は前世でアレイズだった。そうなんだろう……?」
壁を叩き続けていた無数の手が止まりました。
「奴が切り離して転生した片割れが私なんだろう? それを知っていたから、ヴィーラを付けたんじゃないのか」
「神々の意思は我々の知るところではありません」
規定通りの返事をするアルトに、苦しみから涙の浮かんだ目を向け、ネディエはなおも訴えます。
「アレイズの魂が私に入ったのも、融合が早いのも、元は一つだったからだ。違うか……!?」
掠れた叫びが室内を満たします。その考えは、もし全て事実なら恐ろしい結論に辿り着くものでした。
「ヴィーラは獲物が囮に食いつく瞬間を見誤らないための監視役だろう」
魂は引き合います。アレイズにはネディエの居場所を探るのは容易かったでしょう。神々が気付いていた上で魂を転生させたなら、そしてその生まれ変わりが本当にネディエだったなら、少女は地上に放られた
可能性に思いを巡らせていたエルネアが、仮定のその先を告げました。
「おそらくアレイズは初め、天の読み通りの行動を取り……そこで見つけてしまったのね」
自分の魂の
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