第10話 教養あるまち②
そんな彼女達にヒントを与えたのは、意外な人の一言です。
「あの時は驚いた」
ネディエが笑いかけ、スフレイもそうだなと賛同します。
「いきなり目ェ細めて
「あはは……私もビックリしたんだけどね」
ミモルも頬をかいて苦笑しました。停滞した状況に痺れを切らした声の主は、誰あろうリーセンだったからです。
『今とは限らないんじゃないの』
彼女の、
『ちょっと、なに間抜けな顔してるのよ。目の前にいるでしょうが』
二言目で、やっとどこから発せられたものかを知った二人は、それでもすぐには状況を理解できなかったほどでした。
「話には聞いていたし、一度見てもいたはずなんだが」
「フツー、驚くだろ」
もっとも、その直後にリーセン本人が今度はジェイレイによって驚かされることになったのですが。
きょとんとして、
『パパ!』
全員が
「リーセン、子どもがあんまり好きじゃないから、怒ってたみたい」
「いや、怒っていたのはそこじゃないと思うぞ……」
『誰が父親よ!』
そんなわけで、リーセンはせっかく表に出てきたばかりにも関わらず退散してしまったのですが、ネディエはすでに次の行動の指針を得ていました。
見たものが今とは限らない。なら、さらにさかのぼって調べるまでです。
ミモルがハエルアに到着し、捜索の手伝いに加わってから四日、加えてそこから北の都市シュウォールドまでの移動に丸一日と、ヴィーラが消息を絶ってからすでにかなりの日数が過ぎてしまっていました。
「ハエルアで見られる歴史や地理情報は
王立図書館は国の書物を
ハエルア領主の姪という肩書があれば
「別にコムズカシイ学術書を調べようってんじゃねーんだろ。地図ならここので十分間に合うだろうぜ」
「ほう、珍しく意見が合うじゃないか」
「うるせ、お前と同調するなんて寒気がする」
「それこそ同意見だ。……そうだな。ここも、最初は小さな村だったらしい」
目的の場所である図書館までもう少しあると判断したネディエは、ふいにスフレイとの軽口の叩き合いを止めて話し始めました。町の歴史をお
「50にも満たない民家とちっぽけな教会と、あとは畑ばかりで、村人は自給自足の生活を営んでいたようだ。良くも悪くも生きることに
「解らなくもないけど……」
ミモルは頷きかけた首を捻ります。
畑の世話に朝から晩まで追われる生活の前では、「勉強を」「読書を」などという思想はただの綺麗ごとです。本も、紙とペンだって十分に貴重品だったでしょう。
「それがどうして、こんなになっちまったんだ?」
スフレイはすれ違う町の人達を、嫌そうな顔をして眺めています。どうやら先程とは違う理由からくる感情のようでした。
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