第17話 かなしい再会②

「ヴィーラは何日か前、ふらっとこの村に現れたの」


 まずは簡単に説明した方がいいと判断したらしい彼女は、ことのあらましを手短に語ります。何の前触れもなく、ヴィーラは村を訪れたというのです。


 着の身着のまま、ひどく疲れている様子だったために村の人が保護し、話を聞いたものの、名前以外は何も覚えていない。

 しばらくすると元気にはなりましたが、そんな状態で放り出すわけにもいかず、とりあえずアレイズの家で手伝いのようなことをしてもらっていた……。


「というわけ」


 そんな、とエルネアが呟きます。他の者も、話さないだけで胸中は一緒でした。


『確かに私はヴィーラですが、どちら様でしょう?』


 あれは言葉通りの意味だったのです。


「皆さんは私をご存じなのですね?」


 ヴィーラは余った席にそっと座ると、怪訝けげんそうな表情で問いかけてきました。その仕草も何もかも、本人であることに間違いありません。


「本当に忘れてしまったのか」


 その後には「私のことを」が続くのでしょう。ミモルには、友人が泣きそうに見えました。


 ハエルアで再会してから、いつもの調子を崩してばかりのネディエです。ここにきて精神的打撃もピークに達しつつあるようでした。やっと見つけたのに、こんな現実ってあんまりだ。顔にそう書いてある気がしたのです。


「ともかく、これで最大の謎が解けたってわけだ」


 スフレイが言い、フェロルが頷いて引き継ぎます。


「ヴィーラさんが帰って来なかったのは、記憶を失い、戻る場所さえ忘れていたからだったのですね」

「それにしたって、おかしいわ」


 謎の一つが解明されても、疑問点はいくらでもあるとエルネアが言いました。


「そもそも何故この地にヴィーラが現れたのかが不明だし、戻って来ない理由は分かったけど、探すのにこれだけ苦労するなんて」


 全員がはっとしてヴィーラを見つめ、不安げに揺れる蒼と碧の瞳で、彼女は訳も分からずそれを受け止めます。

 そう、ヴィーラは生きて、元気でいます。記憶がなくても、主人とのつながりが切れたのではない以上、声は届くはずなのですから。


「……」


 しばらく沈黙があって、ネディエが首を振りました。試しに声を送ってみたけれど駄目だった、という意思表示です。


「教えてください。私は何者なのでしょう」


 ヴィーラが再び立ち上がり、皆をそれぞれ眺めてからややかすれた声で訴えました。


「……」


 誰もが口を開きかけ、事の難題さに動揺します。ひとつの存在を間違わずに説明することは、簡単そうでいてひどく難しいと気付いたのです。

 何がその人を、その人たらしめるのか。一言で表すのは不可能ですし、どこから話し始めればよいのか、切り出し方さえ、分かりません。


「お前……いや、貴女は」


 それでも一歩踏み出すように語りかけたのは、やはりネディエでした。

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