第2話 つかいの訪れ①
その時、ノックの音が二人を振り向かせました。再びコンコンと二回扉が鳴ります。
「他にお客さんが来る予定はないんだけれど。……どなたですか?」
開く前にエルネアがそう問いかけるのは珍しいことでした。
こんな森の奥に何の用もなく訪れる者などいませんし、彼女は足音や気配で相手が誰なのか、ある程度判断出来るのです。
「ちょっと、開けてくれない?」
少女と思われる声でした。少なくとも、先ほどのお客さんが戻ってきたのではないことだけは確かです。エルネアはミモルに目配せし、頷きあってから玄関を開きました。
「迎えに来たわよ、ミモル」
「えっ?」
年齢はミモルと同じくらいでしょうか。陽光のような明るい色の髪を頭の左上で結い、鋭い瞳で見詰めてきます。
動きやすそうな服装ではありますが、とても森歩きに適しているとは思えませんでした。
「『迎えに来た』って、どういう――」
「あなた、あの方の使いね」
戸惑うミモルを遮って、エルネアが不安げに問いかけます。少女も「そうよ」と答え、素性を隠す気はないようでした。
「私はクロノ様に仕える者・ムイ。でも、今回はあの方々の総意を受けて来たの。天使エルネア、この意味が分かるでしょ?」
「総意、ですって……?」
エルネアは顔色を青くし、顔を俯かせました。言葉がそれ以上続かないようです。
子どもとも思えない話しぶりにミモルは目を白黒させていましたが、内容の端々から気付くことはありました。
「えぇと、もしかして……天から来た人なの?」
パートナーの正体を知っていることからしても、それくらいは想像が付きます。エルネアが応えました。
「そう。人の言葉で表現するなら、神の側近ね。私達は『使い』と呼んでいるの」
「『使い』……。天使ではないの?」
ミモルには天のシステムなど分かりません。大多数の人間がそうであるように、神の使いは天使を指すものだと思い込んでいました。「使い」という少女は首を振ります。
「違う。私達は翼を持たない。常にあの方々の傍で働く補佐のようなもので、一人の神に一人しか存在しない」
とんでもないことが起こっているとミモルはようやく感じました。神様のたった一人の側近が自分に会いに来るなど、普通ではありません。
「そんな人が、私に一体何の用が……」
言いかけてはっとします。
「ま、まさか罰を与えに来たんじゃあ。あれは私が全部決めたことで、エルは従っただけだよ。だから罰するなら私だけにして!」
以前の旅において、エルネアは天使として間違った選択をしていました。そのことは聖域の主から指摘されています。
いずれは天の知るところになるだろうと予測してもいました。でも、何の音沙汰もないので最近では忘れかけていました。今更、処遇が決まったとでも言うのでしょうか。
「あぁ、エルネアの、以前の主の記憶を呼び起こす恐れがある情報との接触、ね。あれについては不問になった」
『えっ?』
驚きが重なります。少女は面倒臭そうに溜め息を付き、言いました。
「結果的に悪魔を退けてミモルを守り通した。記憶も蘇っていない。マカラとニズムの逃亡を許した件についても――」
「ちょっと待って。二人は無事なの?」
ミモルの制止に彼女は頷きます。
「あれにしたところで、あなた達の責任ではない。というのが天の総意。他に質問は?」
きつい性格なのと思いきや、ぺらぺらと喋るのも嫌いではないのかもしれません。ミモルは頭が今のことでいっぱいになっていたけれど、全て横に押しのけて訊ねました。
「じゃあ、どうして私のところに来たの?」
「単刀直入に言う。あなたにはサレアルナ
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