第2話 つかいの訪れ②

「……そうさく?」


 聞きなれない名前と突然の命令に、ミモルは首を傾げます。

 知らない者を何故自分が探さなければならないのか。そもそも、どうやって探すのか。エルネアも怪訝けげんな顔で神の使いを見詰めます。


「サレアルナ様は、今は失われた女神。第五の創造神」

「ちょっと待って。私は知らないわ!」


 さらりと言われたセリフに、遮る声が上がりました。


「だから、失われたって言ったでしょ」


 話にまたしても付いていけていないミモルは、二人を交互に見比べます。


「なんのことだか良く分からないけど……。エルも知らない神様なんて居るの?」

「証拠は、目の前のあなた自身よ」

「えっ?」


 ムイはびしりとミモルを指差しました。外でするべき話ではないようだと、二人はムイを台所へ案内しました。

 まだ朝食の準備も出来ておらず、昨晩綺麗に掃除したままの状態です。


 いつもならミモルのために卵を焼いたりしているのにと思いながら、エルネアは主と客人のために紅茶をいれて差し出し、自らもテーブルにつきました。

 それだけで、冷え切った場にほんの少し生活の熱が灯ります。


「力が血によって受け継がれることは知っているでしょ」


 言われ、ミモルは炎の精霊がそのようなことを言っていたことを思い出しました。

 神の血と、力を継ぐ者。全ての精霊と契約したもののみが知ることを許される、存在の理由です。


「契約者こそ、サレアルナ様の血に『選ばれし者』なの」

「女神さまの、血……?」


 エルネアの反応から察するに、神と呼ばれる存在は複数いるようです。 ムイは頭をかきながら、自分も聞いた話でしかないと前置きしてから口を開きました。


「初め、六つの大いなる力があった。力は一つの世界を創り、『天』と名付けて、自らの形をも創られた。力は……神々はそれぞれに『使い』を生み出し、さらに天使を創られた。天は賑やかになり、しばらくは平和が続いた」


 エルネアはぴりりという痛みを覚えてこめかみを押さえました。


「エル、大丈夫?」

「えぇ。続けて」


 これは天使の存在に関わる話ですが、彼女にとっては寝物語に過ぎないはずです。何故、こうも頭の隅を刺激するのでしょうか。


「神々は新しい世界をお創りになった。様々な生き物を生み出し、その中には人もいた。そこは『地上』と名付けられた。神々は地上を眺め、人々は神をあがめる。そんな日々が、ある時からゆっくりと傾いていった」


 話の気配が変わって、ミモルはぎくりとしました。

 辛そうな表情のエルネアのことが気がかりである一方で、ムイの語る物語にきこまれているのも事実です。体が、無意識に前のめりになります。


「六つの力――六神うちの一柱が、心を乱し、自らの意思を押し通そうとし始めた。全てを自分で支配したがった。世界も、人も、天使も、神々さえも。他の神々は怒り、悲しみ、止めようとした。けれど、聞き入れられることはなかった」

「どう、なったの?」


 ムイは目を伏せ、「争いが起き、二つの血が流れた」と言いました。


「天使達から『よこしまな神』と呼ばれるまでにけがれたその神は、封印された」

「……もう一つの血は?」

「そのお方が、女神サレアルナ様。封印された神に最も改心を望んでいた。けれど、想いが届くことはなかった。戦いの中で深手を負い、危うい状況に陥り……」


 もう、どうなったの、とは聞けませんでした。悲しい話の結末を、知りたくないと心が訴えています。


「自らを犠牲ぎせいにして、邪な神を封印するくさびとなる道をお選びになった」

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