第17話 かなしい再会①
「無事だったんだね!」
「お怪我もなさそうで」
「こんなところで何してんだよ」
探しに探し求めたヴィーラが、目の前に立っていました。
指先が土で汚れている以外は、幸いなことに囚われているわけでも、ひどい目にあわされているのでもなさそうで、まずは一安心……と、思ったのも
「あの、確かに私はヴィーラですが、どちら様でしょう?」
ひゅうっと、北から吹く冷たい風が通り抜けます。背筋に寒気を感じたのは、ミモルだけではなかったでしょう。誰にも、何を言っているのか理解できません。いえ、理解したくないといった方が正しいでしょうか。
「お前、何を言って……」
その先が続きません。ネディエが一番、パートナーのことを知っているからです。ヴィーラがこんな場面で、こんな冗談を言うはずがないことを。
「お客さん?」
誰かの声がして、ヴィーラもそれに「はい」と明るく答えます。振り返ると、玄関に見知らぬ女性が立っていました。
脳裏に何かを呼び起こさせるような鮮やかな髪。すらっとした体形と、紅をひいた唇が垢抜けたイメージを与える二十段前半の女の人です。
「随分沢山ね。こんな
さばさばした物言いで彼女は笑いました。
驚いたことに、その女性――アレイズこそ、ソニア村の村長でした。
「親が早くに死んじゃって、跡を継いだだけ」
そんな偉いものじゃない、と些細なことのように言ってまた笑います。家は大きくないものの、中は綺麗に掃除がなされていて、新築みたいに輝いていました。
通された客間のガラス棚に飾られたティーカップのコレクションが、ここだけ
「ああそれ? 趣味で昔からちょっとずつ集めてるの。他に飾れるものもないから」
花模様が散りばめられたものや、粉雪の如く金箔が貼られた
何事もなければひとつ一つじっくり眺めたいところですが、今はとてもそんな気分になれませんでした。
「どうぞ」
部屋の中央には
用意していたとばかりに椅子が並んでいるのは、時折村の話し合いをここで行うからだと、アレイズは説明してくれました。
「あの」
勧められ、席に着く前に言葉を発したのはネディエです。彼女には椅子に腰を落ち着ける前に聞いておかなければならないことがありました。
「ヴィーラとは、どういう関係なんですか」
「関係?」
これまでの道のりはなんだったのだろうと、皆が混乱しています。ヴィーラは何者かにさらわれたのではなかったのかと。
だからこそ、こうして方々を探し、大きな街の図書館で資料を
「失礼します」
軽いノック音がして、扉が開きます。トレイに紅茶のセットらしきティーポットとカップを載せて、ヴィーラが入ってきました。
脇の棚にそれらを置き、静かに湯を注ぎます。茶葉が広がるのを待つ姿は、かつてネディエの
無事なのは良かったのですが、だったら何故戻ってこないのか、という疑問が頭をいっぱいにしていました。
そもそも、この村は恐ろしい場所ではなかったのか?
襲ってきた者達はこの件とは関係ない?
どこかで考えを間違えた……?
疑念を断ち切るように、ことり、とカップが目の前に置かれます。ふわりと甘いミルクのような香りが漂いました。
「ありがとう」
アレイズが受け取り、ゆっくりと香りを楽しんだあとで一口、含みます。一連の動作が自然で、旧知の間柄なのではと思わせるほどでした。
「それなりに長い話になるから、とにかく座ってくれる?」
そう言われては従うしかありません。ミモル達は座るというより、体の力が抜けて倒れ込むようにして席に着きました。
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