第6話 夢からのこえ②
「なら、いいよ。ミモルを信じるって決めた」
訳もなく涙が出そうになり、口からは
「ティストは私と同じ、女神様の血を引く人間なの。お願い、天使と契約して」
『ティストを目覚めさせて』
エルネアの指示が耳に蘇ります。彼を
ミモルは出来ることなら彼をそっとしておいてあげたかったし、パートナーも重々承知していました。その上で選択したのです。
彼は両手を交互に見、自分のどこにそんな可能性があるのかと不審がりました。
「天使と契約……? 僕にそんなこと出来るの?」
「夢でティストを呼んでいるのは、パートナーの天使だよ。その声に応えるの」
「ミモルはそうしてエルネアさんと出会ったの?」
「私の時は――」
胸がちくりと痛みます。あの時は聖女の導きで正しく召喚の儀式を行いました。
「私の時は、お母さんが手助けをしてくれたの。だから、今度は私がティストの手助けをするよ」
ミモルは彼を不安にさせないように、語気を強めました。本当はやり方など知りません。教わる前に、養母とは永遠の別れになってしまったからです。
もし何事もなければ、きっと今頃自分も聖女の知識を受け継ぐべく、故郷の家で勉強をしていたのでしょうに。
「気持ちを落ち着けて。自分の内側に意識を持っていって」
「う、うん」
二人は瞳を閉じました。世界が真っ暗になります。ティストには、少女の手が肩を優しく掴んでいる感触だけが感じられました。
「耳を澄ませて。毎晩夢を見るのは扉が開きつつある証拠だよ。起きていても声が聞こえるはず……」
天との扉。そうイメージした途端、真っ暗な世界に光の筋が生まれました。それは上が円を描いた扉の
「これが、扉……?」
「こんなにはっきり見えるなんて、凄いよ」
手伝いをするミモル自身、彼の意識が集中し始めたのを感じ取りました。互いの距離は変わらないのに、何かに吸い寄せられていくみたいです。
『こっちまで飲まれないように加減しなさいよ』
『飲まれる?』
深くシンクロしていく途中で、リーセンの忠告が発せられました。
『ティストにあまり同調しすぎると、こっちが危ないってこと』
本来、召喚の手助けとは重い扉を押す者に声をかけて応援するような作業ですが、儀式の仕方を知らなかったミモルは、後ろから背中に手を当てて力を加えていく方法を取っていました。
唐突にぞくり、と何かが少女の背を走ります。
「声が……聞こえる」
「なに、これ」
ティストが言い、確かにミモルも耳障りな何かを聞きました。たとえるなら、「光の糸」でしょうか。エルネアとの繋がりよりずっと希薄で、今にも切れてしまいそうな糸です。
そして、気分が悪くなってきました。汗が
『あんたにまで声が届くなんて、同調のし過ぎよ。手を離しなさい!』
はっとして目を見開きました。同時に触れていた手を離し、尻餅を付いて後ろに倒れ掛かります。全力疾走した後みたいに息が乱れました。
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