第16話 きず持つ刺客②
左からの強烈な衝撃に弾き飛ばされます。防御の体制を取っていても立ってはいられず、ふわりと宙を舞いました。それでも、蹴られた方の腕を庇いながら着地します。
「あれ、攻撃してこないのか? 守ってばかりじゃ勝てないぜ?」
これでは息を吸い込んだ途端に攻撃されるのは目に見えています。接近戦になれば相手の
普通の人間相手なら負けない自信はあります。けれど、この男がただの人間の度合いからは速さも威力も外れていることを、腕の鈍い痛みが教えてくれていました。
「そういや、名前をまだ聞いてなかったよな」
訊ねてきたのは相手の方で、ナドレスは一瞬怯みます。時間を稼ぎたいのは分かりますが、呑気に話かけてくるなんて何の意図があってのことでしょうか。
「身構えんなよ。単に、名前も知らない奴とやりあってるのが嫌なだけだって。
「……そっちが名乗るなら、な」
名前はそのものの身を縛る力を持っています。男がその手の術者なら、教えた瞬間にアウトだからです。彼はニヤリと笑いました。
「スフレイ。疑うなよ、俺だってこの名前しか知らないんだから」
「どういう意味だ?」
「名前を付けた親の顔なんて、知らないってことさ。だから俺はこの名以外は使わない」
男――スフレイはかぶりをふります。ナドレスは直感的に相手が嘘をついていないと悟り、自らも名乗りました。
「ふーん。なぁ、その名前って、やっぱカミサマが付けてくれんの?」
妙な人間です。鮮烈な動きを見せたかと思えば、名前に興味を強く示してくるなどとは。
思考がうまく読み込めないうちは、突破は無理そうです。時間はありませんが、ここは仕方なく話に付き合ってみることにしました。
「俺達はまず命を与えられ、そして名を与えられる。人間と同じだ」
「同じ、ねぇ。いや、やっぱ違うと思うぜ。同じだったら」
「同じだったら?」
「こんな思いをしなくて済んだのかもな」
「『こんな思い』? いったい、お前達は何の為に動いているんだ。本当にあれを復活させようとしているのか?」
ナドレスには理解出来ませんでした。断片的な話を聞いただけでも、
「滅びしか残らないじゃないか。意味がない」
彼らが何も語らない限り、結局はそこへ辿り着いてしまいます。黒い光の先にある「無」へとです。スフレイはからからと笑いました。
「意味はあるさ。俺達、黒い血を引く者にはな」
呟きと同時に、ぴりりとスフレイを取り巻く空気が張り詰めます。それが第二ラウンドの開始を告げる――はずでした。
「ちょっと! せっかく先に行かせたのに、何を足止めされちゃってんのよ!!」
暗い通路に甲高いが響き渡ります。黄色みを帯びた灯りの中で、より一層燃え立ちそうな色の髪が浮かび上がりました。
怒りを瞳にたぎらせた少女、ムイが二人に追いついてきたのです。
「一人じゃ心配だと思って追いかけてきてみれば、案の定じゃないの」
ったく、と腕を組んで鼻を鳴らします。とても十やそこらの女の子の仕草ではありません。スフレイが顎をさすりました。
「次の客は子どもか。さすがに相手しにくいなぁ」
そう言いながらも、冷静に相手を見極めようとしていることが
「どうせ自分から突っ込んで、相手のペースにうまく巻き込まれたんでしょ」
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