第三章 青年と少女とおさななじみと
第10話 教養あるまち①
エルネアと出かけるといつもこうなのでもう慣れたと思っていたのですが、いまや注目度は二倍かそれ以上です。ほめそやす女性達や二人の関係への憶測の声が耳に入ってきて、なんとも言えない恥ずかしさを覚えます。
「気にするな。どうせ二人しか見ていない」
同じく美しいパートナーを持つネディエが
「ヴィーラが言っていた。天使が人の目を引くのは、そのように創られているからだとな」
「どういうこと?」
「主から目をそらせるため。どんな場所でも、優位な立ち位置を押さえるためなんだ」
わかる気がしました。いつも一緒にいるミモルでさえ、天使を見ると白い光が当たって空気が輝くみたいに錯覚することがあります。別段、着飾っているわけでもないのにです。
「へぇ、なるほど」
少し離れてついてきていたスフレイが、距離を詰めて少女達の会話に加わります。
「世の中、『外見より中身』なんてのは盛大なウソだからな」
彼は言い、片目を上下に貫いて走る傷跡に触れました。
確かに、美しいものは注目を浴び、
「私達のためなんだね」
こうしてただ歩いているだけで、自分を守ることに繋がる。ミモルは嬉しさと申し訳なさを感じ、ネディエとは反対側を見下ろしました。
しっかりと繋いだ手の先にあるのは、ジェイレイのあどけない横顔です。
「おっきな町だね~」
「お腹すいてない? 食べたいものがあったら言うんだよ」
「わかった!」
どうするかと散々悩みましたが、結局連れてくることにしました。
いくら危害を加えようとしたと言っても、今の何も知らない幼いジェイレイを責めるわけにもいきません。かといって、何処かに預けてしまうのも恐ろしかったのです。
『ずっとこのまま、なのかな』
『さぁね、その方が幸せかもね』
リーセンが応えました。世の屈託を知らない子どもに戻り、全てをやり直すつもりなのでしょうか。
「いろんなにおいがするねー!」
「うん、何の匂いだろうね」
『だったら、教えてあげたいな』
自分も森を出るまでは知りませんでした。得られないものを求めて
金の髪が棚引く背中を眺めながら、ミモルは静かに思うのでした。
もちろん、この町には観光のために訪れたわけではありません。
「確かに大きな町だけど、ここで手掛かりが見付かるのかな」
「無駄足になんてさせない。絶対見つけてみせるさ」
水晶からメッセージを受け取った直後、ネディエは
広いテーブルいっぱいに
条件は、緑の深い丘があり、人が住んでいそうな場所。地図上では分からないところへは、捜索にあたっていた人員を回しました。ですが、割り出しは難航しました。
「森や山の近くになら、どこにでもありそうな景色なのに、あんなに探して見付からないなんて不思議だよね」
「景色だけならまだしも、人が住めるかと言われるとな……」
全ての条件をうまくクリアする土地がありません。そして、刻一刻と時間だけが過ぎていきます。完全に煮詰まってしまい、特に一度は取り戻した気力を再度削がれたネディエは、半ば途方にくれました。
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