第12話 自分にできること①
「エルネアさんにお聞きにならなかったんですか」
「……怖くて聞けなかったの」
なぜ
騒ぎになるかもしれないとは思っていたのです。無用の混乱や、嫉妬や羨望などの感情を生むかもしれないとは。ミモルもそれを望まないのは一緒です。
ただ、それだけでは説明できない何かも感じていました。
「エルが悲しい顔をする気がして、聞いちゃいけないと思ってた」
おとぎ話のように、知ることで大切な何かが壊れて終わってしまいそうで、恐ろしかったのです。
「フェロル。私達はやっとのことで生きてるだけなんだよ」
青年は急かすこともなく、黙って耳を傾けています。
互いを傷つけず、波風を立てずにいられる距離は、何で測ればいいのでしょう。エルネアはいつだって、心のどこかでミモルをご主人様だと思っています。
少女がそのことについて考えを巡らせるたびに、いつも「自分は彼女に生かされている」という息の詰まる結論に辿り着くのです。
「
「神様の命令だから? 親子でも親戚でもないのに?」
そんな一方的な関係が、正常であるわけがない。少なくともミモルは平然としていられる人間ではありませんでした。
「ネディエもティストも、やるべきことを頑張ってるのに」
誰かや何かを守ったり、より良くしようと行動している彼らを前にすると、言葉にならない劣等感が膨らみます。
「私には何もないもの。ご飯を食べさせてもらって、勉強を教えてもらって、森で過ごしたり買い物について行ったりして、夜になったら眠るだけ」
出来ることと言えば、エルネアの育てる野菜や薬草に水をあげたり、彼女が請け負った服作りの手伝いをする程度でした。
「ミモル様は『やるべきこと』が欲しいのですか?」
「別に、大きな仕事が欲しいわけじゃないの。自分に背負いきれるか不安だし、大きなことは恐ろしいものを
それに、やるべきことならちゃんとあるのです。ミモルは自分に言い聞かせるように呟きました。
「今の私の仕事は『元気でいること』なんだよね」
「はい」
「でも良いのかなって、色々考えちゃって、堂々巡りなんだ」
棚に腕が当たらないように気を付けながら伸びをして、大きく息を吐き出します。不思議と呼吸が楽になって、視界が明度を増した気がしました。
「色々教えてくれて、話も聞いてくれてありがとね。なんだかスッキリした。話し相手にフェロルを選んで正解だったよ」
言って笑うと、彼もまたつられたのか苦笑します。
「僕は何もしていませんよ」
「ううん、胸のもやもやがちょっとだけ晴れたもん」
そうか、とミモルは心の中で納得しました。自分は相談相手が欲しかったのです。エルネアは心強いパートナーで深く信頼も置いていますが、あまりに距離が近過ぎました。
前を見る努力を怠らないネディエや、新しいパートナーと未だ手さぐり状態にあるティストには、吐き出せない種類の弱音でもあります。
『あんたは一人で考え過ぎなのよ』
リーセンが呆れた口調で釘を刺しました。そういえば、いつも偏りそうになる思考を引き戻してくれたのは彼女です。全く違うからこそ、うまくいくこともあるかもしれないと思いました。
「フェロルには、リーセンの声も聞こえる?」
これもエルネアには直接聞いていなかった質問です。時折聞こえているふうだったから、それ以上突っ込んで確かめたことはありませんでした。
「いえ、会話の気配のようなものを感じる程度ですね。おそらく、リーセンさんが直接働きかけるつもりにならなければ、はっきりとは届かないのでしょう」
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