第26話 かたい決意②

 前日と同じ部屋へ、前日と同じようにコカレの案内で通されると、すでに座って待っていたネイスが立ち上がって挨拶をしました。表情には迷いがなく、彼の決意を思わせます。


 座るように促され、誰ともなく席に着きます。きちんと受け止めると決めてはいても、こうして向かい合うとまた違った緊張をミモルは覚えました。


「何からお話したら良いのか、昨日一晩考えあぐねていました。……でも」


 口火を切ったのはネイスの方でした。肘をテーブルにつき、両手を組んであごを乗せます。しかしすぐにすっとその手を解き、掌をこちらに見せました。


「こうしてお二人を前にして決心が付きました」


 ごくりと息を呑む音が聞こえます。少女が、それが自分のものだと気付くのに、数秒を要しました。深く息を吐き、刹那せつな、止めます。


「まずはやはり、七百年前に起こったことから説明しましょう」

「昔起こった、悪魔との戦いのことね?」


 彼は複雑そうな瞳でエルネアを見つめ、頷きます。


「七百年も前のことですから、人間にとっては、『昔』と表現しても差し支えないでしょうね」


 七百年前について知っていることといえば、ダリアのように悪魔を召喚してしまった友人を助ける為、とある少女が天使と旅に出たこと。

 そして悪魔を見事に倒して事件を解決したという話だけです。


「私が知っているのは、旅に出た少女がチェクという名だったことと、同行した天使がエルネア――あなただという事実です。その旅の中で、私達は顔を合わせていますから、間違いありません」

「そんな」


 彼女の唇からは小さくこぼれたきり、しばらくは何の音も発することがありませんでした。


「で、でも、私は。私には実感がないわ。チェクとパートナーだったことは思い出したけど、他のことは一切覚えていないの。あなたの顔だって……」

「先代の主を思い出したのは、あなたに遺した思いが神々の封印に穴を開けるほど強かったからでしょう」


 その思いに全力で応えていたら、記憶は全てよみがえったかもしれないと彼は推測しました。

 戻らなかったのは、現在の主であるミモルへの思いがエルネアの中で根付きつつあるからではないかと。


「記憶を取り戻せば、今のあなた達の関係が壊れてしまう恐れがある。そもそも神々の封印は、そのために行われるのですから」


 ミモルは少なからずショックを受けていました。覚醒かくせい阻害そがいしているのが自分だと知り、どの感情に従えばよいのか分からなくなったのです。

 けれども、今更迷って、これ以上パートナーを苦しませるのは嫌でした。


「……話を戻しましょう。チェクは、友人だった少女を助けるために旅をし、仲間を得ました。仲間の中には、天使ヴィーラ、そしてニズムという少年がいました」

「待って。今、何て……」


 少女も天使も耳を疑いました。

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