第1話 意外なはいたつにん②
朝食の席で先ほどの夢について話をしようと思っていると、珍しい客がたずねてきました。
歳は二十代前半といったところでしょうか。肩にかかりそうなところで適当に切って短くしたような髪型に、身だしなみなど気にもしていない風の軽装の男です。
「ったく。ほらよ」
彼は家に入るなりキッチンの椅子の一つを占領し、重苦しい息を吐き出しました。それからズボンのポケットからしわの寄った白い封書を差し出します。
「ありがとう、スフレイ」
ミモルは礼と共に彼の名を呼び、封筒を両手でそっと受け取りました。
女性二人だけで暮らすこの家には
筋肉質な体には、かつて天から追い落とされた神の血が流れ、普通の人間にはありえない力を宿しています。
そんな事情を知らずとも彼を見て振り向く者が多いのは、右目を上下に走るように付いた傷跡と、
どちらも、とても明るい世界に生きる人間とは思えません。
「居心地はどう?」
「分かってる質問すんなよ」
エルネアがテーブルに紅茶のカップを置きながら問いかけると、間髪入れずに舌打ちが返ってきます。
「なぁミモル。あの女、なんとかなんねぇのかよ」
「ネディエのこと?」
「あの女」でピンと来たのは、こうしてたまに彼が訪れるたびに、
ネディエはミモルと同い年の少女で、ハエルアという町の領主の
朝食に出されたパンをかじりながら、ミモルは首を傾げました。
「また何かあったの?」
「ネディエはとっても真面目で良い子だと思うわよ?」
エルネアも同調した意見を述べますが、そんなフォローは耳に入れたくもないとばかりに、スフレイはむっつりと
苦虫をかみつぶしたよう、とはこういう顔のことだろうとミモルは思いました。
「あいつ、俺を雑用係とカン違いしてンだよ。やれ『荷物を運べ』だの『届け物をしろ』だの。朝から晩までコキ使いやがって」
「そんなこと言って、ちゃんとお仕事してるじゃない」
「この手紙だって、持ってきてくれたし」
口々に反論されるも、「ここに来ると休めるからだ」と吐き出し、香りも楽しまずにぐいと紅茶をあおります。
仲間に裏切られて目的を見失っていたスフレイにミモルは紹介状を渡し、ネディエのところへ行くよう仕向けました。
友人がこの常識知らずをどう扱うかは予測できませんでしたが、ミモルの意を
住む場所と食べ物を与える代わりに、仕事をさせているのでしょう。「雑用係」はあながち間違いでもないというわけです。
「なんだか似た者同士みたいね」
ふくれっ面で文句を言う姿に、エルネアが珍しくカラカラと笑います。言われてみれば、口が悪いところや意地っ張りなところがソックリでした。
「ネディエ、元気にしてる?」
「元気過ぎて困るくらいだぜ。ちっとは風邪でもひけばいいのによ」
文句を言いつつ、ただの皮肉に過ぎないことがその口調から判ります。なんだかんだと悪態をついても、ハエルアを去らないのがその証拠です。
スフレイの性格からして、大人しい相手より余程張り合いがあって楽しいのかもしれません。
「そっか。会いたいな」
封を切って手紙を取り出すと、彼女らしいビシッとした文字が目に飛び込んできます。並ぶ言葉はこちらの気持ちが分かっているみたいに、すっと胸に落ちるものでした。
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