閑話7 雪の降るゆめ①
◇ミモルとエルネアのお話です。
寒い日、とある宿屋に泊まった二人は一人の少女と出会います。
とある町の宿屋での出来事です。泊まった翌日、冷えた空気に驚いて起きてみると、窓の外は真っ白になっていました。
「……
窓際でカーテンを開いて外を眺めるエルネアの、そう言う声も白く吐き出されています。ふわっとわいては消え、また新しい息が生まれて消えました。
「この地方は雪が降るんだね」
「少し待ちましょう。良くなるかもしれないし」
昨夜遅くから降り始めたらしい雪は、天候を見る限りまだ続きそうです。二人は着替えて出掛ける準備をしたものの、今日くらいはと旅を
止むでもなく、激しくなるでもなく、しんしんと降る雪。静かに積もって、建物も遠くの海さえも白一色に染め上げるかのようです。
暖炉の火を宿の主人に起こしてもらうと、部屋の中が緩やかに温まり始めました。
「お客さん、入ってもいいですか?」
ノックの音に振り返り、エルネアが「どうぞ」と応えます。高い声から察してはいましたが、やはりこの宿屋の娘でした。ミモルと同じくらいの少女です。
明るい色の髪をツインテールに結い、鮮やかなエプロンを身に
「急にごめんなさい。ココアが入ったのでどうぞ。あの、少しお話してもいいですか?」
「ありがとう。私達も足止めされていて時間を持て余しているの。良かったらここへ座って?」
少女は嬉しそうに笑って、ココアを配ってから自分の分を抱えて、
「この雪じゃあ、お友達とも遊べなくて寂しいわね」
「そうなんです」
ココアをゆっくりと口に運びます。暖炉のように優しい甘さと暖かさが体の内側にゆるやかに広がりました。
「ありがとう。美味しいよ」
「良かった」
ミモルは久しぶりに同年代の少女と話せて嬉しく思いました。明るくて飾り気がなく、人当たりも良い子です。
宿屋の娘として育つと、自然と人付き合いが上手になるのでしょうか。
「宿屋さんなんて大変だね。色々なお客さんが来るんでしょ?」
「私はお手伝いだから、そんなに大変じゃないかな。それに、お客さんとお話しするのって楽しいし」
同い年くらいの子ども連れが泊まった時には、こうしてココアやミルクを持ってお邪魔して、旅の話を聞かせてもらうのだと彼女は言いました。
「この間はちっちゃな女の子と友達になったんだ。お世話をしてるっていう男の人と一緒に泊まっててね」
「へぇ。お世話をしてる人がいるなら、お金持ちの家の子かな?」
「そうみたい。たった一日だけだったけどね。私、その女の子と遊んだの。楽しかったな」
「羨ましいな。旅をしていると友達なんてなかなか出来ないから」
話を聞いていたミモルがぽつりと
「じゃあ、私と友達になってくれる?」
「……いいの?」
宿屋の少女はにっこり笑って手を差し出しています。この申し出にミモルは目を丸くして驚きました。
ミモルも早ければ明日にはここを立ち去り、次にいつ会えるかも分からないのに友達になろうというのですから。
「また、いつか会いに来るって約束してくれるなら、大歓迎」
いつ、とは言いませんでした。互いの一生が終わるまでに、もう一度自分と会いたいと願ってくれるなら――。
嬉しくなって、その手を強く握ります。片手では足りなくて、両手で包み込みました。
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