第35話 生まれのこたえ②
『その答えは私が示そう』
「フィア?」
声が聞こえ、炎が二人の前に生まれました。それは一気に燃え上がり、人の形を取ります。
根本から先にかけて橙から紅に染まる髪、赤い瞳。象徴に過ぎないと理屈では分かっていても、傍に居るだけで熱を感じそうです。
『炎は記憶を届ける役にはない。何もかもを焼き尽くし、消し去る定め。代わりに答えを与える使命を持っている』
「答え?」
『生まれの答えだ』
いきなり現れてそんなことを言われても、ミモルには何のことだか理解できませんでした。それを、どうして今教えてくれるのかも、です。
『必要とする者に、答えを与えるために』
つまり、ミモル達に今必要だから、ということでしょうか。返事を待たず、フィアは語りました。
『お前達が選ばれる基準は、神の血を引いているか否か。そして、その血が濃いか否かにある』
「神様の血……?」
エルネアはまた頭痛がするのか、こめかみを抑えて眉間に皺を寄せています。
『ただ一つ言えるのは、その血のためにお前達は神の力の一端を使うことが出来るという事実。故に神は人に天使を遣わし、力の制御を促す』
答えになっているのかいないのか、ミモルは首を捻りました。突然、あなたは神様の血を引いています、などと言われても困ってしまいます。
「どうして?」
『それを語ることは許されてはいない』
なんともそっけない返事ですが、これまでの旅で理解もしていました。彼らはそういう存在なのです。神によって創られ、神の意思に沿って生きる者達なのです。
答えられないと言っている相手に無理に喋らせようとしても仕方がないと、別の質問をしてみることにしました。
「えぇと、じゃあ……あの植物が枯れちゃったのは、血のせいなの?」
『そうだ。悪魔を封じるために作られたこの世界のあらゆる物質は、神々の前には無力に等しい。その証拠にあの幻を私の炎で焼き尽くしてみせよう』
「幻?」
火の精霊の手の平に、小さな炎が生まれる。そっと放つとたちまち蔦を焼きはじめ、すぐに塔は巨大な建物から炎の柱に変わりました。
直後、空気が
「あの姿は偽物だったんだね」
『この世界そのものが幻に近い。塔はお前達には無用の場所だったから消したに過ぎない』
目指す場所はここではないと言いたいのでしょうか。あの先にもっと恐ろしい光景が広がっていると?
ミモルは数歩前へ出て塔があった場所を確かめます。でも、やはり何もありません。足元では蔦がするすると避けて道を作りました。嫌われているみたいです。
そうか、とだけフィアは言い、役目を終えて消えていこうとしました。
「あ、待って。最後に一つだけ質問して良い?」
『答えられることなら』
「私は……人間、だよね」
びくりと天使が肩を振るわせます。
『たとえ神の血が流れていようと、力が与えられていようと、人であることに変わりはない』
「そっか。ありがとう」
今度こそ辺りに火の粉をまき散らし、フィアは消えました。精霊を見上げていた顔を伏せ、少女は
「凄くほっとしてるんだ。良かったって安心してる。こんな状況なのにね」
「ミモルちゃん」
「故郷であんなことがあって、ここに来るまでだって色々あったし。どんどん自分が変わっていくのが、怖かったのかも」
旅の途中で様々な相手と知り合い、知識と力を手に入れました。だからこそ、自分が人であるという確かな証拠が嬉しかったのでしょう。
「どんなに変わってもあなたはあなたよ。そして、隣にはいつも私がいるわ。さぁ、今度こそ旅を終わらせましょう」
「うん」
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