第四章 漆黒のつばさ
第13話 しろい霧①
「なっ」
無言で先を急いでいたミモル達は、突然のナドレスの声に足を止めて振り返りました。
「ど、どうしたの? ティストに何かあったの!?」
ミモルが走りよって問い詰めます。青年は何かに
「強い『声』を聞いたんだ。多分、送ろうとしたんじゃなくて、溢れたものだと思うけど」
「……それって」
少女にも覚えがありました。パートナーとの繋がりは、時として伝えようと思わないものまで伝えてしまうことがあるのです。
大抵が、怒りや悲しみなどの抑え切れない感情です。想像が嫌な方へと加速します。そんな不安を断ち切るようにエルネアが口を挟みました。
「ティストは何て言っていたの?」
「『嘘だ。どうして』って……、あとは」
ナドレスは青い顔をして言葉を切りました。その態度は先を促して欲しいとも、これ以上聞かないでくれとも取れるものです。ムイが、再び髪をくしゃっとかきました。
「相変わらず煮え切らないわね。ことは一刻を争うって、さっき説明したばかりなんだけど?」
ここで来るまでの間に、彼には事の成り行きを話してありました。それを思い出したのか、勇気と声とを絞り出します。
「さ、叫び声だ。俺の全身を、ティスト様の叫び声が貫いたんだ」
聞き終わる前にムイとエルネアが同時に駆け出しました。パートナーに手を引かれ、ミモルも転ばないように続きます。
「何タラタラやってるのよ! それってかなりヤバいじゃない。早く来なさい!」
「あなたが居ないと場所が分からないわ!」
「あっ、あぁ!」
ナドレスは弾かれたように走り出しました。途切れ途切れに感じられる少年の居場所。それは霧のように頼りなく危うい感覚です。
城の者は皆、「彼ら」の手に落ちてしまったのでしょうか。ミモル達は誰一人としてすれ違わない廊下を長い間進み、階段をどこまでもおりていきました。
「どこまでおりればいいの?」
自分達の足音だけを耳に留めながら足を動かしていると、気がおかしくなりそうです。まるで、終りがないような錯覚に陥ります。
ふと、ミモルはもう一人の自分がもっと傍に寄り添ってくれたらと思いましたが、何故か今回の旅では、ほとんど意識の上へと現れていませんでした。
『リーセン、どうしちゃったの?』
こちらからも呼びかけるタイミングがありませんでした。でも、それにしたところでこんなにも声を聞いていないのは久しぶりです。
『ねぇ、返事してよ』
「ミモル?」
「え? な、何?」
暗がりへおりていく行為がミモルを意識の底へと誘おうとした時、ふいに引き戻したのはムイの声だった。
「ごめん、ちょっとぼんやりしてた」
「そうじゃなくて、今――」
「ずっと下だ。多分、地上じゃない」
何かを言いかけたムイを遮って、ナドレスが断言します。僅かな時間を要してから、先程の問いに対する答えだと気が付きました。
「地下があるということ? 大丈夫かしら。この階段が地下に繋がっていなかったら、通路を探さなきゃならなくなるわ」
「あり得るわね。何か企もうって連中が簡単に入れる場所で事を構えるとは思えないし」
話している間にもミモル達は階段の最下層まで辿り着き、ぽっかりと開いた入り口から再び廊下へと飛び出します。
そこからは色とりどりの花で飾られた中庭が、柱と柱の間から確認出来ました。
「やっぱり。ここは一階よ」
「階段もここで終わりみたいだな。くそっ、まだもっと下のはずなのに。どこから行けばいいんだ?」
せめてもっと早く召喚されていれば、城の地理も頭に叩き込んで置けたのに。ナドレスはどうしようもない悔しさで胸がいっぱいになっていくのを感じました。
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