第10話 くろい男①
話の流れを変えたのはムイで、その一言には空気を張り詰めさせる効果がありました。
「それにしても、王家に神の血筋があるなんて珍しいわね」
「何が珍しいの?」
「大抵の場合、双方は対立するものじゃない」
結論から言われても、その方面の知識のないミモルは首を傾げてしまいます。エルネアが簡単に説明してくれました。
「国というくくりが出来る前、人々は神々を心のより所に日々を過ごし、その膝元である教会は集団をまとめる役割を担っていたの」
祭司は導き手であり、教会は役場や病院までをも兼ねた施設でした。
「でも、強大な権力を握るもの達が現れると、人々の心は教会から離れていったわ。それまでに抱えていた役割が分かれて、
それでも神という後ろ盾を持つ教会を、国が攻撃すれば争いになり、人心を失うことになります。結果、互いは共存の道を選び、今に至っているのでした。
「共存なら、仲良くしてきたってことじゃないの?」
「ううん。お互い、無視できない相手を苦々しく思っている気がするよ」
ティストは城暮らしで感じたことを口にします。
「この国は共存の道を選んだけど、大臣達は教会の人にまつりごとや献金について色々言われることが心の底から嫌みたいだった」
衰えたといっても、教会の持つ力は一国を
「話、戻しても良い?」
「あ、うん。たしか、王家の血筋の話だったよね」
背景を頭に入れた上で改めて考えると、確かにムイの指摘は当然のように思えました。互いに快く思っていないのなら、ティストに素養が現れたのは何故なのでしょう。
しかし、ふとミモルは素朴な疑問にぶつかりました。
「……あれ? そもそも血筋と教会って関係あるの? 私達は女神様の血を引いているんだよね。だったら、どこに所属しているかなんて関係ないんじゃないかな?」
「それが、そうでもないんだなぁ、これが」
ムイはソファに体を沈め、人差し指を立てました。
「説明するのは面倒だけど、今回のことに関係ありそうだし。ついでに教えとくわ」
神の使いは目を細め、事の次第を語りました。彼女によると、血筋の大元である女神サレアルナの魂の持ち主は、教会に連なる人間だったようです。
でもそれはずっと大昔のこと。子孫は世界中に散らばっていました。
「じゃあ、私とティストはとっても遠くの親戚ってこと?」
髪や瞳の色も顔立ちも違うけれど、根底に同じものが通っているのでしょうか。二人が互いにまじまじと見詰め合っていると、ムイアはくすくすと笑いました。
「それを言ったら今生きている人間はだいたい親戚って理屈になるわね」
そうかもしれません。人の身では想像も付かないほど、昔の出来事なのですから。
「で、これは血の性質としか言いようがないんだけど、精霊と心を通わせられる資格がある者にしか、力は現れないみたい」
つまり、教会と交わらず、神を排除しかねない「国の長」は条件に当てはまるはずがないのです。
「ティスト、何か心当たりは?」
問いかけるムイの口調は、どこか確信めいていました。それを受ける少年は、何かに気が付いたように顔を青白くさせます。
「あるらしいわね、心当たり」
ティストは何かを言おうとして――そう出来ないことに気付きました。
「わざわざ送り届けて貰って済まないね。おかげで手間が省けた」
低い声が部屋中に
「ティストっ!」
ミモルが悲鳴に似た声を上げました。その彼女をエルネアが後ろに無理矢理下がらせようとして、黒が目に付きました。
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